強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*

文字の大きさ
上 下
27 / 37

歩き出す、恋心 13

しおりを挟む


ぐったりだ。

「お待たせしました。こちらをどうぞ」

礼儀正しい声とともに、目の前に置かれたコーヒー。

「…どうも」

あのメッセージを頼りにたどり着いた場所に赴けば、俺には縁のないタワマン。

『1005と押して、ロックを解除してもらってください』

と、まるで到着したのを見ていたようなタイミングでメッセージが届いた。

機械的な声の対応。

開いた自動ドア。エレベーターでさっきの番号通りに10階へ上がってみた。

ドアの前には、いかにも執事でございます…な上品そうな老人。

老人って言っていいのか、ためらうほどの空気をまとった男性?

(表現しにくいな、こういう相手って)

「お待ちしておりました。どうぞ中へ」

と、案内されて、従うように入るしかなかった。

「……これ、すっごく美味しいです!」

「それはよかった。こっちもおすすめだから、食べてみるといいよ」

「わあっ。どうしよう。こんなに食べたら、太っちゃう」

「あぁ。その心配はいらないよ? ローカロリーなケーキばかりだから」

「…もう! そうやって誘惑するんだから。……どうしよう。全部食べたいくらい」

「食べられなかったら、テイクアウトしたらいい」

「えぇっ。いいんですか?」

案内されて進んでいく奥の部屋はドアが開けっぱなしになっていて、会話が丸聞こえ。

(やっぱりそういうことか)

捕獲されたのは、あいつ。

「思ったよりも遅かったですね」

入った部屋の窓際で、優雅にカップとソーサーを手にした藤原が笑っている。

「お前な」

「あ、先生!」

その傍らには、見たことがないような服装の彼女が座ってて、ニコニコしながらケーキを頬張っていた。

「藤原、ちょっとこっちに来い」

彼女の前から、今、自分が入ってきたドアの方へと手招きをする。

「……なんですか」

めんどくさそうな声色のわりに、何とも言えない笑顔で。

「お前、メッセージが短すぎ。説明する気、なかっただろ」

ため息まじりにそう愚痴れば、「えぇ」と肯定される。

「しろよ、説明」

文句を言ってみても、どこか楽しそうに笑うだけ。

「さあ、先生もこちらへどうぞ。先生は甘いものはあまり召し上がらないんですよね」

「え、あ、あぁ」

「…加納。こちらの方にコーヒーを。ブラックでよかったですよね」

と、さっきの執事っぽい男性に声をかける。

「は、あぁ」

「あぁ、ビターなチョコだったら召し上がりますよね。…加納、準備を」

「かしこまりました」

「…………」

言葉が出ない。

俺の飲み物とかの好みを知っているって家族や彼女ならいざ知らず、ただの部員っていうか生徒で、しかもこいつは男で。

(俺はなんでここに呼ばれたんだ)

どうしてか藤原の部屋にいる、俺の彼女。

パッと見、部屋の空気は悪くない。

悪くはないんだが、呼ばれ方が問題だ。

「あたしもこれくらい作れるようになりたいなぁ」

何個目のケーキかわからないものを、満面の笑みで咀嚼しているのは俺の彼女。

(なんか、俺とのデートの時よりもリラックスしてて楽し気に見えるのが面白くない)

胸の奥のモヤモヤする存在をもてあます。

嫌でも見ろと言われているようで、たまらない。

“俺なんかよりも同年代の方が、こんなにも楽し気に気楽にしていられる”

という、事実を。

「先生。そろそろ落ちつきましたか?」

俺にそういいながら、彼女へさりげなく紅茶を手ずから淹れてやっている。

対応の違いに、若干イラつく。

普段は女生徒が集まってきていても、曖昧に微笑むだけで特別何かをしてやるわけじゃない。

クールなところが好かれているって聞いていたが、目の前の藤原は紳士だ。

そして、甘い。

「クリームがついているよ?」

なんて言いつつ、彼女の口元を指先で拭ってやるほどなんだから。

「……か…神田」

一瞬、名前の方で呼びそうになった。

独占欲丸出しになって、余裕がないと思われる気がした瞬間、開きかけた口を一度閉じた。

そんな俺の気持ちなんか知らないかのように、ただただ目の前のスイーツに喜んでいるだけの彼女。

「先生も試しに食べてみたらいいのにっ」

とかなんとか、なんの裏もない笑顔でそう言ったんだ。

戸惑う俺と、楽し気な彼女。

藤原はずっと穏やかな笑みを浮かべて、ゆっくりとコーヒーを飲んでいた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...