20 / 37
歩き出す、恋心 6
しおりを挟む「今日は、タバコ吸わないの?」
車の中。
不意に聞かれた。
今日はいつもと雰囲気が違ってて、ちょっと大人びたワンピースなんか着ててさ。
「せっかく可愛い格好してんのに、タバコの匂いつけるわけにいかないかなって思って」
俺なりに大事にしたいと思ってした行動。
「そ……、でも…っ。……無理、してない?」
何かを言いかけて、結局聞いてきたのは俺のタバコの心配かよ。
「言いかけたことがあるんだったら、言っていいんだからな」
ゆっくりと車は走っていく。
海沿いの町。
小さな小さな町の、とある神社。
俺なりに調べて、ここだったら誰にも会わずに初詣が出来るかもしれないと思ったのと。
(実は恋愛ごとのお願いったら、ココ! って、聞いたことがあるんだよな)
同じように来るやつがいるかもしれなくても、日にちをズラしたし、きっと大丈夫だろう。
俺も学校にいる時とは格好が違うし、なによりこいつが普段と違って見える。
(俺がこんな風に変えたのか。それとも俺と付き合いはじめてから、ずっとこんな感じなんだろうか)
チクッと胸に刺さるような、自分への嫉妬。
行き場のない思いを持て余す。
小さくため息と吐くと、不安げに俺を見つめる視線に気づく。
「どうかしたの?」
小さな声で聞いてきて、俺の左ひじのあたりの上着をクンッと引っ張った。
「ん? なんでもないって。ちょっと道が悪いから、無事に初詣に行けるようにって思ってただけだから」
とかなんとか、テキトーに言い訳する。
本当は自分と闘っていますだなんて、言えるはずがない。
「……さっき、言いかけたこと、言っても…怒んない?」
上着をもう一度軽く引っ張って、俺へと遠慮がちに聞いてくる。
「言ってみな? 怒るにしても、聞いてから判断するし。ってか、そんなに俺、なんでもかんでも怒ってるか?」
信号待ちの隙に、チラッと彼女と視線を合わせ、微笑んで見せた。
そんな俺の顔を見て、首を左右に振って”ううん”と否定してくれた。
(意識がない時の自分がわからないだけに、ほんと…探り探りだな)
なんでもかんでも怒る俺ではなかったようで、胸をなでおろしたい気分だ。
「で?」
信号が変わり、車はまた走り出す。
「ん、とね?」
ちょっと甘えた感じで切り出すのが可愛い。
「うん」
相槌を打ったのに、その後が。
「……………………」
長い。
どうしたのかと思いつつも、急かすつもりはなく運転をしながら言葉を待ってみる。
「好きなんだ、あたし」
やっと切り出したかと思えば、そんな言葉で。
「????」
主語がない。
前を見ながら、頭の上にはクエスチョンマークがポコポコ浮かんでいる。
「だから、あまり遠慮しなくっていいのにって…思ってて」
「……悪い。主語をくれ」
苦笑いしながら、かろうじてそれだけ返すと。
「あっ」とか言って、どこか恥ずかしそうに照れながら言葉を続けた。
「先生の…タバコの匂いと、先生がタバコ…吸ってるところ」
視界の端っこにちらっと入り込む、彼女が胸の前でもじもじしながら一人恋人繋ぎっぽく手を組み合わせている。
「だから、その……先生と一緒、って…感じがして……好き」
声色は明るくて、照れてて、可愛くて、弾んでて……可愛くて。
俺が聞きたかった、”俺のどこが好き”の一部分。
これしかないのかもしれないし、欠片なのかもしれないし。
手の甲を口元にあてて、ニヤけそうな顔を隠す。
「せんせ…ぃ?」
とくんとくんと胸の奥で、いつもと違う心臓の音がしている。
「……はあ、可愛い」
思わずもれてしまったその言葉に、隣に座っていた彼女が勢いつけて窓の方へと顔を向けていた。
その耳は、真っ赤になってて、二人して何やってんだろうと思いつつも。
(これが、恋だっけ)
懐かしい感覚に、このまま身を任せて溺れてしまいたい気持ちで胸がいっぱいになっていった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる