17 / 37
歩き出す、恋心 3
しおりを挟む(あぁ、もう、嫌だ)
強制フラグってやつか? これも。
最近は、あの張り切ったような声がしないもんな。
だいたいなんで俺に聞いてくるような言い方だったんだろうな、あの時。
『強制フラグを発動しますか?』
ってさ。
選択肢が与えられるうちは、まだマシって考えた方がいいのか?
「はぁあああ」
前髪をかき上げながら、盛大にため息を吐く。
「なんだよ、朝から疲れてんの? センセ」
「オッサンだもんな、俺らからしたら」
「……ほっとけ。それより、さっさと教室に入れよ。お前ら」
「オッサンって言われたから、機嫌悪くなったんだな。な?」
「あー、はいはい。わかった、わかった。早く教室行かねえと抜き打ちテストするぞ、お前ら」
「…うっ。や、やめろって…それだけは」
「やっべ。行くぞ、お前ら」
にぎやかな朝だ。
あいつとのことやさっきまで部屋で悶々としていたのが嘘みたいな。
「……おは、よ…ございま、す」
時計に一瞬視線を動かしたら、背後から小さな声が聞こえた。
「…………ん」
ん←って、なんだ!
ん←って、なんだよっ!
視線を彼女に合わせると、どこもおかしくないのに、髪を手のひらで撫でつけたり、制服を手のひらで整えていたり。
「神田」
俺がそう、彼女の名を呼んだのが分岐点だったのか? ってなタイミングで。
「今日も、可愛い」
軽く振り返るような格好で、そう彼女に囁いていた。
俺が決してしないだろう囁きに、肩先をピクンとさせ固まった彼女。
でも一番固まっていたというか、動揺していたのは他でもない俺。
(ちょ…なにしてんの? 俺)
俺が顔を離すと、耳まで真っ赤になってしまったままフリーズする彼女がそこにいた。
(やっちまった)
とかなんとか後悔したところで、自分でその行動をしようと決めた感覚がない。
なんとも無責任な感じがして、俺は口を尖らせた。
こっちに聞こえる状態の予告がなかった。
(作者だけに、好き勝手に展開を決める権利があるもんな)
キャラクターとしては、大人しく従うってのが正解なんだろうけど。
「……はぁ」
すこしうつむき、前髪をかきあげる。
「まいった…」
小さくボヤいたはずだったんだ。
なのに、さ。
「先生?」
周りの生徒らは、遅刻しないようにって小走りで玄関へと向かっているのに。
「…あの、ね?」
目の前の彼女は、俺を心配そうに見上げて。
「手を出して?」
なんて言ってから。
俺に右手を重ねるようにして、なにかを手のひらに乗せて、左手でそれを包み込むように。
(いや、隠すように?)
結果的に彼女の両手で俺の左手を、ぎゅっとされた。
そうして、囁いたんだ。
「あとでこそっと食べてね?」
って。
まるで言い逃げのように、それだけ囁いたらダッシュしていなくなった。
ゆるく握られたままの、俺の左手。
「食べてね? って、一体」
人気がなくなった校門にもたれかかって、すこしだけ手のひらを開く。
「……あ」
小さな袋にクッキーが数枚入っている。
その袋は、ほんのりあたたかくて。
人目につかないように、また手のひらをゆるく閉じておく。
もしかしてずっと手にしていたのかもしれない。
片手にはクッキー、反対の手で口元を隠す。
「ダメだ、ニヤけちまう」
とっくに大人のはずの俺なのに、こんな些細なことで簡単にほだされている。
作者に好き勝手にされているというよりも、もしかしたらあいつの好きなように誘導されている気にすらなる。
でも、嫌じゃない。
もしも後者ならば、好き勝手されたっていいんだけどな。
(なんて考えている時点で、とっくにダメダメだな)
恋愛って、いくつになっても人をダメにする。
「とはいえ、だ」
俺は教師、あいつは今はまだ生徒。
ゆるんでいた口元をきゅっと引き締めて。
「さ、行くか」
俺も校舎へと足を向けた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる