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いつ、誰がこの恋をはじめた? 14
しおりを挟む「力みすぎ。あと、足はそろえるな。朝礼で並んでるみたいなやつな。肩幅程度は開いとけ」
それと…といいつつ、ボールを一旦床に置き、ひじの高さや利き足を聞いて位置を調整したり。
「ひざを柔らかく使う感じで、ボールを持たせて……。それから」
一緒になってボールを持ちながら、細かく教えていく。
「まずは、最初に言ったように、体の力抜いてー」
「うんうん」
「俺が隣で同じように打つから、頭の中にイメージもしっかり作って打ってみろ。イメージって、結構大事だからな」
「うんうん」
「…聞いてるのか?」
「うんうん」
「かぁんだぁあ?」
「き、聞いてますってば」
あまりにも同じ返事ばかりだったから、ほんのちょっとだけ圧をかけてみたけど、逆に嬉しそうにしている。
「ま、いいけどな。とりあえず打ってみるか」
いいつつ、ちょっと待てと手で制して、近くに転がっているボールを拾ってくる。
「ここにあるだけ、いってみよう」
俺も約束したように、彼女の横に立ってボールをかまえた。
「じゃ、いくぞ」
「はいっ」
「うん、いい返事だ……っと。ほい」
吸い込まれるようにゴールへと向かうボール。
「うわっ」
「ほら、お前の順番」
「は、はい」
「リラックス!」
「あ、はい!」
一本目は、届かずに落下。
「…ほい、二本目」
「むー」
俺に続けて、二本目を打つ彼女。
「あ!」
リングに触れたのに、跳ねて外れる。
「惜しい! さ、次!」
三本目を打つ俺を見て、彼女は何度か頷いてから息をふぅと吐いて、ゴールの方へと目を向けた。
(……あ)
体に余計な力が入っていなかった。
ひじの高さもよかった。
シュートを放った後の姿勢も良し。
「あぁっ」
危うくまた跳ねて外れるかと思ったけど、シュートが決まった。
「ちょ、え、やだ、ほんと? え?」
入ったっていうのに、本人が疑ってるって。
「出来たんだから、素直に喜べばいいだろ」
「だって、入れ! って念じたけど、こんなにすぐに入るだなんて」
「よかったな」
一歩踏み出して、彼女の頭を手のひらでポンとする。
俺に目を合わせたまま、彼女が。
「神……田?」
ぽろぽろと、涙をこぼす。
「どうした? 嬉しくてか? それとも俺が触れたから…」
「違う、の」
ぽろぽろと、涙を流しながら、どうしてか微笑んだ。
「お前、なんで…そんな」
辛そうな笑顔。
微笑みながら泣く彼女をみて、自然と体が動く。
(これも小説の流れとか、いわないでくれよ?)
と、願いながら。
「悪い、神田」
小さな声で謝ってから、もう一歩彼女へと近づいて。
「そんな顔して泣くなよ」
自分の胸元へ、右腕を彼女の頭に回して引き寄せた。
無意識な俺は、眼下にある彼女の頭に唇を寄せる。
小さなリップ音がした瞬間、彼女がガバッと顔を上げる。
「せん……」
目にはまだ涙が浮かんでて。
一瞬、口が開き、何かを言いかけてから唇をきゅっと結ぶ。
「言いたいことあったらいえよ」
大丈夫か? と心配になってそういえば、小さな声で何かを呟いた。
「え? なんて?」
首をかしげて聞き返すと、わずかなためらいのような間の後にポツリ。
「ごめんなさい」
と、なぜか謝ってから。
「……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
どこか苦し気に、胸の奥から押し出したセリフみたいに呟いた。
重なる視線。
静かな体育館で、俺は彼女を抱き寄せたまま、彼女から目が離せなくなっていた。
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