14 / 37
いつ、誰がこの恋をはじめた? 14
しおりを挟む「力みすぎ。あと、足はそろえるな。朝礼で並んでるみたいなやつな。肩幅程度は開いとけ」
それと…といいつつ、ボールを一旦床に置き、ひじの高さや利き足を聞いて位置を調整したり。
「ひざを柔らかく使う感じで、ボールを持たせて……。それから」
一緒になってボールを持ちながら、細かく教えていく。
「まずは、最初に言ったように、体の力抜いてー」
「うんうん」
「俺が隣で同じように打つから、頭の中にイメージもしっかり作って打ってみろ。イメージって、結構大事だからな」
「うんうん」
「…聞いてるのか?」
「うんうん」
「かぁんだぁあ?」
「き、聞いてますってば」
あまりにも同じ返事ばかりだったから、ほんのちょっとだけ圧をかけてみたけど、逆に嬉しそうにしている。
「ま、いいけどな。とりあえず打ってみるか」
いいつつ、ちょっと待てと手で制して、近くに転がっているボールを拾ってくる。
「ここにあるだけ、いってみよう」
俺も約束したように、彼女の横に立ってボールをかまえた。
「じゃ、いくぞ」
「はいっ」
「うん、いい返事だ……っと。ほい」
吸い込まれるようにゴールへと向かうボール。
「うわっ」
「ほら、お前の順番」
「は、はい」
「リラックス!」
「あ、はい!」
一本目は、届かずに落下。
「…ほい、二本目」
「むー」
俺に続けて、二本目を打つ彼女。
「あ!」
リングに触れたのに、跳ねて外れる。
「惜しい! さ、次!」
三本目を打つ俺を見て、彼女は何度か頷いてから息をふぅと吐いて、ゴールの方へと目を向けた。
(……あ)
体に余計な力が入っていなかった。
ひじの高さもよかった。
シュートを放った後の姿勢も良し。
「あぁっ」
危うくまた跳ねて外れるかと思ったけど、シュートが決まった。
「ちょ、え、やだ、ほんと? え?」
入ったっていうのに、本人が疑ってるって。
「出来たんだから、素直に喜べばいいだろ」
「だって、入れ! って念じたけど、こんなにすぐに入るだなんて」
「よかったな」
一歩踏み出して、彼女の頭を手のひらでポンとする。
俺に目を合わせたまま、彼女が。
「神……田?」
ぽろぽろと、涙をこぼす。
「どうした? 嬉しくてか? それとも俺が触れたから…」
「違う、の」
ぽろぽろと、涙を流しながら、どうしてか微笑んだ。
「お前、なんで…そんな」
辛そうな笑顔。
微笑みながら泣く彼女をみて、自然と体が動く。
(これも小説の流れとか、いわないでくれよ?)
と、願いながら。
「悪い、神田」
小さな声で謝ってから、もう一歩彼女へと近づいて。
「そんな顔して泣くなよ」
自分の胸元へ、右腕を彼女の頭に回して引き寄せた。
無意識な俺は、眼下にある彼女の頭に唇を寄せる。
小さなリップ音がした瞬間、彼女がガバッと顔を上げる。
「せん……」
目にはまだ涙が浮かんでて。
一瞬、口が開き、何かを言いかけてから唇をきゅっと結ぶ。
「言いたいことあったらいえよ」
大丈夫か? と心配になってそういえば、小さな声で何かを呟いた。
「え? なんて?」
首をかしげて聞き返すと、わずかなためらいのような間の後にポツリ。
「ごめんなさい」
と、なぜか謝ってから。
「……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
どこか苦し気に、胸の奥から押し出したセリフみたいに呟いた。
重なる視線。
静かな体育館で、俺は彼女を抱き寄せたまま、彼女から目が離せなくなっていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる