11 / 37
いつ、誰がこの恋をはじめた? 11
しおりを挟む(俺が、おかしい)
彼女によって、大切なもののように包み込まれた俺の右手。
行きどころを失った左手が、俺の意思しない動きをする。
「……神田」
誰かが来るかもしれないのに、見られるかもしれないのに。
気づけば神田の右肩に触れ、グッと自分へと抱き寄せていた。
「せ、んせ…ぃ」
震える声で、俺を呼ぶ。
抱き寄せた彼女の頭に自分の顔を乗っけるようにして、頬をすり寄せる。
その行為はまるで、彼女に甘えているような錯覚をしてしまいそうだ。
短い時間だったんだろうけど、感覚的には長いことそうしていたよう。
神田が俺の胸元に顔を寄せて、すり…と小さな音がした瞬間。
「っっ! ご、ごめ…っ」
剥がすかのように、彼女の体を勢いつけて離す。
「……え」
目を見開き、どこか悲し気な顔の彼女。
それに対して、俺は戸惑うばかり。
俺の方が大人だってのに。
俺の方が、きっと経験豊富のはずなのに。
(こういう感情に振り回されるのも、はじめてじゃないはずなのに……)
中途半端に名前が付きかけた感情を、俺はどうしたらいい。
作者が与えてきたものか、俺の中に自然と生まれたものか。
不安定な感情に、思わず顔を歪めてうつむく。
「あの、ね。先生」
黙ったままの俺より先に、神田の方が動き出す。
「今日、この後、保健室で包帯の巻き方とか教わりに行ってきてもいいですか? って聞きに来たんです」
どこか遠慮気味に、俺の様子をうかがう。
「あ、あぁ。うん、行ってきていい。部長に告げてから行くようにしろ。…お前がいなかったら、途端にダラけるやつらばかりだから」
とかなんとか、ちょっとくだらない話も交えて返す。
「わかりました。じゃあ、一回戻って部長に話してから行ってきますね」
そういってペコリと頭を下げて。
(…ん?)
下げて?
「どうした?」
思わず、そう声をかけてしまったほど、頭を下げたままで動かなくなった。
「……神田?」
うつむいたまま、視線も床に向かっているままで。
「かん……」
呼びかけた名前。
よく見ると、かすかに体が震えていて。
「…………な、んでも、な…ぃ、です」
不自然なほど頭を下げた格好で、クルッと体を反転させていきなり走り出す。
「それじゃ」
とだけ、かろうじて聞こえる声で呟き、どんどん遠くなっていった。
さっき触れた温もりが、あっという間に消えてしまった。
それは自分のせいなんだろう、きっと。
「どうしたらよかったっていうんだ」
もう姿が見えない彼女の後ろ姿を思い出しながら、こぶしを強く握る。
「俺の中にある行き場のない葛藤について、多分…当事者の神田に話せたらいいけど、そんなこと言ったところでどうしたくて話すっていう目的があるわけじゃないしな」
俺自身、どこまで自力で動けるのかつかめていない中途半端な状態で、あいつを巻き込めないし。
「それに、きっと…俺は」
フラグとは無関係に、多分、俺は……。
「あいつに持っちゃいけない感情を、抱えはじめてる」
遠くでなにかのボールの音がする。
シンとした廊下で、鈍く響いて聞こえた。
今頃、バスケ部も部活を進めているんだろう。
あいつと同じ年代のやつらが……。
らしくなく、羨む。
大人なのにな、俺。
「結局のところ、俺がきっかけになるのか?」
作者の姿が見えるはずもないのに、廊下の天井を仰ぐ。
「なあ、俺がはじめなかったら、このまま終わるのか? 俺とあいつが登場人物で合ってるのか?」
子どものように、とまどう。
眉間にしわを寄せてうつむいた、その次の瞬間。
『一時間後に、体育館に行くか、部室に行くか、保健室に行くか。展開が全然変わっちゃう…。保健室だと、18禁に突入しそうだし』
そんな声が聞こえて、体を強張らせる。
『今日の気分的には、強制フラグ立たせちゃいたいとこなんだよな。なんだか、エッチな気分だし。保健室でっていうのが、たまんないし』
声が止まらない。
耳に入った言葉が、なぜかうっすら映像化されて頭に浮かんできた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる