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鬼百合の館②

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疲れてたせいなのか、単純に魂だけになって器官が無いだけなのかはわからないが、最近見続けていた夢は見ることはなく、すっと目が覚めた。
しかしまぁ、似た者夫婦というべきか?二人して実の息子を眠らせてさ…今回は心身ともに力が抜けてリラックスできたけどさぁ…親父の毒より断然マシか…。これがうちの普通なのかね…。

「ふぁ~ぁっ。」

目覚めた場所は見に覚えのあるベッドの上だった。

かーちゃんと話をしていたあの場所とは雰囲気が全然違ったからすぐわかった。実家の俺の部屋にそっくり。むしろ俺の部屋そのまんまなんじゃないかな?でも【鬼門】から出た訳ではなさそうだし、なんでだろ?
もしかして不安がっていた俺への配慮なのかな?まぁ仕事場のどまんなかみたいだったし邪魔だっただけか。

「起きましたか。」

上体を起き上がらせ、不思議そうにまわりを見渡している俺へ向かってかけられた声。聞こえた方に目線をやると、扉の横の壁に体をもたれ、腕を組んだ茨木がいた。

おはようって言ってみたけど。うん、相変わらずの目つきで安心するわ。

「何がおはようですか。ほんっとうにこの家の男は問題ばかり起こしてくれますね?わかってます?」

「はい…すみません…。」

ぐぅの音もでません。でもお前だって答えは向こうから~みたいなこと言ってたじゃん!それがこれなんじゃないのか?ちがう?

「確かに言いましたが、これが答えだとして納得しますか?」

ごめん、できないわ。
だってこんなの身内に殺されました、ってだけの状況だ。誰も納得いく訳がない。

「では早速、姫様のところに行きましょうか。もう面倒くさいので説明省きますけど、残りの戻ってきていない記憶を戻してどうするか決めてください。」

そんなことしていいんだ?!なんか当主の許可がないと駄目とかいうやつだよな?親だからいいのかな?戻ったら何かあるみたいな感じはめちゃくちゃあったけど?説明不足は俺の周りみんなそうだから今更だけど面倒くさいはなくない?!

「やかましいですね。殴って戻るとかなら喜んでやって差し上げますけどね?」

それだけはやめていただきたい。ショック療法のレベルじゃないやつ食らいそう。ホントこいつ男嫌いというか何というか…ここまで嫌われてる理由はなんなんだよ。
なんてブツブツ言ってたら「いきますよ。」と扉を開けて茨木は部屋を出てくし、慌てておいかけたらまぁちょうど部屋から出ようとしたところで扉閉められるし、とことんやるよな…ほんと。

部屋の中は明るかったが、そこから出ると薄暗く、ぼんやりと紫色に光る道が続いていた。この色は見覚えがある、茨木の炎の色と同じだ。

「…姫様は職務中ですから少し時間があります。お話しながらゆっくり行きましょうか。」

珍しいことを言う。俺へ向ける態度は変わらないままだが何かを話し、教えてくれる素振りだ。

「姫様、姫子様は私にとってかけがいのない尊い存在です。」

うん、わかってる。

「特に姫様の美しい赤髪はシルクのように滑らかで、風にたなびくその様は天女のようです!いずれ姫子様も同じような赤髪となり、麗しく美しく成長なさるでしょう!」

え?う、うん。

「今はまだ未熟な果実…芳しく香る果実へ変わるまで見守るのも、私のこの長い生の中で、枯れかけた心を潤す大事な時間なのです。」

あぁ…。

「私の命を拾い、更に尊い時間を与えてくださる姫様と姫子様。あぁ…一時も離れるのが惜しい…!」

ものすごくいらない情報を教えてくださっている。

歩きながら両手を天に掲げたかと思うと、自分の体を自分の腕で抱きしめてクネクネしている。かーちゃんも結緋さんもこんな変態そばに置いてて大丈夫なのか…?なんで?

「これからも真砂家の当主は女性のままであれば、夜緋呂様も、貴方の記憶も、何も起こることなく過ぎていたものを…。」

そう、それ!そういうの聞きたいのよ!さっきのはなんのくだりだったんだよ?!ほんと要らない!

歩みを止めた茨木は突然、こちらを振り向いた。

「真砂家の当主は代々女性が務めていましたが、あなたという存在が生まれてしまったが故にそれが崩れました。眠っていた夜緋呂様が目覚めたのもそのせいです。さ、そろそろ時間です、行きましょうか。」

いつの間にか大きな扉の前に着いていた。
両開きの扉が自動的に開かれると、茨木は深くお辞儀をしてから中へと進んでいく。俺もその後を付いていった。

「姫様、お連れいたしました。」

中央に大きな鏡を称えたその部屋にかーちゃんはいた。茨木の声に応えるように、俺を手招きして鏡の前へ導いた。

「よく眠れたかしら?ここにはちゃんとした寝所は無かったからあなたのお部屋をそのままこちらで使えるようにして繋げてみたのだけど。ふふ、顔つきが少し変わったかしら?」

ちゃんと休めたのもあるだろうけど、茨木がここに入る前に言った事に顔を強張らせてる方が勝っているんだと思う。

「早速本題に入りましょうか。」

凛とした表情で、かーちゃんは鏡に手を添えて話し始めた。

「この鏡を覗けばあなたにかけられている記憶封じの呪いは解けます。そして失った全ての記憶が戻ってくるでしょう。…結構ヘビーなのもあるかもしれないけど、どうする?」

多分ヘビーなのしかないと思ってる。かーちゃん安心してくれ。覚悟はできてるし、知らなきゃならない。

「ちゃんと見つめ直す。そして早いトコ全部解決させて、体を取り戻して、夏休みを満喫するんだ。」

「あらステキ!学生さんだものね!エンジョイしなきゃもったいないわよね!」

うんうん!とかーちゃんも嬉しそうに何度も頷いている。逆に茨木はヤレヤレ…といったような表情だ。

みてろよ!茨木!全部俺のせいにみたいに言われっぱなしじゃないぞ俺は!

そうさ!ふわふわ漂うだけの存在になったまま俺の楽しい夏休みを夜兄に奪われたまま過ごしてたまるかい!

本当に俺のせいなのか、俺のせいだとしても打開策を見つけられるかも知れないだろ?よーし、なんだかやる気になってきたぞ!

俺はそのままの勢いで鏡に近づきじーっと覗き込む。

深く、深く黒いその鏡は少しずつ映し始め、俺の頭の中に入ってきた。

…さぁ行こうか。

俺の中にあるはずだった思い出…記憶の中へ。
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