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 ほんの十数年前まで、アルドスと呼ばれた伝説の戦士...あるいは化け物がいた。

 彼の始まりは六歳の夏、平和な世界から異世界へと転移したことから始まる。当時ただの少年だった彼は現地の権力者に捕まり、身分を証明できず売りに出された。

 二束三文の奴隷として売り買いされる内に、彼は機会を疑い、運の悪い奴隷商の寝首を掻いて命と財産を奪った。ここまでなら、間抜けが商品に食い殺されたというありふれた話だ。他の奴隷商たちは酒の肴に笑い飛ばし、気にも止めなかった。

 彼らは死に際に己の軽率さを悟った。自由を得た少年は青年に成長し、力と装備を手に、恨みのある奴隷商を襲撃、誰ひとり逃さなかった。最後の標的はSランクの冒険者を護衛に付けたが、恐怖に震えるSランクの眼前でくびり殺された。

 全身を鋼鉄のからくりに包み、復讐を叫ぶ戦士の話はすぐに国中に広がり、たった一人に対する討伐軍が出た。これだけでも冗談みたいな話だが、軍は一人の敗走も許されないまま殲滅された。

 この件を王城に伝えた使者は、精神病の疑い大として任を解かれた。しかし、すぐに復帰することになる。何故なら、アルドスが王城の城門を蹴破ったからだ。

 たった一人の侵入者は誰にも止められず、そのまま王を弑虐、王子に奴隷制廃止を確約させると、堂々正門から退場した。

 その日世界に響き渡ったアルドスの名を中心に、それからの世界は回っていたと言っていい。高名な騎士や冒険者が次々と彼に挑んでは返り討ちにあい、悪名が高まるにつれ、商人たちは天災や戦争の情報よりもアルドスの動向を気にするようになった。

 彼は自分こそが地上最強の存在であると公言して憚らないようになった。実際、誰も殺すことができないのはすでに明らかだったし、彼に目をつけられながら生き延びたものはいなかった。気に食わなければ国も個人もあっさり潰された。

 彼の活動期間は、世界中の勢力バランスが大きく崩れた期間でもあった。もはや軍事費や砦の数など関係ない。アルドスを味方につけられない国は安全ではない。世界中の国々が、揃いも揃ってアルドスに媚を売る闇の時代...通称、アルドス・ダークは突然な彼の失踪によって終わりを告げた。
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