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出血が止まらない。自分にこれほど入っていたのが信じられない量が出てしまっている。ダンプに轢かれやがった私の体はどうしようもなく致命傷だった。しかも、信じられないことに運転手は逃げていきやがった。救急車を呼ぼうにも、ポケットまで手を動かせない。追い討ちとばかりに、雨まで降ってきた。
私の人生はこんなことばっかりだ。所謂親ガチャの段階から致命的にツイてない。じゃんけんは後出ししても負けるし、服を買うたび鳩にフンをひっかけられる。学費のための貯金も親友だったはずの男に盗まれ、痴漢を通報しようとすれば何故か私が駅の事務所に引っ張られる。なんとか報われたいと踏ん張ってきたのに、この仕打ち。全く、生まれてこない方がマシだった。
「ゆりかごから墓場まで、げふっ、クソみたいな人生だったな、くそっ。」
傷が疼いて碌に喋れやしない。こんな人生を授けてくださった神様を呪ってやりたいのに。ああ、寒い。血が出過ぎたせいだ。雨粒が傷口に染みる。そして寒い。ショック死より先に凍え死にそうだ。
最期に思い出したのは、今朝に見た鴉の死骸だった。きっと誰にも悲しまれず、孤独に私は死んだ。
▲
次に目を覚ますとしたら病室のベッドだと思っていた。しかしそこは所々苔むした洞窟で。付き添っているのも看護師ではなくクソでかい爬虫類。一般的に言えばドラゴンが俺を覗き込んでいた。その口元からは象牙のように巨大な牙が覗いていて、事情はわからないが逃げようと足に力を込めた。
「――・・――・・・」
しかし足が思うように動かない。恐怖に震える喉も叫ぶことさえできない。自分の手が目に入った。しわくちゃで、赤く、小さい手。まるで赤ん坊のようだ。事故の後遺症?いや、足を見ても同じ現象が起きている。とすると、一つ妥当な仮説がある。私は転生したのだろうか。科学信仰の日本人としては恥ずべき結論だが。
『・・・・・・・』
しかし転生先がこれとはツイてない。本日二度目になるが、生まれてこない方がマシだった。ドラゴンの餌に就職した夫婦の元に生まれ、その両親の後を継ごうとしている……と言う感じだろうか。私の知る異世界転生した人たちはみんなチート能力とかもらってるんだけどな。恵まれた人生を送る彼らと比べれば天国と地獄だ、本当に。
『――・・――・・・』
もう一思いにやってくれよ、と目を瞑った。しかしその時は中々やってこない。待てども待てども、ドラゴンの鼻息が顔に当たるだけだ。我慢できずに目を開くと、ドラゴンは西瓜 のように大きく、サファイアのように青く澄んだ瞳で私を見つめているばかりだった。
(こいつ、もしかして…大きくしてから食べようとしているのか?)
結局その日は、ドラゴンが私に手を出すことはなかった。
▲
この世界に転生してから数日、いくつかの事実は飲み込めた。
まず、転生したのは確定。この体は無力な赤ん坊で、小便すら垂れ流すしかない。その過程で分かったが、性別はメス。
次に、ドラゴンは今の所、私を食う気がない。それどころか定期的に謎の液体(母乳の代わり?)を与えてくれるし、体も洗ってくれる。存外器用なようで、血痕のついた布で作られた寝床も与えてくれた。暖かさとゾッとするのが半々だ。
最後に、時代や場所についてもいくらかの収穫がある。日に数度の断続的な地響きに顔を顰めていたら、ドラゴンはそれを察したように外の景色に連れ出してくれた。そして、目を疑った。人の気配など何処にもなく、見渡す限りの乾いた峡谷。そこを航空機のような騒音と速度で数匹のドラゴンが通過していく。きっと彼らのせいでここは荒地なのだ。あの巨大な鍵爪と翼があれば、インド象もネズミのように攫えてしまうのではないだろうか。
そして、こんなふざけた光景が21世紀の地球にあるわけがない。現地警察か何かが行方不明者の捜索に乗り出していて、私を助け出してくれると言う妄想は儚く砕かれてしまった。
私の人生はこんなことばっかりだ。所謂親ガチャの段階から致命的にツイてない。じゃんけんは後出ししても負けるし、服を買うたび鳩にフンをひっかけられる。学費のための貯金も親友だったはずの男に盗まれ、痴漢を通報しようとすれば何故か私が駅の事務所に引っ張られる。なんとか報われたいと踏ん張ってきたのに、この仕打ち。全く、生まれてこない方がマシだった。
「ゆりかごから墓場まで、げふっ、クソみたいな人生だったな、くそっ。」
傷が疼いて碌に喋れやしない。こんな人生を授けてくださった神様を呪ってやりたいのに。ああ、寒い。血が出過ぎたせいだ。雨粒が傷口に染みる。そして寒い。ショック死より先に凍え死にそうだ。
最期に思い出したのは、今朝に見た鴉の死骸だった。きっと誰にも悲しまれず、孤独に私は死んだ。
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次に目を覚ますとしたら病室のベッドだと思っていた。しかしそこは所々苔むした洞窟で。付き添っているのも看護師ではなくクソでかい爬虫類。一般的に言えばドラゴンが俺を覗き込んでいた。その口元からは象牙のように巨大な牙が覗いていて、事情はわからないが逃げようと足に力を込めた。
「――・・――・・・」
しかし足が思うように動かない。恐怖に震える喉も叫ぶことさえできない。自分の手が目に入った。しわくちゃで、赤く、小さい手。まるで赤ん坊のようだ。事故の後遺症?いや、足を見ても同じ現象が起きている。とすると、一つ妥当な仮説がある。私は転生したのだろうか。科学信仰の日本人としては恥ずべき結論だが。
『・・・・・・・』
しかし転生先がこれとはツイてない。本日二度目になるが、生まれてこない方がマシだった。ドラゴンの餌に就職した夫婦の元に生まれ、その両親の後を継ごうとしている……と言う感じだろうか。私の知る異世界転生した人たちはみんなチート能力とかもらってるんだけどな。恵まれた人生を送る彼らと比べれば天国と地獄だ、本当に。
『――・・――・・・』
もう一思いにやってくれよ、と目を瞑った。しかしその時は中々やってこない。待てども待てども、ドラゴンの鼻息が顔に当たるだけだ。我慢できずに目を開くと、ドラゴンは西瓜 のように大きく、サファイアのように青く澄んだ瞳で私を見つめているばかりだった。
(こいつ、もしかして…大きくしてから食べようとしているのか?)
結局その日は、ドラゴンが私に手を出すことはなかった。
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この世界に転生してから数日、いくつかの事実は飲み込めた。
まず、転生したのは確定。この体は無力な赤ん坊で、小便すら垂れ流すしかない。その過程で分かったが、性別はメス。
次に、ドラゴンは今の所、私を食う気がない。それどころか定期的に謎の液体(母乳の代わり?)を与えてくれるし、体も洗ってくれる。存外器用なようで、血痕のついた布で作られた寝床も与えてくれた。暖かさとゾッとするのが半々だ。
最後に、時代や場所についてもいくらかの収穫がある。日に数度の断続的な地響きに顔を顰めていたら、ドラゴンはそれを察したように外の景色に連れ出してくれた。そして、目を疑った。人の気配など何処にもなく、見渡す限りの乾いた峡谷。そこを航空機のような騒音と速度で数匹のドラゴンが通過していく。きっと彼らのせいでここは荒地なのだ。あの巨大な鍵爪と翼があれば、インド象もネズミのように攫えてしまうのではないだろうか。
そして、こんなふざけた光景が21世紀の地球にあるわけがない。現地警察か何かが行方不明者の捜索に乗り出していて、私を助け出してくれると言う妄想は儚く砕かれてしまった。
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