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エピローグ「うわっ、出た!」

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 それからの話。
 学校を覆うように広がっていた黒いモヤモヤもすっかり消えていて、みんなの体調も元通りだった。
 体調の異変を自覚していない子も多いみたいだし、自覚していても「低気圧だったんじゃない?」「そうかも」って感じでそんなに気にしていないみたいだったけど。

 「みたい」って言うのは……ぼくは慣れないことをしたせいか、三日間、熱が出て寝込んでいたからだ。
 だから学校の様子についてはクラスの子が教えてくれた。

 ちなみに教えてくれたのはぼくに桃香ちゃんとの仲を聞いてきた子で、「こないだはなんか変な風に聞いちゃってごめん」って謝ってくれたんだよね。
 ぼくが変な反応をしちゃっただけで、彼が謝ることじゃないのに……。
 ぼくも一生懸命「ぼくこそごめん」って頭を下げて、向こうも「いやいやこっちこそ」「いや、ぼくが」「オレが」ってどんどん頭の下げ合いが止まらなくなって……お互い笑ってしまった。




「お疲れ様、天内くん」
「うわっ、出た!」
「ひどいな、また幽霊が出たときみたいな反応をするなんて」

 放課後、帰りの支度をしていたぼくの目の前に急に現れたのは茜くんだった。
 相変わらず飄々ひょうひょうとしているというか、マイペースというか……神出鬼没で心臓に悪い。
 しかも周りを見てみれば、みんな帰ったりクラブに行ったり、教室にはもう誰もいない。きっとそういうタイミングをちゃんと見て来たんだろうな。
 茜くんってそういうところ、抜け目ないよね。

「寝込んでいたんだって? もう大丈夫なのかな」
「うん、もう元気だよ」
「それなら良かった。――ところで、ゴースト・ギバーについてなんだけど」

 ぼくはギクリと身体を強張らせる。
 茜くんはほほえんだ。

「約束だったね。もうゴースト・ギバーに入れとは言わないから、学校内にあるはずの【封印】を探してほしい、と」
「……うん」
「天内くんは見事約束を果たしてくれた。ありがとう。改めてみんなの代表としてお礼を言うよ」
「ぼくは、そんな」

 お礼を言われるようなことなんて、ぜんぜん……。
 ぼく一人じゃ、きっと何もできなかった。
 ユウが、みんながいたから。
 だから……。

「あ、あの……っ」
「うん?」

 顔を上げたぼくに、茜くんはやわらかく返事をしてくれた。
 ぼくはこぶしを握る。
 ……都合のいいことを言っているのかもしれない。
 けど。
 後悔、したくない。
 だから。

「やっぱりぼくも、入って、いいかな……っ」

 震える声で必死に言葉を絞り出す。
 ああ、緊張で言葉がつっかえる。

「ぼくも、みんなと友達に……仲間になりたいんだ……っ」

 言った。言ったぞ。
 心臓がバクバクしている。これだけでハァハァと息が荒くなってきた。
 今更何だよって思われるかな。もう遅いって言われるかな。
 いや、でも。茜くんがそんなことを言わないのはもうわかってる。
 わかってるけど、やっぱり緊張はするわけで……っ。

 ぼくはおそるおそる茜くんの様子をうかがう。
 茜くんは目を丸くして、それからゆっくり、口を開いて――。
 茜くんが何か言うより、後ろでわぁっと声が上がる方が早かった。

「ほらな! 若葉ならきっとそう言ってくれると思ったんだよ!」
「琥珀うるさい。誰も入らないと思うなんて言ってないじゃない」
「やったぁ! わかばくんも、仲間だね!」
「み、みんな……」

 琥珀くん、藍里さん、桃香ちゃんが駆け寄ってくる。
 近くで聞き耳を立てていたらしい。ぜんぜん気づかなかった。

 ……うわぁぁぁ。
 なんだか一気に恥ずかしい!

 ぐいっ。琥珀くんが腕を回してきた。
 ふんわり、今日はグレープフルーツの香りだ。

「よっし! これからもよろしくな、若葉!」
「……まあ、ここまで来たら一蓮托生いちれんたくしょうというやつかしらね」
「わかばくん。わたしもわかばくんと友達になりたいよ。よろしくね」
「……と、いうことだ。もちろんオレも歓迎するよ、天内若葉くん」

 茜くんが手を差し出してくる。
 みんなが笑っている。

 もしかしたら、みんなと一緒にいることは「フツー」じゃないのかもしれない。
 また迷惑だってかけてしまうのかもしれない。

 だけど。
 ……だけど。

 ぼくは、それ以上にみんなと一緒にいたい。みんなの力になりたい。
 ぼくは茜くんの手を握って――輪の中に飛び込んだ。
 スゥー、ハァー。
 深呼吸して、宣言する。

 天内若葉、これからもゴースト・ギバーの――みんなの目としてがんばります!


おしまい
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