22 / 22
エピローグ「うわっ、出た!」
しおりを挟む
それからの話。
学校を覆うように広がっていた黒いモヤモヤもすっかり消えていて、みんなの体調も元通りだった。
体調の異変を自覚していない子も多いみたいだし、自覚していても「低気圧だったんじゃない?」「そうかも」って感じでそんなに気にしていないみたいだったけど。
「みたい」って言うのは……ぼくは慣れないことをしたせいか、三日間、熱が出て寝込んでいたからだ。
だから学校の様子についてはクラスの子が教えてくれた。
ちなみに教えてくれたのはぼくに桃香ちゃんとの仲を聞いてきた子で、「こないだはなんか変な風に聞いちゃってごめん」って謝ってくれたんだよね。
ぼくが変な反応をしちゃっただけで、彼が謝ることじゃないのに……。
ぼくも一生懸命「ぼくこそごめん」って頭を下げて、向こうも「いやいやこっちこそ」「いや、ぼくが」「オレが」ってどんどん頭の下げ合いが止まらなくなって……お互い笑ってしまった。
「お疲れ様、天内くん」
「うわっ、出た!」
「ひどいな、また幽霊が出たときみたいな反応をするなんて」
放課後、帰りの支度をしていたぼくの目の前に急に現れたのは茜くんだった。
相変わらず飄々としているというか、マイペースというか……神出鬼没で心臓に悪い。
しかも周りを見てみれば、みんな帰ったりクラブに行ったり、教室にはもう誰もいない。きっとそういうタイミングをちゃんと見て来たんだろうな。
茜くんってそういうところ、抜け目ないよね。
「寝込んでいたんだって? もう大丈夫なのかな」
「うん、もう元気だよ」
「それなら良かった。――ところで、ゴースト・ギバーについてなんだけど」
ぼくはギクリと身体を強張らせる。
茜くんはほほえんだ。
「約束だったね。もうゴースト・ギバーに入れとは言わないから、学校内にあるはずの【封印】を探してほしい、と」
「……うん」
「天内くんは見事約束を果たしてくれた。ありがとう。改めてみんなの代表としてお礼を言うよ」
「ぼくは、そんな」
お礼を言われるようなことなんて、ぜんぜん……。
ぼく一人じゃ、きっと何もできなかった。
ユウが、みんながいたから。
だから……。
「あ、あの……っ」
「うん?」
顔を上げたぼくに、茜くんはやわらかく返事をしてくれた。
ぼくはこぶしを握る。
……都合のいいことを言っているのかもしれない。
けど。
後悔、したくない。
だから。
「やっぱりぼくも、入って、いいかな……っ」
震える声で必死に言葉を絞り出す。
ああ、緊張で言葉がつっかえる。
「ぼくも、みんなと友達に……仲間になりたいんだ……っ」
言った。言ったぞ。
心臓がバクバクしている。これだけでハァハァと息が荒くなってきた。
今更何だよって思われるかな。もう遅いって言われるかな。
いや、でも。茜くんがそんなことを言わないのはもうわかってる。
わかってるけど、やっぱり緊張はするわけで……っ。
ぼくはおそるおそる茜くんの様子をうかがう。
茜くんは目を丸くして、それからゆっくり、口を開いて――。
茜くんが何か言うより、後ろでわぁっと声が上がる方が早かった。
「ほらな! 若葉ならきっとそう言ってくれると思ったんだよ!」
「琥珀うるさい。誰も入らないと思うなんて言ってないじゃない」
「やったぁ! わかばくんも、仲間だね!」
「み、みんな……」
琥珀くん、藍里さん、桃香ちゃんが駆け寄ってくる。
近くで聞き耳を立てていたらしい。ぜんぜん気づかなかった。
……うわぁぁぁ。
なんだか一気に恥ずかしい!
ぐいっ。琥珀くんが腕を回してきた。
ふんわり、今日はグレープフルーツの香りだ。
「よっし! これからもよろしくな、若葉!」
「……まあ、ここまで来たら一蓮托生というやつかしらね」
「わかばくん。わたしもわかばくんと友達になりたいよ。よろしくね」
「……と、いうことだ。もちろんオレも歓迎するよ、天内若葉くん」
茜くんが手を差し出してくる。
みんなが笑っている。
もしかしたら、みんなと一緒にいることは「フツー」じゃないのかもしれない。
また迷惑だってかけてしまうのかもしれない。
だけど。
……だけど。
ぼくは、それ以上にみんなと一緒にいたい。みんなの力になりたい。
ぼくは茜くんの手を握って――輪の中に飛び込んだ。
スゥー、ハァー。
深呼吸して、宣言する。
天内若葉、これからもゴースト・ギバーの――みんなの目としてがんばります!
おしまい
学校を覆うように広がっていた黒いモヤモヤもすっかり消えていて、みんなの体調も元通りだった。
体調の異変を自覚していない子も多いみたいだし、自覚していても「低気圧だったんじゃない?」「そうかも」って感じでそんなに気にしていないみたいだったけど。
「みたい」って言うのは……ぼくは慣れないことをしたせいか、三日間、熱が出て寝込んでいたからだ。
だから学校の様子についてはクラスの子が教えてくれた。
ちなみに教えてくれたのはぼくに桃香ちゃんとの仲を聞いてきた子で、「こないだはなんか変な風に聞いちゃってごめん」って謝ってくれたんだよね。
ぼくが変な反応をしちゃっただけで、彼が謝ることじゃないのに……。
ぼくも一生懸命「ぼくこそごめん」って頭を下げて、向こうも「いやいやこっちこそ」「いや、ぼくが」「オレが」ってどんどん頭の下げ合いが止まらなくなって……お互い笑ってしまった。
「お疲れ様、天内くん」
「うわっ、出た!」
「ひどいな、また幽霊が出たときみたいな反応をするなんて」
放課後、帰りの支度をしていたぼくの目の前に急に現れたのは茜くんだった。
相変わらず飄々としているというか、マイペースというか……神出鬼没で心臓に悪い。
しかも周りを見てみれば、みんな帰ったりクラブに行ったり、教室にはもう誰もいない。きっとそういうタイミングをちゃんと見て来たんだろうな。
茜くんってそういうところ、抜け目ないよね。
「寝込んでいたんだって? もう大丈夫なのかな」
「うん、もう元気だよ」
「それなら良かった。――ところで、ゴースト・ギバーについてなんだけど」
ぼくはギクリと身体を強張らせる。
茜くんはほほえんだ。
「約束だったね。もうゴースト・ギバーに入れとは言わないから、学校内にあるはずの【封印】を探してほしい、と」
「……うん」
「天内くんは見事約束を果たしてくれた。ありがとう。改めてみんなの代表としてお礼を言うよ」
「ぼくは、そんな」
お礼を言われるようなことなんて、ぜんぜん……。
ぼく一人じゃ、きっと何もできなかった。
ユウが、みんながいたから。
だから……。
「あ、あの……っ」
「うん?」
顔を上げたぼくに、茜くんはやわらかく返事をしてくれた。
ぼくはこぶしを握る。
……都合のいいことを言っているのかもしれない。
けど。
後悔、したくない。
だから。
「やっぱりぼくも、入って、いいかな……っ」
震える声で必死に言葉を絞り出す。
ああ、緊張で言葉がつっかえる。
「ぼくも、みんなと友達に……仲間になりたいんだ……っ」
言った。言ったぞ。
心臓がバクバクしている。これだけでハァハァと息が荒くなってきた。
今更何だよって思われるかな。もう遅いって言われるかな。
いや、でも。茜くんがそんなことを言わないのはもうわかってる。
わかってるけど、やっぱり緊張はするわけで……っ。
ぼくはおそるおそる茜くんの様子をうかがう。
茜くんは目を丸くして、それからゆっくり、口を開いて――。
茜くんが何か言うより、後ろでわぁっと声が上がる方が早かった。
「ほらな! 若葉ならきっとそう言ってくれると思ったんだよ!」
「琥珀うるさい。誰も入らないと思うなんて言ってないじゃない」
「やったぁ! わかばくんも、仲間だね!」
「み、みんな……」
琥珀くん、藍里さん、桃香ちゃんが駆け寄ってくる。
近くで聞き耳を立てていたらしい。ぜんぜん気づかなかった。
……うわぁぁぁ。
なんだか一気に恥ずかしい!
ぐいっ。琥珀くんが腕を回してきた。
ふんわり、今日はグレープフルーツの香りだ。
「よっし! これからもよろしくな、若葉!」
「……まあ、ここまで来たら一蓮托生というやつかしらね」
「わかばくん。わたしもわかばくんと友達になりたいよ。よろしくね」
「……と、いうことだ。もちろんオレも歓迎するよ、天内若葉くん」
茜くんが手を差し出してくる。
みんなが笑っている。
もしかしたら、みんなと一緒にいることは「フツー」じゃないのかもしれない。
また迷惑だってかけてしまうのかもしれない。
だけど。
……だけど。
ぼくは、それ以上にみんなと一緒にいたい。みんなの力になりたい。
ぼくは茜くんの手を握って――輪の中に飛び込んだ。
スゥー、ハァー。
深呼吸して、宣言する。
天内若葉、これからもゴースト・ギバーの――みんなの目としてがんばります!
おしまい
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ
三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』
――それは、ちょっと変わった不思議なお店。
おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。
ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。
お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。
そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。
彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎
いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
星座の作り方
月島鏡
児童書・童話
「君、自分で星座作ったりしてみない⁉︎」
それは、星が光る夜のお伽話。
天文学者を目指す少年シエルと、星の女神ライラの物語。
ライラと出会い、願いの意味を、大切なものを知り、シエルが自分の道を歩き出すまでのお話。
自分の願いにだけは、絶対に嘘を吐かないで
今、この瞬間を走りゆく
佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】
皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!
小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。
「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」
合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──
ひと夏の冒険ファンタジー
【完結済み】破滅のハッピーエンドの王子妃
BBやっこ
児童書・童話
ある国は、攻め込まれ城の中まで敵国の騎士が入り込みました。その時王子妃様は?
1話目は、王家の終わり
2話めに舞台裏、魔国の騎士目線の話
さっくり読める童話風なお話を書いてみました。
魔法少女はまだ翔べない
東 里胡
児童書・童話
第15回絵本・児童書大賞、奨励賞をいただきました、応援下さった皆様、ありがとうございます!
中学一年生のキラリが転校先で出会ったのは、キラという男の子。
キラキラコンビと名付けられた二人とクラスの仲間たちは、ケンカしたり和解をして絆を深め合うが、キラリはとある事情で一時的に転校してきただけ。
駄菓子屋を営む、おばあちゃんや仲間たちと過ごす海辺の町、ひと夏の思い出。
そこで知った自分の家にまつわる秘密にキラリも覚醒して……。
果たしてキラリの夏は、キラキラになるのか、それとも?
表紙はpixivてんぱる様にお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる