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17「……みんな……ありがとう」

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 ユウ。
 ユウだ。
 ぼくらの目の前にユウがいる。

「ユウって、わかばくんの友達の……?」

 ぼくは呆然とうなずいた。
 ユウは「こっちだ」と言わんばかりに手を振っている。
 まるで、昔、ぼくに秘密の場所を教えてくれたときみたいに。
 あのときより必死そうだけど。

「呼んでる……ぼくたちを」
「よくわかんねーけど、信じられんのかよ?」

 琥珀くんが眉を寄せた。
 ぼくはうつむく。
 わからない。わからないよ。
 でも……。

 顔を上げる。
 ユウを見る。
 ユウも一生懸命見返してくる。

 信じたい。
 あやめちゃんを守ってくれたユウを。
 ぼくは、信じたい。

「ぼくは行くよ。……みんなはムリにとは言わないから」

 ぼくの勝手な思いにみんなを巻き込むわけにはいかない。
 そう思って言ったのに、みんなはそれぞれ笑ってくれた。

「どうせ他に手がかりもないんだ。天内くんに乗ってみるのも一興じゃないか」
「イッキョー?」
「面白いって意味よ、バカ琥珀」
「バカって言うな! でも、なるほどな! そういうことなら、オレも乗った!」
「ももかも、あの子がウソついてるとは思わないよ」
「……まあ、もし罠だったとしても、そのときはわたしが背負い投げてやるわ」

「……みんな……ありがとう」

 すごく頼もしくて、嬉しくて。
 胸の中に熱いものが込み上げてくる。
 それがこぼれてしまわないように、ぼくはぐっと奥歯を噛み締めた。

 ユウと目が合う。ユウはうなずいて先に進んだ。
 ぼくらも続く。
 ユウの進み方に迷いはない。
 だんだん黒いモヤモヤも濃くなっているみたいだった。
 臭いのか、琥珀くんはどんどん顔をしかめていく。
 茜くんの後ろのバケモノは、もう掃除機みたいに勢いよく黒いモヤを吸い込んでいる。

 そうしてたどり着いたのは、洞穴、みたいだった。
 入り口は大きな岩で塞がれていたらしい。
 「らしい」というのは、その岩が入り口から少し横にズレているからだ。
 今は隙間が見える。
 そしてその岩には、あった、六芒星!
 マジックペンで描いたみたいで、だいぶ歪つだけど、でもたしかに六芒星が描かれていた。
 ここに先輩は封印していたんだ。

 ユウが中を指差す。
 ぼくはおそるおそる中を覗き込もうとして――まずい!
 近づいたから、わかる。
 六芒星の描かれていた岩が崩れそうだ!

 ぼくは必死に手を伸ばす。
 だけど、間に合わない――!

 ぼくが岩に触れるより早く、無情にも、岩はガラガラと崩れ始めた。
 桃香ちゃんの短い悲鳴が聞こえる。
 ぼくが巻き込まれないように、茜くんがぼくの手を後ろに引いてくれる。

 崩れた岩の向こうから、ずるり、と音が聞こえてきた。
 ずるり、ずるり。何かが這うように近づいてくる。
 それはゆっくり、確実に近づいてくる。
 そして――。

「……!」

 ぼくらは立ちすくんだ。
 姿を見せたのは大きな――ヘビだった。
 多分、ヘビ……だよね。
 頭が三つくらいあるけど……。見たこともないくらい真っ白だけど。

 ――白いヘビのその色は、すごく……すごくキレイで。
 でも。
 なんて禍々しいんだろう。
 鋭い目が、鋭い牙が、今にもぼくらを食いちぎってしまいそうだ。

 ――怖い。
 これは、怖いものだ。理由なんてわからない。だけど、目の前に立っていたら、そう思ってしまう。
 これは、ダメだ。

「うっ……」

 琥珀くんが口元を押さえて後ろに下がった。
 桃香ちゃんも、ヘッドホンを握りしめたままカタカタ震えている。
 藍里さんは、黙ったまま両腕を互いに抱きしめるようにして、怖い顔。

「こいつが悪霊、なのか? ヘビっぽくは見えるけどさ……」
「あれ……見えるの、琥珀くん」
「ももかも……」
「オレも見えるね」

 ぼく以外にも見えるだって?
 茜くんがヘビから目を逸らさずに言う。

「オレたちは一つの感覚が特化して強いだけで……ほかの感覚も、ゼロなわけじゃないって聞いたことがあるよ。逆にクラスのみんなだって、全部弱いだけで、決してゼロなわけじゃないんだ」
「……つまり、ふだんなら感じにくい感覚でさえ感じられるほど、相手が強いってことね」

 たしかに……そうなのかもしれなかった。
 ぼくも、感じている。
 鼻をつきさす、焦げたようなにおい。
 風の音とまちがいそうな、大きな吐息。
 肌をびりびりと震わせる圧迫感。

 洞穴から外に出てきたヘビは、ゆっくりと目を開けた。
 赤い、赤い目。
 それらが六つ。
 じっとぼくたちを見つめている。
 その目が……ニタリと笑った。

『ああ……ようやく出ることができたぞ』
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