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15「じゃあ、それは謝らないとだねー」

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 あやめちゃんの言葉に、ぼくは開いた口がふさがらない。

 ……何だって?
 ユウが、あやめちゃんを……助けようとした?
 車に突き飛ばしたんじゃなくて、車に轢かれないように?
 あのとき怖い顔をしていたのは、それだけ必死だったから?

 そんな。
 そんな……。

 ……ユウ。
 ぼくはユウのことを、誤解していたの……?

 ぐるぐる、頭が熱いんだか冷たいんだかわからない。
 そんなぼくの顔を、あやめちゃんがのぞき込んでくる。

「あやめもあのときはパニックになっちゃって……すぐに説明できなくてごめんね」
「……ううん」

 ぼくは力なく首を振った。
 あやめちゃんは悪くない。
 パニックになっていたのはぼくもだ。
 それにその後あやめちゃんを避けてしまったのはぼくなんだから。

 ぽた、と地面に雫が落ちた。
 雨より控えめなその雫は、ぼくの目から次々とこぼれ落ちる。
 ああ、メガネが曇ってよく見えないよ。

「ぼく、あやめちゃんに謝らなきゃって、ずっと思ってて」
「謝るのは、何も言わないで転校しちゃったことだけでいいよ」
「友達になってごめんって……言おうと思ってたよ」
「そんなこと言われたらショックだよ! 言ってたら、言ったことを謝ってもらってたからね!」
「うん……ごめん」
「今は謝らなくていいんだってば」
「あ、えっと、そっか。ごめんね」
「もう! 謝ってばかり!」
「ほんとだ……」

 ぼくたちは笑い合う。
 ぼくの顔も声も、ハンパに泣いた、下手くそな泣き笑いになってしまったけど。

 良かった。
 あやめちゃんが、無事で。
 こうして、また話すことができて。
 ……あやめちゃんと、友達になれて。
 ……良かった。

 ひとしきり笑ってから、あやめちゃんが首をかしげる。

「新しい学校は、どう? 友達、できた?」
「……できそうだったけど、ひどいこと言っちゃった」
「じゃあ、それは謝らないとだねー」
「許してもらえるかな」
「わかんない」

 あやめちゃんは拍子抜けなくらいカラカラと笑う。
 でも、それがぼくには心地良い。
 そうだね。許してもらえるかはわからないけど、それは謝らなくていい理由にはならないもんね。
 もう一度みんなと話してみよう。
 ……できればユウとも、また会いたかったな。

 あやめちゃんの笑い声につられるように空が明るくなってきた。雨がやんでいる。
 うーん、とあやめちゃんは思い切りのびをした。

「ふう。若葉くんに会えて良かった」
「ぼくも。ありがとう、あやめちゃん」
「ふふー。また遊ぼうね。ユウくんに教えてもらった秘密基地にもまた行きたいし。そうだ、グラウンドに埋めたタイムカプセルも忘れてないよね?」
「あはは……なんだか懐かしいや」

 二人、ううん、ユウも入れた三人で遊んだことを思い出す。
 またあんな風に遊んでもいいのかな。

 ……待てよ。
 グラウンドにタイムカプセル。
 グラウンド……。

「……」
「若葉くん?」
「ねえ、あやめちゃん。グラウンドは学校だよね」
「? よくわかんないけど、そうだね?」
「でも、学校の中……じゃないよね」
「外ではあるね。なぁに、クイズ?」

 ぼくの頭がまたぐるぐると動き出す。
 グラウンドは学校というくくりではあるけど、校内じゃない……。
 もしかして、そういうこと……?

「あやめちゃん、ありがとう! ぼく、行ってくる!」

 屋根下から飛び出したぼくを、あやめちゃんは目を丸くして見ていた。
 だけどすぐにその目が細められる。笑って、大きな声で手を振ってくれる。

「がんばれ!」

 ぼくも大きく手を振って、水たまりも気にせず走り出した。
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