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14「何で! そう! なるの!」
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外に飛び出すと、ポツリと当たる冷たいものがあった。
雨だ。あっという間に勢いを増したそれは、ぼくをびしょびしょに濡らしていく。
ああ、こんなに濡れたらお母さんが心配するかな……。
掃除も途中で放り投げてきちゃった。クラスのみんなに謝らないと。
しまった、カバンも学校だ。取りに戻らないと……。
それでもすぐに戻る気にはなれなかった。
ゴロゴロ雷も聞こえる中、ぼくはトボトボとあてもなく歩く。
――勝手だな、と思う。
仲間になるのはイヤだなんて言っておいて。ポンコツだと思ってもらおうだなんて意気込んで。
それでもぼくは、みんなに嫌われるのが、イヤだった。
いつの間にか、みんなといっしょにいるのが、自然で、楽しくなっていた。
桃香ちゃんが優しく笑ってくれるのも、琥珀くんが元気にぼくを引っ張ってくれるのも、藍里さんがそんなぼくたちをヤレヤレと呆れた風に見ているのも、茜くんが頼もしく手を差し出してくれるのも。
全部うれしくて、そんな日常がなくなってしまうなんてイヤだった。
そんなこと今更気づいたって、仕方ないのに……。
「――若葉くん?」
ふいにぼくを呼ぶ声が聞こえて、ぼくはぼんやりと顔を上げた。
傘を差してぼくを見ているその子は……。
ヒュッ、と息を飲む。
「あ、あやめちゃん……?」
「やっぱり若葉くんだ! 久しぶりだね!」
長い髪を一つにくくった、ポニーテールの女の子。
背はぼくと同じくらい。少し高めの弾むような声は、なんだかすごく懐かしい。
どうして。どうしてあやめちゃんがここに?
くりくりとした目をさらに丸くしてあやめちゃんが駆け寄ってくる。
「わ、びしょ濡れじゃない! 大丈夫? ほら、こっちに来て雨宿りしよ!」
「あやめちゃん、何でここに……」
「偶然だよ。それにここ、あやめのおばあちゃん家《ち》の近くだもん」
右手をつかまれて、そのまま近くのお店まで引っ張っていかれる。
その屋根の下、ぼくとあやめちゃんは並んで立った。
雨はまだやみそうにない。
「ほんとに久しぶりだね」
「うん……」
「びっくりしちゃった」
「うん……」
あまりにも明るい声で、当たり前のように話しかけられて、ぼくは落ち着かない。
ぼくはあやめちゃんに嫌われていると思ったし……合わせる顔がないってずっと思っていたから。
泣かれるかと、ぼくのせいだと怒鳴られるかと思っていたから……。
顔を上げないぼくに、あやめちゃんが小さく笑った。
「……あのね。偶然って言ったの、ウソだよ」
「え?」
「おばあちゃん家の近くなのはほんと。若葉くんが転校した学校に近いって聞いたから、もしかしたら会えないかなと思って……おばあちゃん家に遊びに行くフリして、たまに近くを探しに来てたの」
「ぼくを、探してたの?」
「うん」
「な、何で?」
「だって、急にいなくなるんだもん!」
いきなり大きな声を出してぼくを揺さぶってくる。
「あやめ、若葉くんと仲いいと思ってたのに。お見舞いにも来てくれないし! 退院したらもう転校してるなんて、何それ! あやめに何も言ってくれないなんてショックだよ、ショック!」
「う、ご、ごめん。あやめちゃん、ぼくの顔も見たくないんじゃないかと思って」
「何で! そう! なるの!」
「だ、だって、あの事故は、ぼくといたから起きたかもしれなくて……」
しどろもどろに説明すると、あやめちゃんは揺さぶるのをゆるめた。
困ったように眉を下げてぼくを見る。
「若葉くんならそう考えてそうとは思ったけど。……ねえ、ユウくんは? いないの?」
「……いないよ。あやめちゃんを突き飛ばした後、消えていなくなっちゃった」
「そっか……」
うつむいたあやめちゃんは、ぼくから手を離した。
ゆっくりとまた空を見上げる。
ぼくもつられて目を向ける。
どんより雲のざあざあ雨だ。
やがてあやめちゃんは、ポツリと口を開いた。
ほんの少しためらうように。何かが壊れてしまわないように。
ゆっくり、慎重に、だけどどこかふわりと優しい声で。
「あのね、あのときよろけたのは、自分のせいなの」
「え……?」
「風が強くて、傘が飛ばされそうになって……それでよろけちゃったの。そこに車が来て、危ないと思ったら不思議な力で突き飛ばされたんだ。……おかげでギリギリ轢かれなくて済んだの」
あやめちゃんはぼくを見た。
強くて明るい目。
ぼくの話をいつも楽しそうに聞いてくれたあのときと変わらない目。
「突き飛ばされたおかげで、助かったんだよ」
「おかげ、で……?」
「そう。だからね……ユウくんはあやめを助けようとしてくれたんじゃないかな?」
雨だ。あっという間に勢いを増したそれは、ぼくをびしょびしょに濡らしていく。
ああ、こんなに濡れたらお母さんが心配するかな……。
掃除も途中で放り投げてきちゃった。クラスのみんなに謝らないと。
しまった、カバンも学校だ。取りに戻らないと……。
それでもすぐに戻る気にはなれなかった。
ゴロゴロ雷も聞こえる中、ぼくはトボトボとあてもなく歩く。
――勝手だな、と思う。
仲間になるのはイヤだなんて言っておいて。ポンコツだと思ってもらおうだなんて意気込んで。
それでもぼくは、みんなに嫌われるのが、イヤだった。
いつの間にか、みんなといっしょにいるのが、自然で、楽しくなっていた。
桃香ちゃんが優しく笑ってくれるのも、琥珀くんが元気にぼくを引っ張ってくれるのも、藍里さんがそんなぼくたちをヤレヤレと呆れた風に見ているのも、茜くんが頼もしく手を差し出してくれるのも。
全部うれしくて、そんな日常がなくなってしまうなんてイヤだった。
そんなこと今更気づいたって、仕方ないのに……。
「――若葉くん?」
ふいにぼくを呼ぶ声が聞こえて、ぼくはぼんやりと顔を上げた。
傘を差してぼくを見ているその子は……。
ヒュッ、と息を飲む。
「あ、あやめちゃん……?」
「やっぱり若葉くんだ! 久しぶりだね!」
長い髪を一つにくくった、ポニーテールの女の子。
背はぼくと同じくらい。少し高めの弾むような声は、なんだかすごく懐かしい。
どうして。どうしてあやめちゃんがここに?
くりくりとした目をさらに丸くしてあやめちゃんが駆け寄ってくる。
「わ、びしょ濡れじゃない! 大丈夫? ほら、こっちに来て雨宿りしよ!」
「あやめちゃん、何でここに……」
「偶然だよ。それにここ、あやめのおばあちゃん家《ち》の近くだもん」
右手をつかまれて、そのまま近くのお店まで引っ張っていかれる。
その屋根の下、ぼくとあやめちゃんは並んで立った。
雨はまだやみそうにない。
「ほんとに久しぶりだね」
「うん……」
「びっくりしちゃった」
「うん……」
あまりにも明るい声で、当たり前のように話しかけられて、ぼくは落ち着かない。
ぼくはあやめちゃんに嫌われていると思ったし……合わせる顔がないってずっと思っていたから。
泣かれるかと、ぼくのせいだと怒鳴られるかと思っていたから……。
顔を上げないぼくに、あやめちゃんが小さく笑った。
「……あのね。偶然って言ったの、ウソだよ」
「え?」
「おばあちゃん家の近くなのはほんと。若葉くんが転校した学校に近いって聞いたから、もしかしたら会えないかなと思って……おばあちゃん家に遊びに行くフリして、たまに近くを探しに来てたの」
「ぼくを、探してたの?」
「うん」
「な、何で?」
「だって、急にいなくなるんだもん!」
いきなり大きな声を出してぼくを揺さぶってくる。
「あやめ、若葉くんと仲いいと思ってたのに。お見舞いにも来てくれないし! 退院したらもう転校してるなんて、何それ! あやめに何も言ってくれないなんてショックだよ、ショック!」
「う、ご、ごめん。あやめちゃん、ぼくの顔も見たくないんじゃないかと思って」
「何で! そう! なるの!」
「だ、だって、あの事故は、ぼくといたから起きたかもしれなくて……」
しどろもどろに説明すると、あやめちゃんは揺さぶるのをゆるめた。
困ったように眉を下げてぼくを見る。
「若葉くんならそう考えてそうとは思ったけど。……ねえ、ユウくんは? いないの?」
「……いないよ。あやめちゃんを突き飛ばした後、消えていなくなっちゃった」
「そっか……」
うつむいたあやめちゃんは、ぼくから手を離した。
ゆっくりとまた空を見上げる。
ぼくもつられて目を向ける。
どんより雲のざあざあ雨だ。
やがてあやめちゃんは、ポツリと口を開いた。
ほんの少しためらうように。何かが壊れてしまわないように。
ゆっくり、慎重に、だけどどこかふわりと優しい声で。
「あのね、あのときよろけたのは、自分のせいなの」
「え……?」
「風が強くて、傘が飛ばされそうになって……それでよろけちゃったの。そこに車が来て、危ないと思ったら不思議な力で突き飛ばされたんだ。……おかげでギリギリ轢かれなくて済んだの」
あやめちゃんはぼくを見た。
強くて明るい目。
ぼくの話をいつも楽しそうに聞いてくれたあのときと変わらない目。
「突き飛ばされたおかげで、助かったんだよ」
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