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13「もう、いいよ天内くん」

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「誰かに霊力を吸われた? そして封印は学校の中にはない……だって?」

 先生の頼まれごとを終わらせた茜くんと合流して、図書室の霊から聞いた「ヒント」を教えると、茜くんは珍しく目を丸くした。

「たしかにそう言っていたんだね?」
「うん……ももか、聞いたよ。間違いないって」
「においもウソはついてないと思ったぜ」
「けどあまりくわしくは言えないとも言っていたわ。その霊力を吸い取ったやつに目をつけられると困るから、って」

 そう。彼が教えてくれてことは二つ。
 一つは、彼が視覚を失ってしまったのは、ムリヤリ力を奪われたせいだってこと。
 ぼくらが感覚を与えることができるように、反対に奪えるやつもいるってことだ。
 音楽室の彼女も同じように奪われたんだろうって話だった。

 もう一つは、ぼくらの探し物……封印は校内にはないだろう、ってことだった。
 茜くんがあごに手を当てて考え込む。

「たしかに先輩はいい加減だし大雑把だし破天荒だけど……」

 茜くんがこんな言い方をするって、一体どんな先輩なんだ。

「でも、ウソをつくような人ではないはずなんだ」
「ウソつくつもりじゃなくても、その先輩が何か勘違いしてるとか……」
「まあ、ありえなくはないね」

 あっさりとうなずいた茜くんは顔を上げた。

「ひとまずオレの方でも考えてみるよ。できるだけ先輩に連絡もしてみる。わかるまでは見回りも兼ねて、簡単に見てくれるだけでいい」

 茜くんの指示にぼくたちはそれぞれうなずいた。
 たしかに見回りは続けた方が良さそうだよね。
 音楽室や図書室の幽霊と同じように、悪霊になりかけてる幽霊が他にもいるかもしれない。

 茜くんはニコリと笑う。

「みんな今日はお疲れ様。さすがだったね。オレが見込んだ以上で、本当に素晴らしいよ」

 茜くんの手放しの賛辞は、なんだか妙にくすぐったくて……ぼくはずり落ちてもいないメガネをかけ直した。
 それからハッとする。
 ぼくはポンコツだって証明しなきゃいけないのに!





 茜くんの指示通り見回りに専念してから、一週間。
 その間、相変わらず幽霊が出てくることはあったけど、基本的に平和だった。
 放課後、教室の掃除をしながら、ぼくはこっそりため息をつく。
 こうしている間にも悪霊の封印が解けそうになっているのかと思うと気になって気になって……。

 教室の外に目を向ける。
 今日は曇りだ。今にも雨が降り出しそう。
 すると、ポンと肩を叩かれた。

「なあ、天内だっけ」
「えっと……」

 声を掛けてきたのはクラスメイトの男の子だ。まだあまり話したことがなくて緊張する。

「気になってたんだけどさー。こないだ保健室で一緒にいたのって、桜田桃香でしょ? 天内、仲良いの?」
「え……」

 思いがけない言葉に頭が真っ白になった。
 もしかして、ぼくが顔面にボールをぶつけた日のこと?
 あの日桃香ちゃんと話していたのを、見られてた?

「あの桜田桃香と仲良くなるって、すごいな天内。どうやったんだよ。それに西園寺茜や風早琥珀とも話してたよな? すげーじゃん」
「あの、ちが、ちがう」

 とっさ、だった。
 ぼくは必死に首を振る。

 どうやって仲良くなったか、なんて。答えられない。
 ゴースト・ギバーの話をするわけにもいかない。
 特に幽霊のことで教室に行けていない桃香ちゃんのことを知られるのはまずい。
 だいたいぼくと友達だなんて、そんなの、みんなの迷惑になるに決まってる。

「ちがうよ。ぼくは友達なんかじゃ……」

「――何だよ、それ」

 かたくて、痛そうな、声だった。
 何でかわからないけど、ぼくはそんな風に感じてしまった。

 振り返ると、怖い顔をしてぼくをにらんでいる琥珀くんと、その隣で困ったように立っている藍里さん。
 藍里さんが、彼女にしては珍しくおずおずとした様子で口を開く。

「近くを通りかかったら、何かに引っ張られたから、来てみたのだけど……」

 何か、ってのは幽霊なんだろう。
 もうどこかに行っちゃったのか、それらしい姿は見えないけれど。
 ぐいっと琥珀くんが前に出てくる。ぼくに詰め寄ってくる。

「若葉。お前、そんな風に思ってたのかよ」
「ぼ、ぼくは」

 何か言わなきゃ。何か。でも、何を?

 喉がカラカラ、心臓がドクドク、頭は熱いんだか冷たいんだかわからない。
 足がガクガク震えてくる。
 凛とした声が響いたのは、そのときだった。

「コラ、風早くん。そう騒ぎ立てるものじゃないよ」

 琥珀くんの後ろからゆったり歩いてきたのは茜くんだ。
 相変わらず落ち着いた態度で、同い年とは思えない口ぶりで、茜くんはふんわりほほえんでいる。

「天内くんを責めるべきじゃないよ。元々オレがムリヤリ誘ったんだ」
「だけど、茜!」

 怒鳴る琥珀くんをなだめて、茜くんはぼくを見る。
 ぼくの目と、茜くんの大人びた目がばっちりと合った。
 その目が細められて――。

「もう、いいよ天内くん」
「え……」

 茜くんの言葉に、ぼくは心臓が串刺しにでもなった気がした。

「君は……」

 ぼくは駆け出した。聞きたくなかった。

 あんなに仲間になるのはイヤだと思っていたのに。
 茜くんたちの方から用なしだと言われるのは、心臓がつぶれそうなほど苦しかった。
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