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しおりを挟む「は……?」
この男は今なんて云った……?
いや、それよりも、どうしてコイツはおれの名前を知っている……?
身動きの取れない亨は、視線だけで背後の男を見上げる。目出し帽を被っているから、男がどういう顔をしているのか分からないが、しかし、ニタリと細められた瞳の気味悪さに、ゾッと背筋に悪寒が走る。汗で湿ったワイシャツの上を、男の手が這う。亨は体を捩った。
「っ、触るな!」
「いいね、そういうの。強気なのは嫌いじゃない」
そういって男は体を屈め、亨の耳元に口を寄せた。
「約束する。奥さんにも、娘さんにも手を出さない。家も荒らさない」
「信用できるかッ」
「だよね」
パッ、と拘束されていた手が突然解放されたかと思えば、男はハンズアップをして見せるものだから、え、と亨は目を疑った。気味の悪い笑みはすっかりとなりを潜め、別人のような笑みを浮かべている。
「ここは予定外だったんだ。でも、お兄さんがすごく好みだったから、ついね」
つい、で強盗に押し入られて堪るか。
亨はフローリングを引っ掻き、身を捩った。拘束を解かれても、男に馬乗りにされたままなのは変わらず、思うように体を動かせないもどかしさに奥歯を軋ませる。
「おい、ヤルならさっさと済ませろ」
「わかってる」
殺される……!
背後でカチャカチャと金属どうしが触れ合う音に、亨は「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。
逃げなくては。もうじき娘が帰ってきてしまう。妻と娘だけは、なんとしても守らなければ。
亨はどうにか男の下から抜け出そうと、無我夢中で足を動かした。床を蹴って、空を蹴って、のたうち回るだけだった。
「亨さんってお酒弱いんだね。まったく力が入ってないよ」
男の見透かしたような物言いに、亨は頬が熱くなる。ぐるり、と視界が回る。体を仰向けにされたのだ。え、と亨が戸惑っている合間に、ネクタイを引き抜かれ、両手を頭上で拘束される。ワイシャツを左右に引っ張られ、ボタンが弾けとんだ。
「……っ!」
急激に血の気が引いていき、唇が戦慄く。酒で体温の上がった肌の上を、男の冷たい手が胸から腹へと降りていく。考えていなかった、考えたくもなかった想像が脳裏を掠め、亨は息を吞んだ。男から「へえ」と感嘆の声が上がる。
「お腹出てないんだね」
「さっさとしろ」
仲間に急かされて、男は仕方ないといった様子で亨のスラックスに手を伸ばしてくる。小さな悲鳴が引き攣った喉から上がる。
「ローション持ってる?」
「ほらよ」
「持ってるのかよ」
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