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しおりを挟む何度もノブを引っ張ってもドアは閉まらなかった。まさか。亨は足元に視線を落としたまま、後ろを振り返った。
「え……?」
つま先が、ドアの合間に挟み込まれている。バッと顔を上げると、目出し帽を被った男と目が合った。その瞬間、ドアが強く引っ張られる。不意のことに、亨は踏ん張ることができなかった。
思わず手を離してしまい、一人、二人、三人と男が押し入ってくる。亨は男たちの波に押され、玄関に尻もちをついた。
「おっ邪魔しまーす」
「っ、何なんだ、君たちは……!」
「おーおー活きがいいねぇ」
がたいの良い男が、にたにたと笑いながら見下ろしてくる。
「亨さん、どうしたの?」
いつまでもリビングに来ない亨を心配したのか、麻美がひょっこりと顔を出す。
「きゃあ!」
目出し帽を被った男たちを目の当たりにした麻美が叫ぶ。呆然としていた亨は、その叫び声に、我に返った。玄関にある靴を確認する。娘の靴はまだない。
ああ、よかった、娘はまだ帰ってきていない。
普段なら雷の一つでも落とすところだが、今日ばかりは帰りが遅いことが幸いした。亨は一瞬だけ安堵する。そして、縺れる足をなんとか叱咤して、麻美を奥へと押しやろうと駆けだした。
「逃げろ麻美……っ!」
「おっと、威勢が良いな」
しかし、男たちの方が素早かった。左の手首を掴まれ、前のめりになった。後ろに腕を捻り上げられる。足が縺れて、受け身を取ることも出来ずに、亨はフローリングに体を打ち付けられた。倒れ込んだ亨の上に、男が腰を下ろす。
「っ、がは……っ、ぁ、ぐっ」
みしり、と骨が軋む。
視界が眩んだ。
それでも、麻美だけは逃がさなければ、と亨は妻の方へ手を伸ばした。彼女も抵抗したが、力の差は歴然としている。抵抗もむなしく彼女も床へと押さえつけられた。強盗の一人が、リビングを物色している。
「この家に金目のものなんてないぞ」
「って云ってるけど、どうする?」
「ここには盗みに入ったんじゃない」
亨を押さえつけている男の方に、強盗の仲間たちの視線が集まる。
「あー、なるほど、そういうコトね」
男たちは納得したように麻美を見た。
「やめろ……! 妻には手を出すなっ!」
「奥さんには手を出さないよ。もちろん盗みもしない」
男のその言葉に驚いたのは亨だけではなかった。仲間の男たちも驚いた様子で、顔を見合わせて首を傾げる。
「なら目的はなんだ?」
「目的?」
頭上からくすくすと笑い声が降ってくる。
「貴方だよ、亨さん」
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