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勇者とは
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「はたしてブラック企業から逃げ出した俺にこんなキャラの濃い面子を扱いきれるだろうか」
不安である。正直ブラック企業のなかでも窓際で陰キャを極めていたのだ。いきなり陽キャ全開のクセ強パーティーのリーダーポジションに収まって良い訳がない。というか荷が重い。勇者の肩書きも重い。異世界転生するならせめて平穏なモブとして転生したかった。
「まあ、転生して勇者になったところでモブ顔なのは変わらないんだが」
鏡に写る自身の姿はよれよれのスーツからゴテゴテの鎧に変わっただけで、それ以外の変化は何も見受けられない。悲しいほどに、生前と変わっていない。これが通りを歩くだけで誰もが振り向く絶世美青年であったなら、少しは重い現実も謳歌出来たかも知れないが……、と考えたところで、この顔との付き合いはこの世界でも続いていくのだ。素直に諦めよう。気を取り直して、俺は装備の代金を押し付けあっているパーティーに向き合った。
「それで、これから魔王を討伐しにいく訳だけど、魔王がいる場所の目星って付いてたりする?」
「目星も何も、魔王の城はあそこですよ」
武道家が指し示す方を向いて俺は卒倒した。鎧の代金は魔法使いが支払ってくれた。
「こんな限界集落で君たちは今まで何をやっていたんだ……」
意識を失うことが許されなかった俺は、手で顔を覆い項垂れた。
俺、まだ転生してひと月しか経ってないよ? 冒険らしい冒険もしてないし、経験値だって一ミリも積んでいない。なによりステータスらしきものは皆無である。完全にチュートリアルが始まってすぐのまま時間停止してない? しかも魔王の城がすでに目と鼻の先にあるって、さっさと死ねと云われてるようなものだよね。死んでやる、とは息巻いたがこんなぐだぐだな展開で死ぬのはさすがにちょっと嫌だ。例えブラック企業から逃げ出した身だとしても、異世界に転生したからにはもう少しまともな展開で死にたい。
というかコイツら俺を死地に送り込む為だけにこの街に留まってたのか?
嘘だと否定してほしくて、武器屋の店主に無言で窓の外に見える禍々しい城へと指を向けると、店主も重々しく頷き返してくれた。嬉しくない。
「こんなザ・凡人に勇者なんて大層な肩書きまで用意しておいて? 経験値を詰むこともなく? 即魔王を討伐しろと? 無理ゲーでは」
「無理でもなんでも行かなきゃ始まりませんよ」
「始まるっていうか終わるよね」
「ほら、よくあるじゃないか。初っぱな魔王に負けてから始まるRPG。あれと一緒だよ。たぶん」
うん、最後の一言は要らない。咄嗟に剣士が武道家のフォローに入ったが、余計に俺の不安を煽ってくる。もしかしてこの二人、相性が良くないな?
しかし、剣士の云うことも一理ある。ステータスも何もなく、魔王の城が目の前なら、高確率で負け確定イベントがルート上に存在しているのだろう。正直痛い思いはしたくないが、この鎧をずっと着ているのもしんどい。さっさと負けてゲームからリタイアしよう。最悪死ぬがこの際どうでもいい。俺は死にたくて弊社の屋上から飛び降りたのだ。死ねるなら本望だ。
「行ってきまーす」
ヤケクソで外に出た。仲間はついてこなかった。知ってたよ。
不安である。正直ブラック企業のなかでも窓際で陰キャを極めていたのだ。いきなり陽キャ全開のクセ強パーティーのリーダーポジションに収まって良い訳がない。というか荷が重い。勇者の肩書きも重い。異世界転生するならせめて平穏なモブとして転生したかった。
「まあ、転生して勇者になったところでモブ顔なのは変わらないんだが」
鏡に写る自身の姿はよれよれのスーツからゴテゴテの鎧に変わっただけで、それ以外の変化は何も見受けられない。悲しいほどに、生前と変わっていない。これが通りを歩くだけで誰もが振り向く絶世美青年であったなら、少しは重い現実も謳歌出来たかも知れないが……、と考えたところで、この顔との付き合いはこの世界でも続いていくのだ。素直に諦めよう。気を取り直して、俺は装備の代金を押し付けあっているパーティーに向き合った。
「それで、これから魔王を討伐しにいく訳だけど、魔王がいる場所の目星って付いてたりする?」
「目星も何も、魔王の城はあそこですよ」
武道家が指し示す方を向いて俺は卒倒した。鎧の代金は魔法使いが支払ってくれた。
「こんな限界集落で君たちは今まで何をやっていたんだ……」
意識を失うことが許されなかった俺は、手で顔を覆い項垂れた。
俺、まだ転生してひと月しか経ってないよ? 冒険らしい冒険もしてないし、経験値だって一ミリも積んでいない。なによりステータスらしきものは皆無である。完全にチュートリアルが始まってすぐのまま時間停止してない? しかも魔王の城がすでに目と鼻の先にあるって、さっさと死ねと云われてるようなものだよね。死んでやる、とは息巻いたがこんなぐだぐだな展開で死ぬのはさすがにちょっと嫌だ。例えブラック企業から逃げ出した身だとしても、異世界に転生したからにはもう少しまともな展開で死にたい。
というかコイツら俺を死地に送り込む為だけにこの街に留まってたのか?
嘘だと否定してほしくて、武器屋の店主に無言で窓の外に見える禍々しい城へと指を向けると、店主も重々しく頷き返してくれた。嬉しくない。
「こんなザ・凡人に勇者なんて大層な肩書きまで用意しておいて? 経験値を詰むこともなく? 即魔王を討伐しろと? 無理ゲーでは」
「無理でもなんでも行かなきゃ始まりませんよ」
「始まるっていうか終わるよね」
「ほら、よくあるじゃないか。初っぱな魔王に負けてから始まるRPG。あれと一緒だよ。たぶん」
うん、最後の一言は要らない。咄嗟に剣士が武道家のフォローに入ったが、余計に俺の不安を煽ってくる。もしかしてこの二人、相性が良くないな?
しかし、剣士の云うことも一理ある。ステータスも何もなく、魔王の城が目の前なら、高確率で負け確定イベントがルート上に存在しているのだろう。正直痛い思いはしたくないが、この鎧をずっと着ているのもしんどい。さっさと負けてゲームからリタイアしよう。最悪死ぬがこの際どうでもいい。俺は死にたくて弊社の屋上から飛び降りたのだ。死ねるなら本望だ。
「行ってきまーす」
ヤケクソで外に出た。仲間はついてこなかった。知ってたよ。
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