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ツイノベ
駅のホーム
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いつもなら一緒にホームに降り立つ攻めは、今日はいない。2週間ほどの出張だ。帰るのは明日になるとスマホへ連絡が来ていた。あと少しだ。
出張に行ってすぐは、まっすぐに家に帰り、同じように仕事から戻った攻めに電話をして声を聞く。
忙しいから長い時間は無理だったけど、1日の終わりに話せるだけでも最高に幸せな気分になれるのだ。
でも本格的に忙しくなっているらしく、帰宅は日付も変わってしまっている。流石にそんな時間に電話はできない。
1人寂しい時間を過ごしながらも、カレンダーへと丸をつけ、カウントダウンしていく。
攻めが忙しくて電話が出来なくなった頃から、改札へと足を運ぶ前に、ホームのベンチでぼーっと時間を過ごすようになっていた。
その日の出来事を振り返ったり、攻めが帰ってきたら何をしようとか、出かけるのも良いけどゆっくり家で過ごすのも良いなとか考えたり。
ベンチで過ごす時間の大半は、攻めのことを考える時間となっていた。
でも今日は、電光掲示板には全ての列車の運転が終了したと表示されている。
明日攻めとゆっくり過ごす為に、残業して仕事を片付けていたら、帰宅が遅くなってしまったのだ。
今日はベンチでのんびり出来ないなぁと諦めてそのまま改札を抜けようとした時、「受け!」と、自分を呼ぶ声。そして目の前には、大きく手を振る愛しい人がいた。
「え?なんで?」
「仕事頑張って切り上げて急いで帰って来たら、家に誰もいないし」
改札を通り抜けた途端、思い切り抱きしめられる。
「玄関で驚きながらも、嬉しそうに出迎えてくれるお前の顔を想像しながら帰ったら、いないんだもんなぁ」
「だって、帰るのは明日だっていうから……」
「それにしても、遅くないか?」
抱きしめられた胸から離され、顔をじーっと見つめられる。
「えっと……。だって、明日帰ってくるって言うから、仕事休み取るために、残業して終わらせてきたんだよ」
「何それ!俺のためか!」
攻めは嬉しそうに言うと、再び自分のもとへと引き寄せると、顎を頭にのせてぐりぐりしてきた。
「ほんと、やることが可愛すぎるんだよ」
理由を聞いた途端満面の笑みになり、そのままギュッと手を繋ぐ。
「家に帰ろっか」
時折横を向いて受けの顔を見つめては、ニコニコと嬉しそうに笑い、また前を向いて歩き出す。そしてまた受けの顔を見て……。
ちょこちょこと攻めの視線を感じると、むず痒くなる。
「ほら、よそ見してると転ぶぞ!前向け、前。早く帰るぞ!」
握られた手をグイッと引っ張ると、自宅の方へと足を早めた。
静まり返った夜の街に、リズムを早めた2人の足音だけが響いていた。
✤✤
鳩さんの『電車から降りた後、直に改札には向かわないでホームのベンチで少しぼーっとするのが好き』というつぶやきを見て思いついたお話です。ありがとう🥰
出張に行ってすぐは、まっすぐに家に帰り、同じように仕事から戻った攻めに電話をして声を聞く。
忙しいから長い時間は無理だったけど、1日の終わりに話せるだけでも最高に幸せな気分になれるのだ。
でも本格的に忙しくなっているらしく、帰宅は日付も変わってしまっている。流石にそんな時間に電話はできない。
1人寂しい時間を過ごしながらも、カレンダーへと丸をつけ、カウントダウンしていく。
攻めが忙しくて電話が出来なくなった頃から、改札へと足を運ぶ前に、ホームのベンチでぼーっと時間を過ごすようになっていた。
その日の出来事を振り返ったり、攻めが帰ってきたら何をしようとか、出かけるのも良いけどゆっくり家で過ごすのも良いなとか考えたり。
ベンチで過ごす時間の大半は、攻めのことを考える時間となっていた。
でも今日は、電光掲示板には全ての列車の運転が終了したと表示されている。
明日攻めとゆっくり過ごす為に、残業して仕事を片付けていたら、帰宅が遅くなってしまったのだ。
今日はベンチでのんびり出来ないなぁと諦めてそのまま改札を抜けようとした時、「受け!」と、自分を呼ぶ声。そして目の前には、大きく手を振る愛しい人がいた。
「え?なんで?」
「仕事頑張って切り上げて急いで帰って来たら、家に誰もいないし」
改札を通り抜けた途端、思い切り抱きしめられる。
「玄関で驚きながらも、嬉しそうに出迎えてくれるお前の顔を想像しながら帰ったら、いないんだもんなぁ」
「だって、帰るのは明日だっていうから……」
「それにしても、遅くないか?」
抱きしめられた胸から離され、顔をじーっと見つめられる。
「えっと……。だって、明日帰ってくるって言うから、仕事休み取るために、残業して終わらせてきたんだよ」
「何それ!俺のためか!」
攻めは嬉しそうに言うと、再び自分のもとへと引き寄せると、顎を頭にのせてぐりぐりしてきた。
「ほんと、やることが可愛すぎるんだよ」
理由を聞いた途端満面の笑みになり、そのままギュッと手を繋ぐ。
「家に帰ろっか」
時折横を向いて受けの顔を見つめては、ニコニコと嬉しそうに笑い、また前を向いて歩き出す。そしてまた受けの顔を見て……。
ちょこちょこと攻めの視線を感じると、むず痒くなる。
「ほら、よそ見してると転ぶぞ!前向け、前。早く帰るぞ!」
握られた手をグイッと引っ張ると、自宅の方へと足を早めた。
静まり返った夜の街に、リズムを早めた2人の足音だけが響いていた。
✤✤
鳩さんの『電車から降りた後、直に改札には向かわないでホームのベンチで少しぼーっとするのが好き』というつぶやきを見て思いついたお話です。ありがとう🥰
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