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68. 弱音と覚悟

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 僕とフィルは、広場の中央に設けられた舞台に立ち、領民たちに向かって挨拶をした。
 まずは、ハイネル家長男である僕が、先に口をひらいた。

「皆さん、今日は僕たちの誕生日を祝ってくださり、ありがとうございます」

 僕が話し始めると、先程まであちこちで聞こえていた賑やかな話し声はピタリと止み、広場は静まり返った。

「本日、僕たちは十八歳の誕生日を迎えることができました。こんなに盛大に皆さんに祝っていただけるとは思っておらず、大変嬉しく思っています。先日は、我が父ハイネル伯爵への嘆願書にご協力いただきましたこと、誠にありがとうございました。私たちハイネル伯爵家の問題に関して、多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたことを、ここにお詫び申し上げます」

 そう言って、僕とフィルは深く頭を下げた。そして顔を上げたあと、今度はフィルが話し始めた。

「そして、ここで正式にお知らせがあります。嘆願書への協力の際の説明と、広場の掲示板にもお知らせした通り、私、フィラット・ハイネルは誕生日の宴をもちまして、ハイネル伯爵家の当主を引き継ぎましたことを、ここにご報告いたします。尊敬する父の教えを守りつつ、新たな試みにも挑戦したいと思っています。このハイネル領がますます繁栄するように、精一杯努力していきますので、これからも皆さんのご支援ご協力をよろしくお願いします」

 僕とフィルの言葉を、噛みしめるように聞き入っていた領民たちが、わぁっと一斉に歓声をあげた。
 あちこちから聞こえる『ハイネル領は安泰だ』という声に、僕たちは顔を見合わせ微笑んだ。







 盛大な誕生日を祝ってもらった僕たちは、皆に挨拶をすると部屋へ戻った。領民たちはもう少し宴を続けるようだった。

「はぁぁぁぁー。つっかれたー!」

 フィルは僕のベッドに大の字で仰向けになると、大きな声でため息をついた。

「お疲れ様。とても立派だったよ」
「そう? 僕、ミッチに褒めてほしくて頑張ったんだから!」
「ふふふ。頑張ったね。良かったよ」

 僕に褒められるためなんて、やっぱりまだ十八歳になったばかりだし、元来の甘えん坊気質もあり、僕にはこうやって心を許して甘えてくれるのが嬉しい。

 一家の主は引き続きお父様だし、家族皆の心の支柱だと思っている。若くして当主となったフィルはまだ未熟で、お父様から学ばなければならないことも多い。今まで交流のあった人たちも、まだまだお父様への信頼が厚いはずだ。

 僕には本音を話して甘えてくるフィルを見ていると、隣でしっかりと支えてあげたいと思った。

「明日からもやることがたくさんあるでしょ? 湯浴みをしてゆっくり休まないと」
「うん、そうだねー。……あ! 久しぶりに一緒に背中流し合おうよ!」
「良い案だね。待ってて、準備をするようにお願いしてくる」

 僕たちはその後、二人で湯浴みをした。何年ぶりだろうか。
 今まで僕が守ってきた背中は、いつしかとても大きくなり、たくましくなっていた。

「ミッチ……」
「なぁに?」

 さっきまではしゃいでいたフィルが、急に声のトーンを落として話しかけてきた。

「僕ね……不安なんだ」
「うん」
「色々あって、振り返る余裕もなくここまで走ってきた感じだけど、やっと今日一段落が付いて、ふと思ったんだよ」
「うん」
「本当なら、もっと僕たちが成長してからの交代だったかもしれないし、僕じゃなくてミッチだったかもしれない。本当に僕でいいのかな……」

 僕より大きくたくましくなったフィルが、フィルより小さな僕の背中にピタリとくっついた。

「大丈夫。フィルなら大丈夫。この一年間の頑張り、ちゃんとみんな見てるよ。アルファだからという過度な期待にも、しっかりと応えてきたじゃないか。……フィルは、僕の自慢の弟だ」
「本当? 僕は、ミッチにとって自慢できる弟?」
「もちろんだよ。双子の片割れの僕が言うんだ、間違いない」
「ふふふ。ミッチが言うなら、間違いないね」
「大丈夫。フィルがいるだけでまわりが明るくなる。みんな笑顔になれるんだ。……僕もそばで支えていくから、大丈夫。一緒に頑張っていこう」
「そうだね。僕たち二人揃えば百人力だ」

 フィルはよしっと気合を入れて「そろそろ出ようか」と言うと、先に湯浴みの部屋から出ていった。

「大丈夫。大丈夫」

 僕は祈るような気持ちで、フィルの背中に向かって、そっと魔法の言葉をかけた。
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