64 / 75
63. 国王陛下のもとへ
しおりを挟む
「身寄りがなく、グレース孤児院の前に置き去りにされていた俺は、院長に拾われなければ、命を落としていたかもしれない。……たしかに、暮らしは豊かとは言えなかった。それでも貧しいながらも、みんな仲良く身を寄せ合って生きていたし、グレース孤児院は俺の唯一の居場所だった。……だから、俺は早くに孤児院を出て働いて、少しでも恩返しをしたいと思っていたんだ」
フレッドは、苦しそうに眉をしかめながらも、止めようとはせず、話を続けた。
「グレース孤児院が、なぜ孤児の労働力搾取という行為を行うようになったのかは、国王陛下が調査すると思う。俺たちが知り得た事実は、グレース孤児院が人身売買にあたるような行いをしていたということ。リヒター公爵家は、表向きは慈善事業として孤児院と関わっていたけど、裏では孤児院から利益としてお金を受け取っていたこと。……旦那様が、その事実を知らずに、リヒター公爵家との繋がりを確かなものとするために、言われるがままに資金援助を続けたこと」
フレッドはそこまで言うと、やっと言葉を止めた。
本当は、まだ話さなければいけないことはたくさんあるのかもしれない。けど僕はもう辛そうなフレッドを見ていられなくて、思わず両手でフレッドの口元を抑えた。
「もう、いいよ。ここまででいい。……今は、お父様の関わりがどう判断されるか、その動向を見守るだけでいい。それ以外のことは、またゆっくり考えよう」
僕は、フレッドの口元に持っていった手を離すと、そのままフレッドの首に腕を回して抱きついた。
「今僕が言えることは、フレッドが何度もあった危機を乗り越えて、僕の前に存在してくれていることが幸せなんだ。これからのことは、二人でゆっくり歩んでいけばいい。これからずっと一緒なんだから、急がなくてもいいんだよ」
「そう……だな。俺たちは、運命さえも超えた運命だからな。どんな困難でも二人なら乗り越えられる」
からだを離し、二人で見つめ合う。
そして、二人だけの誓いをするように、そっと口づけをした。
◇
資金援助により財政的に苦しくなっていたハイネル家には、アーホルン公爵家からの援助の派遣により、使用人が増強されることになった。
そのおかげで、家の防犯はもちろんのこと、しばらく手の行き届かなかった場所の清掃や修復作業なども行えるようになった。人数が増えたことで、賑やかさも取り戻し、屋敷内も明るくなったように思う。
少しずつハイネル家の再生が進む中、八月のフィルの帰省にあわせて、国王陛下に、リヒター公爵家の不審な動きについての報告をしに行くことになった。同時に、こちらで調べた資料と、お父様の今後に対する嘆願書も提出するそうだ。
だけど、屋敷内の使用人の増員はできたものの、まだ移動の際の護衛などは心もとない。なので、国王陛下のところへ行く前に、アーホルン公爵家へ立ち寄り、数名の使用人に同行してもらえることになった。
これも、フレッドがアーホルン公爵家との橋渡しとなってくれているおかげで、順調に行われていた。
数日の滞在期間も含めると、帰宅するのは二週間程度先と見込まれるらしい。
その間のハイネル家は僕に任せて! なんて胸を張って言ってみたものの、みんないっぺんに出かけてしまうのは寂しかった。
出かけるまでに、僕とフレッドはお互いの手ぬぐいを交換した。僕がフレッドに渡したのは、昨日抱きしめて寝たものだ。不在の間はこの手ぬぐいをお守り代わりにするんだ。
僕は教会へ足を運び、みんなの無事を祈った。
お母様たちが国王陛下のもとへ向かってから、二週間ほど過ぎた頃、一足早く見張りの使用人が早馬で戻ってきた。まもなく到着するとの知らせだった。
馬車での旅路は順調に進み、何事もなく終わりそうだったため、使用人は一足先に戻り、無事の知らせを伝えに来たのだ。
おそらく、僕たちを安心させようと、フレッドが使用人に指示をしてくれたのだと思う。
早馬で使用人が知らせに来てから、一日ほど経った次の日のお昼前には、お母様たちは無事帰宅した。
フレッドは、苦しそうに眉をしかめながらも、止めようとはせず、話を続けた。
「グレース孤児院が、なぜ孤児の労働力搾取という行為を行うようになったのかは、国王陛下が調査すると思う。俺たちが知り得た事実は、グレース孤児院が人身売買にあたるような行いをしていたということ。リヒター公爵家は、表向きは慈善事業として孤児院と関わっていたけど、裏では孤児院から利益としてお金を受け取っていたこと。……旦那様が、その事実を知らずに、リヒター公爵家との繋がりを確かなものとするために、言われるがままに資金援助を続けたこと」
フレッドはそこまで言うと、やっと言葉を止めた。
本当は、まだ話さなければいけないことはたくさんあるのかもしれない。けど僕はもう辛そうなフレッドを見ていられなくて、思わず両手でフレッドの口元を抑えた。
「もう、いいよ。ここまででいい。……今は、お父様の関わりがどう判断されるか、その動向を見守るだけでいい。それ以外のことは、またゆっくり考えよう」
僕は、フレッドの口元に持っていった手を離すと、そのままフレッドの首に腕を回して抱きついた。
「今僕が言えることは、フレッドが何度もあった危機を乗り越えて、僕の前に存在してくれていることが幸せなんだ。これからのことは、二人でゆっくり歩んでいけばいい。これからずっと一緒なんだから、急がなくてもいいんだよ」
「そう……だな。俺たちは、運命さえも超えた運命だからな。どんな困難でも二人なら乗り越えられる」
からだを離し、二人で見つめ合う。
そして、二人だけの誓いをするように、そっと口づけをした。
◇
資金援助により財政的に苦しくなっていたハイネル家には、アーホルン公爵家からの援助の派遣により、使用人が増強されることになった。
そのおかげで、家の防犯はもちろんのこと、しばらく手の行き届かなかった場所の清掃や修復作業なども行えるようになった。人数が増えたことで、賑やかさも取り戻し、屋敷内も明るくなったように思う。
少しずつハイネル家の再生が進む中、八月のフィルの帰省にあわせて、国王陛下に、リヒター公爵家の不審な動きについての報告をしに行くことになった。同時に、こちらで調べた資料と、お父様の今後に対する嘆願書も提出するそうだ。
だけど、屋敷内の使用人の増員はできたものの、まだ移動の際の護衛などは心もとない。なので、国王陛下のところへ行く前に、アーホルン公爵家へ立ち寄り、数名の使用人に同行してもらえることになった。
これも、フレッドがアーホルン公爵家との橋渡しとなってくれているおかげで、順調に行われていた。
数日の滞在期間も含めると、帰宅するのは二週間程度先と見込まれるらしい。
その間のハイネル家は僕に任せて! なんて胸を張って言ってみたものの、みんないっぺんに出かけてしまうのは寂しかった。
出かけるまでに、僕とフレッドはお互いの手ぬぐいを交換した。僕がフレッドに渡したのは、昨日抱きしめて寝たものだ。不在の間はこの手ぬぐいをお守り代わりにするんだ。
僕は教会へ足を運び、みんなの無事を祈った。
お母様たちが国王陛下のもとへ向かってから、二週間ほど過ぎた頃、一足早く見張りの使用人が早馬で戻ってきた。まもなく到着するとの知らせだった。
馬車での旅路は順調に進み、何事もなく終わりそうだったため、使用人は一足先に戻り、無事の知らせを伝えに来たのだ。
おそらく、僕たちを安心させようと、フレッドが使用人に指示をしてくれたのだと思う。
早馬で使用人が知らせに来てから、一日ほど経った次の日のお昼前には、お母様たちは無事帰宅した。
88
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
「本編完結」あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、R指定無しの全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
6話までは、ツイノベを加筆修正しての公開、7話から物語が動き出します。
本編は全35話。番外編は不定期に更新されます。
サブキャラ達視点のスピンオフも予定しています。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
投稿にあたり許可をいただき、ありがとうございます(,,ᴗ ᴗ,,)ペコリ
ドキドキで緊張しまくりですが、よろしくお願いします。
✤お知らせ✤
第12回BL大賞 にエントリーしました。
新作【再び巡り合う時 ~転生オメガバース~】共々、よろしくお願い致します。
11/21(木)6:00より、スピンオフ「星司と月歌」連載します。
11/24(日)18:00完結の短編です。
1日4回更新です。
一ノ瀬麻紀🐈🐈⬛
捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。
僕の大好きな旦那様は後悔する
小町
BL
バッドエンドです!
攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!!
暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる