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59. フレッドの身分
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「あの怪我のあと、治るまで仕事を休んで、療養させてもらっていたんだ。でも、ずっと部屋に閉じこもっていても気持ちが滅入ってしまうから、回復したあとに、気分転換に街に出かけていったんだ」
僕がお父様の逆鱗に触れて、塔に閉じ込められたあとの話だ。あの時は塔から出られなかったから、フレッドの安否も分からず、不安でたまらなかったのを思い出す。
「その出かけた先で、知らぬ人に声をかけられた。……それは、アーホルン公爵家の従者だったんだ」
「アーホルン公爵家??」
「そう。俺が今名乗っている名前。……いずれ、俺はアーホルン公爵家当主になる予定なんだけど……」
「はぇ!?」
フレッドは、至って真面目な話をしているのに、僕にとって想定外すぎて変な声が出てしまった。
だって、身寄りがなくて孤児院出身だと聞いていたフレッドが、今は上位貴族の公爵家の名を名乗り、その上、いずれは当主の座を引き継ぐということでしょ?
ということは、婚約した僕はどうなるの?? え? 僕もアーホルン公爵家の一員になるの? それどころか、アーホルン公爵夫人になるってこと??
僕の頭の中は、パニック状態だ。きっと言葉は発していないけど、あたふたした様子は伝わったのだろう。フレッドはそんな僕に優しい視線を向けた。
「アーホルン公爵家の従者に声をかけられたあと、奥様には包み隠さずお話したんだ。……そしたら奥様は『私はあの人には逆らえないけど、あなた達の味方よ。ここを出て、アーホルン公爵家に行きなさい』って、そう言われたんだ」
「お母様はそんなことを……」
「だから俺は、現状を変える糸口が見つかるかもしれないと、アーホルン公爵家へ行くことを決めた」
それから、フレッドはうちを出てからのことを淡々と話してくれた。
フィルの婚約が白紙になって、公爵家との繋がりができると思ったのに、お父様の目論見が外れた。なのでお父様はすぐさまフィルを連れて、あちこちの社交パーティーへ顔を出すようになった。
そこで、フレッドとフィルが再会した。フィルはものすごく驚いていたらしい。だって、孤児院育ちで使用人をやっていたはずのフレッドが、貴族しか参加できないはずのパーティーにいたのだから。
後日約束をして改めて会った時に、僕にもお父様にもバレてしまう可能性があったから、フィルには内緒にしていたと言ったら、プンプンと怒っていたらしい。
まぁ、フィルの性格を考えると、お母様とフレッドがその判断に至ったのは分かる気もするけど。
「でも……。なんでフィルの婚約は白紙になってしまったの? うまくいっているように見えたのに」
そのことは、ずっと引っかかっていた。それに、婚約というのは正式な効力を持つのだから、どちらかの契約違反でもない限りは、婚約が破棄されることはない。それなのに、婚約の白紙というのはどう考えてもおかしい。
フィルと会って色々と話をしたのなら、婚約が白紙になったことについても話を聞いているかと思い質問してみた。
「そのことは、聞いてもフィル自身は知らなかった。なんでダメだったんだろうって、しょげていた」
「そっか……。うん、僕と会ったときも、コニーとうまくやってたと思ったのに何でだろうって……」
「けど、奥様の指示で調べているうちに、フィルの婚約についても色々と判明したんだ」
「判明?」
「フィルの婚約相手の、リヒター公爵家への金銭の流れが、どう考えても不自然だったんだ」
「どういうこと……?」
意味が分からずぽかんとする僕に、フレッドはゆっくり説明をしてくれた。
「え? ……それじゃあ、お父様は不透明な資金援助までしていたの……? しかも、お母様に相談なく……?」
「そうだ。婚約の話自体も旦那様の独断で決められた。その後も一切相談もなく、次から次へと資金援助をし、ハイネル家の財政は悪化していった。どうやら、旦那様は弱みを握られ、断りきれずに資金援助を続けてしまったらしい」
「弱み……?」
想定以上の内容に、僕の頭はパンク寸前になってしまっていた。
僕がお父様の逆鱗に触れて、塔に閉じ込められたあとの話だ。あの時は塔から出られなかったから、フレッドの安否も分からず、不安でたまらなかったのを思い出す。
「その出かけた先で、知らぬ人に声をかけられた。……それは、アーホルン公爵家の従者だったんだ」
「アーホルン公爵家??」
「そう。俺が今名乗っている名前。……いずれ、俺はアーホルン公爵家当主になる予定なんだけど……」
「はぇ!?」
フレッドは、至って真面目な話をしているのに、僕にとって想定外すぎて変な声が出てしまった。
だって、身寄りがなくて孤児院出身だと聞いていたフレッドが、今は上位貴族の公爵家の名を名乗り、その上、いずれは当主の座を引き継ぐということでしょ?
ということは、婚約した僕はどうなるの?? え? 僕もアーホルン公爵家の一員になるの? それどころか、アーホルン公爵夫人になるってこと??
僕の頭の中は、パニック状態だ。きっと言葉は発していないけど、あたふたした様子は伝わったのだろう。フレッドはそんな僕に優しい視線を向けた。
「アーホルン公爵家の従者に声をかけられたあと、奥様には包み隠さずお話したんだ。……そしたら奥様は『私はあの人には逆らえないけど、あなた達の味方よ。ここを出て、アーホルン公爵家に行きなさい』って、そう言われたんだ」
「お母様はそんなことを……」
「だから俺は、現状を変える糸口が見つかるかもしれないと、アーホルン公爵家へ行くことを決めた」
それから、フレッドはうちを出てからのことを淡々と話してくれた。
フィルの婚約が白紙になって、公爵家との繋がりができると思ったのに、お父様の目論見が外れた。なのでお父様はすぐさまフィルを連れて、あちこちの社交パーティーへ顔を出すようになった。
そこで、フレッドとフィルが再会した。フィルはものすごく驚いていたらしい。だって、孤児院育ちで使用人をやっていたはずのフレッドが、貴族しか参加できないはずのパーティーにいたのだから。
後日約束をして改めて会った時に、僕にもお父様にもバレてしまう可能性があったから、フィルには内緒にしていたと言ったら、プンプンと怒っていたらしい。
まぁ、フィルの性格を考えると、お母様とフレッドがその判断に至ったのは分かる気もするけど。
「でも……。なんでフィルの婚約は白紙になってしまったの? うまくいっているように見えたのに」
そのことは、ずっと引っかかっていた。それに、婚約というのは正式な効力を持つのだから、どちらかの契約違反でもない限りは、婚約が破棄されることはない。それなのに、婚約の白紙というのはどう考えてもおかしい。
フィルと会って色々と話をしたのなら、婚約が白紙になったことについても話を聞いているかと思い質問してみた。
「そのことは、聞いてもフィル自身は知らなかった。なんでダメだったんだろうって、しょげていた」
「そっか……。うん、僕と会ったときも、コニーとうまくやってたと思ったのに何でだろうって……」
「けど、奥様の指示で調べているうちに、フィルの婚約についても色々と判明したんだ」
「判明?」
「フィルの婚約相手の、リヒター公爵家への金銭の流れが、どう考えても不自然だったんだ」
「どういうこと……?」
意味が分からずぽかんとする僕に、フレッドはゆっくり説明をしてくれた。
「え? ……それじゃあ、お父様は不透明な資金援助までしていたの……? しかも、お母様に相談なく……?」
「そうだ。婚約の話自体も旦那様の独断で決められた。その後も一切相談もなく、次から次へと資金援助をし、ハイネル家の財政は悪化していった。どうやら、旦那様は弱みを握られ、断りきれずに資金援助を続けてしまったらしい」
「弱み……?」
想定以上の内容に、僕の頭はパンク寸前になってしまっていた。
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