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57. 報告
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「その件については話がまとまったようなので、ひとつ私からもよろしいでしょうか」
少し余所行きの声で手を上げて発言したのは、フレッドだった。
「うん、大丈夫だけど……。どうしたの?」
自分が進行役となり、話を進め、最終的にお父様からの承諾を得るという、重大任務を終えたフィルは、すっかりいつものフィルに戻っていた。
「それでは、私はこれで失礼するよ」
フィルとフレッドの会話が始まると、お父様は話が終わったのだからもう良いだろうと、立ち上がった。
けれどフレッドは、その立ち上がったお父様に向かって、深々とお辞儀をした。
「旦那様、お忙しい中大変恐縮なのですが、もうしばらくお時間をいただけないでしょうか」
予想外の言葉だったのだろう。お父様は怪訝そうに眉間にシワを寄せた。
先程まで、いわゆる自分の公開処刑に近いようなことをしていたのだ。その上で呼び止められたら、まだ何かあるのかと、過剰に反応してしまうのも仕方がない。
「すみません、もう一度お座りいただけますか?」
「……わかった。手短に頼む」
「ありがとうございます」
フレッドはもう一度お父様に頭を下げると、今度は僕の隣までやってきた。
どうしたんだろう? と思っていたけど、やっとそこで僕は気付いた。
家族みんなに、僕たちのことを話すつもりだと。
そう気付いた僕の心臓は、一気に跳ね上がった。
「ミッチ」
フレッドはそう言うと、僕の手を優しく取り、立ち上がるように促した。
そして手を取り合ったまま、二人揃って家族と向き合う姿勢になった。
「突然の報告となりますが、私、フレドリック・アーホルンとミッチェル・ハイネルは、結婚の約束をしたことを、ここにご報告いたします」
フレッドがそう言って、家族の前で深々と頭を下げるものだから、僕も慌てて頭を下げた。
そんな僕たちに、パチパチと拍手の音が聞こえてきた。
「良かったわ。フレドリック、ちゃんと伝えられたのね」
「ミッチもプロポーズを受けたんだね。僕、安心したよ。良かった、本当に良かった」
顔を上げると、フィルとお母様がニコニコして僕たちを見ていた。
お父様は、少し複雑そうな顔をしつつも、驚いている様子は見られなかった。
なんでだろう? そう思いフレッドを見ると、ふわりと微笑んだ。
「本人たちの気持ちが一番だとは思っているけど、やはり家同士のつながりもあるし、事前にご家族に説明をしてプロポーズの許可を得ていたんだ」
「え……? そうだったの?」
「ハイネル家のこれからのことにも関わってくる問題だから、事前に説明をしてあるんだ」
「ハイネル家の?」
「そう。ミッチにもちゃんと話さなきゃいけないこともあるから、あとで部屋でしっかりと説明するよ」
フレッドはそう言うと、再び家族の方に視線を向けた。
「今までの経緯とこれからのことを、ミッチに説明をしようと思います。……奥様、書斎をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんいいわよ。あそこはしばらくミッチェルが使っていたし、もうそのままミッチェルの部屋にしても大丈夫なくらいよ」
ふふふと嬉しそうに答えるお母様に、フレッドも微笑んで「ありがとうございます」と言った。
「さぁ、今日はミッチェルとフレドリックの婚約が成立したお祝いをしなきゃね」
お母様はそう言うと、嬉しそうに部屋を出ていき、廊下で見張りをしていたペーターに声をかけていた。
お父様は、笑顔のひとつもないまま「失礼するよ」と小さく口にすると部屋を出ていった。
色々なことがあったし、まだこれからも問題は山積みだから、お父様が自然と笑えるのは、もう少しあとなのかもしれない。
少し余所行きの声で手を上げて発言したのは、フレッドだった。
「うん、大丈夫だけど……。どうしたの?」
自分が進行役となり、話を進め、最終的にお父様からの承諾を得るという、重大任務を終えたフィルは、すっかりいつものフィルに戻っていた。
「それでは、私はこれで失礼するよ」
フィルとフレッドの会話が始まると、お父様は話が終わったのだからもう良いだろうと、立ち上がった。
けれどフレッドは、その立ち上がったお父様に向かって、深々とお辞儀をした。
「旦那様、お忙しい中大変恐縮なのですが、もうしばらくお時間をいただけないでしょうか」
予想外の言葉だったのだろう。お父様は怪訝そうに眉間にシワを寄せた。
先程まで、いわゆる自分の公開処刑に近いようなことをしていたのだ。その上で呼び止められたら、まだ何かあるのかと、過剰に反応してしまうのも仕方がない。
「すみません、もう一度お座りいただけますか?」
「……わかった。手短に頼む」
「ありがとうございます」
フレッドはもう一度お父様に頭を下げると、今度は僕の隣までやってきた。
どうしたんだろう? と思っていたけど、やっとそこで僕は気付いた。
家族みんなに、僕たちのことを話すつもりだと。
そう気付いた僕の心臓は、一気に跳ね上がった。
「ミッチ」
フレッドはそう言うと、僕の手を優しく取り、立ち上がるように促した。
そして手を取り合ったまま、二人揃って家族と向き合う姿勢になった。
「突然の報告となりますが、私、フレドリック・アーホルンとミッチェル・ハイネルは、結婚の約束をしたことを、ここにご報告いたします」
フレッドがそう言って、家族の前で深々と頭を下げるものだから、僕も慌てて頭を下げた。
そんな僕たちに、パチパチと拍手の音が聞こえてきた。
「良かったわ。フレドリック、ちゃんと伝えられたのね」
「ミッチもプロポーズを受けたんだね。僕、安心したよ。良かった、本当に良かった」
顔を上げると、フィルとお母様がニコニコして僕たちを見ていた。
お父様は、少し複雑そうな顔をしつつも、驚いている様子は見られなかった。
なんでだろう? そう思いフレッドを見ると、ふわりと微笑んだ。
「本人たちの気持ちが一番だとは思っているけど、やはり家同士のつながりもあるし、事前にご家族に説明をしてプロポーズの許可を得ていたんだ」
「え……? そうだったの?」
「ハイネル家のこれからのことにも関わってくる問題だから、事前に説明をしてあるんだ」
「ハイネル家の?」
「そう。ミッチにもちゃんと話さなきゃいけないこともあるから、あとで部屋でしっかりと説明するよ」
フレッドはそう言うと、再び家族の方に視線を向けた。
「今までの経緯とこれからのことを、ミッチに説明をしようと思います。……奥様、書斎をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんいいわよ。あそこはしばらくミッチェルが使っていたし、もうそのままミッチェルの部屋にしても大丈夫なくらいよ」
ふふふと嬉しそうに答えるお母様に、フレッドも微笑んで「ありがとうございます」と言った。
「さぁ、今日はミッチェルとフレドリックの婚約が成立したお祝いをしなきゃね」
お母様はそう言うと、嬉しそうに部屋を出ていき、廊下で見張りをしていたペーターに声をかけていた。
お父様は、笑顔のひとつもないまま「失礼するよ」と小さく口にすると部屋を出ていった。
色々なことがあったし、まだこれからも問題は山積みだから、お父様が自然と笑えるのは、もう少しあとなのかもしれない。
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