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55. 家族会議
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塔を降りて屋敷内の書斎に移動すると、向こうからペーターが歩いてきた。
「ミッチェル様、奥様はもう書斎でお待ちです」
「ありがとう。……ペーターも同席するの?」
「いえ、私は廊下で見張りをしております」
そう言うと、深く頭を下げ、書斎の扉を開けた。
ここは、お母様のプライベートな書斎とは別で、家族共有で使用している書斎だ。家族での話し合いにぴったりな場所だと思う。
「お母様、お待たせしました」
「まだ皆集まっていないから大丈夫よ。……お父様は、フィルが今迎えに行ってるわ」
お母様の言葉には、わずかに緊張が感じられた。
しばらくして、静まり返った廊下に、ふたつの足音が近づいてきた。お父様とフィルだろう。
ペーターの案内する声が聞こえた後に、扉が静かに開いた。扉の向こうに立つお父様の顔は、心なしか少しやつれているようにも見えた。
各々が席につくと、進行役を務めるフィルが、家族全員を見渡してから軽く咳払いをし、話し始めた。
「みなさまに集まっていただいたのは、今後のハイネル家にとって、とても大切な話をするためです」
フィルの言葉に、その場にいる皆の緊張が高まったのを感じた。
このような雰囲気は、ハイネル家に今までに一度もなかった。
「本来ならば家族の決め事は、長であるお父様が中心となって話し合うべきですが、今回の事案につきましては、お父様自身に関わることですので、僕が代わりに進行役を努めさせていただきます」
僕は押しつぶされそうな重い空気を感じ、顔を上げられずに俯いてしまった。お父様の表情も見えず、今どんな気持ちなのかをうかがい知ることもできなかった。
そこからは、淡々と調査された内容について、フィルが要点をまとめて話していく。
でもこれは、事前に僕以外はみな内容を知っていて、確認のために読み上げているだけのようだった。
僕がオメガだからと排除されたのはお父様の独断であって、本来ならば家族の話し合いなのだから、僕も初めから混ざるべきだ。ただ、お父様の気持ちを逆撫でしないように、慎重に事を進めているように思う。
だからお母様は、フレッドとペーターに水面下での調査を指示した。それをもとに、僕以外の家族には事前に事実を話し、証拠も提示し、そしてフィルはお父様との対話を続けてきた。
アルファ至上主義の考えの中で育ったお父様が、自分のしたことを知り、認め、考えを改めるのは、そう簡単ではないだろう。
そして今日は家族全員が集まった。先ほどフレッドは、最終的な答えをお聞きすると言っていた。だから今日は僕も呼ばれたのだろう。
「事前に、お父様とお母様とフレッドと僕は内容を把握しています。ミッチは、身の安全を考慮し、塔の部屋で待機してもらっていたため、内容を知るのは今日が初めてです」
そう言って、フィルはこちらを見たようだったけど、重い空気にまだ下を向いたままの僕は気付かなかった。
そのままフィルは話を続けた。
「十二歳の時のバース検査で、ミッチがオメガとわかったあの日から、この家はおかしくなりました。……いえ、お父様が別人のようになってしまった。反論したくても、僕はまだ未熟。お母様も一家の主に逆らうことは出来ませんでした。それでも、お父様の不自然な行動が増え、さすがにこのままではいけないと考え、水面下で調査を行った結果、大変な事実が発覚しました」
そこでフィルは一度言葉を止め、大きく深呼吸をしてから、次の言葉を口に出した。
「お父様は、このハイネル家を良くしようと躍起になったのだと思います。アルファとわかった僕を次期当主とすることに決め、婿探しをした。けれどその相手の家族は、どうも様子がおかしかった。なので調べた結果、その相手が犯罪に手を染めていたとわかったのです」
「えっ……犯罪……!?」
それまで下を向いていた僕だけど、あまりの予想外の言葉にびっくりして顔をあげた。
「ミッチェル様、奥様はもう書斎でお待ちです」
「ありがとう。……ペーターも同席するの?」
「いえ、私は廊下で見張りをしております」
そう言うと、深く頭を下げ、書斎の扉を開けた。
ここは、お母様のプライベートな書斎とは別で、家族共有で使用している書斎だ。家族での話し合いにぴったりな場所だと思う。
「お母様、お待たせしました」
「まだ皆集まっていないから大丈夫よ。……お父様は、フィルが今迎えに行ってるわ」
お母様の言葉には、わずかに緊張が感じられた。
しばらくして、静まり返った廊下に、ふたつの足音が近づいてきた。お父様とフィルだろう。
ペーターの案内する声が聞こえた後に、扉が静かに開いた。扉の向こうに立つお父様の顔は、心なしか少しやつれているようにも見えた。
各々が席につくと、進行役を務めるフィルが、家族全員を見渡してから軽く咳払いをし、話し始めた。
「みなさまに集まっていただいたのは、今後のハイネル家にとって、とても大切な話をするためです」
フィルの言葉に、その場にいる皆の緊張が高まったのを感じた。
このような雰囲気は、ハイネル家に今までに一度もなかった。
「本来ならば家族の決め事は、長であるお父様が中心となって話し合うべきですが、今回の事案につきましては、お父様自身に関わることですので、僕が代わりに進行役を努めさせていただきます」
僕は押しつぶされそうな重い空気を感じ、顔を上げられずに俯いてしまった。お父様の表情も見えず、今どんな気持ちなのかをうかがい知ることもできなかった。
そこからは、淡々と調査された内容について、フィルが要点をまとめて話していく。
でもこれは、事前に僕以外はみな内容を知っていて、確認のために読み上げているだけのようだった。
僕がオメガだからと排除されたのはお父様の独断であって、本来ならば家族の話し合いなのだから、僕も初めから混ざるべきだ。ただ、お父様の気持ちを逆撫でしないように、慎重に事を進めているように思う。
だからお母様は、フレッドとペーターに水面下での調査を指示した。それをもとに、僕以外の家族には事前に事実を話し、証拠も提示し、そしてフィルはお父様との対話を続けてきた。
アルファ至上主義の考えの中で育ったお父様が、自分のしたことを知り、認め、考えを改めるのは、そう簡単ではないだろう。
そして今日は家族全員が集まった。先ほどフレッドは、最終的な答えをお聞きすると言っていた。だから今日は僕も呼ばれたのだろう。
「事前に、お父様とお母様とフレッドと僕は内容を把握しています。ミッチは、身の安全を考慮し、塔の部屋で待機してもらっていたため、内容を知るのは今日が初めてです」
そう言って、フィルはこちらを見たようだったけど、重い空気にまだ下を向いたままの僕は気付かなかった。
そのままフィルは話を続けた。
「十二歳の時のバース検査で、ミッチがオメガとわかったあの日から、この家はおかしくなりました。……いえ、お父様が別人のようになってしまった。反論したくても、僕はまだ未熟。お母様も一家の主に逆らうことは出来ませんでした。それでも、お父様の不自然な行動が増え、さすがにこのままではいけないと考え、水面下で調査を行った結果、大変な事実が発覚しました」
そこでフィルは一度言葉を止め、大きく深呼吸をしてから、次の言葉を口に出した。
「お父様は、このハイネル家を良くしようと躍起になったのだと思います。アルファとわかった僕を次期当主とすることに決め、婿探しをした。けれどその相手の家族は、どうも様子がおかしかった。なので調べた結果、その相手が犯罪に手を染めていたとわかったのです」
「えっ……犯罪……!?」
それまで下を向いていた僕だけど、あまりの予想外の言葉にびっくりして顔をあげた。
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