56 / 84
55. 家族会議
しおりを挟む
塔を降りて屋敷内の書斎に移動すると、向こうからペーターが歩いてきた。
「ミッチェル様、奥様はもう書斎でお待ちです」
「ありがとう。……ペーターも同席するの?」
「いえ、私は廊下で見張りをしております」
そう言うと、深く頭を下げ、書斎の扉を開けた。
ここは、お母様のプライベートな書斎とは別で、家族共有で使用している書斎だ。家族での話し合いにぴったりな場所だと思う。
「お母様、お待たせしました」
「まだ皆集まっていないから大丈夫よ。……お父様は、フィルが今迎えに行ってるわ」
お母様の言葉には、わずかに緊張が感じられた。
しばらくして、静まり返った廊下に、ふたつの足音が近づいてきた。お父様とフィルだろう。
ペーターの案内する声が聞こえた後に、扉が静かに開いた。扉の向こうに立つお父様の顔は、心なしか少しやつれているようにも見えた。
各々が席につくと、進行役を務めるフィルが、家族全員を見渡してから軽く咳払いをし、話し始めた。
「みなさまに集まっていただいたのは、今後のハイネル家にとって、とても大切な話をするためです」
フィルの言葉に、その場にいる皆の緊張が高まったのを感じた。
このような雰囲気は、ハイネル家に今までに一度もなかった。
「本来ならば家族の決め事は、長であるお父様が中心となって話し合うべきですが、今回の事案につきましては、お父様自身に関わることですので、僕が代わりに進行役を努めさせていただきます」
僕は押しつぶされそうな重い空気を感じ、顔を上げられずに俯いてしまった。お父様の表情も見えず、今どんな気持ちなのかをうかがい知ることもできなかった。
そこからは、淡々と調査された内容について、フィルが要点をまとめて話していく。
でもこれは、事前に僕以外はみな内容を知っていて、確認のために読み上げているだけのようだった。
僕がオメガだからと排除されたのはお父様の独断であって、本来ならば家族の話し合いなのだから、僕も初めから混ざるべきだ。ただ、お父様の気持ちを逆撫でしないように、慎重に事を進めているように思う。
だからお母様は、フレッドとペーターに水面下での調査を指示した。それをもとに、僕以外の家族には事前に事実を話し、証拠も提示し、そしてフィルはお父様との対話を続けてきた。
アルファ至上主義の考えの中で育ったお父様が、自分のしたことを知り、認め、考えを改めるのは、そう簡単ではないだろう。
そして今日は家族全員が集まった。先ほどフレッドは、最終的な答えをお聞きすると言っていた。だから今日は僕も呼ばれたのだろう。
「事前に、お父様とお母様とフレッドと僕は内容を把握しています。ミッチは、身の安全を考慮し、塔の部屋で待機してもらっていたため、内容を知るのは今日が初めてです」
そう言って、フィルはこちらを見たようだったけど、重い空気にまだ下を向いたままの僕は気付かなかった。
そのままフィルは話を続けた。
「十二歳の時のバース検査で、ミッチがオメガとわかったあの日から、この家はおかしくなりました。……いえ、お父様が別人のようになってしまった。反論したくても、僕はまだ未熟。お母様も一家の主に逆らうことは出来ませんでした。それでも、お父様の不自然な行動が増え、さすがにこのままではいけないと考え、水面下で調査を行った結果、大変な事実が発覚しました」
そこでフィルは一度言葉を止め、大きく深呼吸をしてから、次の言葉を口に出した。
「お父様は、このハイネル家を良くしようと躍起になったのだと思います。アルファとわかった僕を次期当主とすることに決め、婿探しをした。けれどその相手の家族は、どうも様子がおかしかった。なので調べた結果、その相手が犯罪に手を染めていたとわかったのです」
「えっ……犯罪……!?」
それまで下を向いていた僕だけど、あまりの予想外の言葉にびっくりして顔をあげた。
「ミッチェル様、奥様はもう書斎でお待ちです」
「ありがとう。……ペーターも同席するの?」
「いえ、私は廊下で見張りをしております」
そう言うと、深く頭を下げ、書斎の扉を開けた。
ここは、お母様のプライベートな書斎とは別で、家族共有で使用している書斎だ。家族での話し合いにぴったりな場所だと思う。
「お母様、お待たせしました」
「まだ皆集まっていないから大丈夫よ。……お父様は、フィルが今迎えに行ってるわ」
お母様の言葉には、わずかに緊張が感じられた。
しばらくして、静まり返った廊下に、ふたつの足音が近づいてきた。お父様とフィルだろう。
ペーターの案内する声が聞こえた後に、扉が静かに開いた。扉の向こうに立つお父様の顔は、心なしか少しやつれているようにも見えた。
各々が席につくと、進行役を務めるフィルが、家族全員を見渡してから軽く咳払いをし、話し始めた。
「みなさまに集まっていただいたのは、今後のハイネル家にとって、とても大切な話をするためです」
フィルの言葉に、その場にいる皆の緊張が高まったのを感じた。
このような雰囲気は、ハイネル家に今までに一度もなかった。
「本来ならば家族の決め事は、長であるお父様が中心となって話し合うべきですが、今回の事案につきましては、お父様自身に関わることですので、僕が代わりに進行役を努めさせていただきます」
僕は押しつぶされそうな重い空気を感じ、顔を上げられずに俯いてしまった。お父様の表情も見えず、今どんな気持ちなのかをうかがい知ることもできなかった。
そこからは、淡々と調査された内容について、フィルが要点をまとめて話していく。
でもこれは、事前に僕以外はみな内容を知っていて、確認のために読み上げているだけのようだった。
僕がオメガだからと排除されたのはお父様の独断であって、本来ならば家族の話し合いなのだから、僕も初めから混ざるべきだ。ただ、お父様の気持ちを逆撫でしないように、慎重に事を進めているように思う。
だからお母様は、フレッドとペーターに水面下での調査を指示した。それをもとに、僕以外の家族には事前に事実を話し、証拠も提示し、そしてフィルはお父様との対話を続けてきた。
アルファ至上主義の考えの中で育ったお父様が、自分のしたことを知り、認め、考えを改めるのは、そう簡単ではないだろう。
そして今日は家族全員が集まった。先ほどフレッドは、最終的な答えをお聞きすると言っていた。だから今日は僕も呼ばれたのだろう。
「事前に、お父様とお母様とフレッドと僕は内容を把握しています。ミッチは、身の安全を考慮し、塔の部屋で待機してもらっていたため、内容を知るのは今日が初めてです」
そう言って、フィルはこちらを見たようだったけど、重い空気にまだ下を向いたままの僕は気付かなかった。
そのままフィルは話を続けた。
「十二歳の時のバース検査で、ミッチがオメガとわかったあの日から、この家はおかしくなりました。……いえ、お父様が別人のようになってしまった。反論したくても、僕はまだ未熟。お母様も一家の主に逆らうことは出来ませんでした。それでも、お父様の不自然な行動が増え、さすがにこのままではいけないと考え、水面下で調査を行った結果、大変な事実が発覚しました」
そこでフィルは一度言葉を止め、大きく深呼吸をしてから、次の言葉を口に出した。
「お父様は、このハイネル家を良くしようと躍起になったのだと思います。アルファとわかった僕を次期当主とすることに決め、婿探しをした。けれどその相手の家族は、どうも様子がおかしかった。なので調べた結果、その相手が犯罪に手を染めていたとわかったのです」
「えっ……犯罪……!?」
それまで下を向いていた僕だけど、あまりの予想外の言葉にびっくりして顔をあげた。
126
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

ネク・ロマンス
鈴
BL
「お前に私からの愛が必要か?」
ユース家の長男、そしてアルファであるイドは、かつて王の命を救った英雄である父親から「私を越える騎士となれ」と徹底した英才教育を受けて育った。
無事に聖騎士に選ばれ3年が経った頃、イドは父からの手紙で別邸に隔離されていたオメガの弟が屋敷に戻ってきた事を知らされる。父の計らいで引き合わせられたが、初対面同然の彼に何かしてやれるわけもなく関係は冷えきったまま。別に抱えていた自身の問題に追われて放置しているうちに、弟を家族と認めず冷遇しているとして彼に惚れ込んだらしい第一王子や高位貴族に睨まれるようになってしまい……。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

王冠にかける恋【完結】番外編更新中
毬谷
BL
完結済み・番外編更新中
◆
国立天風学園にはこんな噂があった。
『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』
もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。
何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。
『生徒たちは、全員首輪をしている』
◆
王制がある現代のとある国。
次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。
そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って……
◆
オメガバース学園もの
超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結

マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる