上 下
53 / 80

52. これからも

しおりを挟む
「ミッチの大切にしてる指輪なんだけど……」
「あ……っ! 指輪……?」

 正直、ちょっとだけ僕の想像していた質問と違った。
 けれど、全く違うというわけでもない。

 だって、僕の大切にしている指輪は『リク』にもらったものだから。
 前世の記憶を思い出したってことは……。

 僕の心臓が再び激しく鼓動し始めた。

「誰に、もらったものなのかな……って」

 フレッドは、まだ確信を持てずにいるのか、言葉を選びながらゆっくりと問いかけてきた。
 きっと、大切なことだから、慎重になっているのだろう。

「……これは……リクにもらったもの、だよ」

 僕も、焦らず、大切に言葉を伝える。

 前は引き出しにしまってあった指輪。
 でも塔に閉じ込められ、もう出られないと絶望したあと、奇跡的に出ることができた。
 だから、何があっても離したくないと思って、チェーンを付けて首から下げている。

 僕は胸元に大切にしまってある指輪を取り出し、フレッドの前に差し出した。

「これ、だよ」
「手に取って、見てもいい?」
「……うん」

 フレッドは、大切に僕の指輪を手に乗せると、じっくりと眺めた。
 僕の心臓は、これ以上鼓動が速くなったら、爆発してしまうんじゃないかと思うくらい、激しく脈を打つ。

「やっぱり……」
「やっぱり……?」

 フレッドの次の言葉を待つ。
 もう、そんなに焦らさないで。僕の考えは、きっと間違っていない。

 だから……。

「これは、俺……『リク』が、『ミチ』のために買った、婚約指輪だ……」

 手元の指輪を愛おしそうに見つめたあと、その優しい眼差しで、僕を見た。
 そして、泣きそうな笑みを浮かべた。

「やっと会えたな……ミチ……」
「リク、なの……?」

 夢みたいで、半信半疑で問いかけてしまう。
 だって、もう、諦めかけていたから……。
 あまりにもいろいろなことが起きすぎて、何度ももうだめだって思ったから……。

「そうだよ……。まだ忘れずにいてくれて、ありがとう」

「……リクっ……!!」

 僕は、これは夢じゃないと分かった瞬間、リクの名を呼びながら、フレッドの胸に飛び込んだ。

 転生してからの怒涛のような人生の記憶が、次から次へと思い出されて、僕は胸に込み上げてくる感情を止めることはできなかった。
 まるで子どものように、わんわんと声をあげて泣きじゃくる。
 そんな僕を、ぎゅっと抱きしめたまま、「大丈夫、大丈夫」と言いながら優しく頭を撫でてくれた。

 ……そうだ。僕がお守りのようにずっと言っていた「大丈夫」という言葉は、リクが口癖のように使っていた言葉だ。
 僕になにかあると、いつもこうやって抱きしめて、頭を撫でて「大丈夫、大丈夫」と心が落ち着くまでそばにいてくれた。


「俺も、お揃いの指輪、持ってるんだ」

 泣きじゃくっていた僕が、やっと落ち着いた頃、フレッドはおもむろに指輪を取り出した。

「あっ……」

 フレッドが出してきたのは、サイズが違うけれど、明らかに対になっている指輪だった。

「俺が孤児院に置き去りにされたとき、手紙と共に添えられていたものだと聞いたから、ずっと俺を産んだ人のものだと思っていた。……けど違ったんだな」

 フレッドはそう言いながら、僕にその指輪を渡した。そして、僕の持っている指輪を「かして」といって持っていった。
 何をするんだろう? と、不思議に思いながら見ていると、フレッドは僕の前ですっとひざまずいて、静かに指輪を差し出した。

「生まれ変わって再会出来たのは、やっぱり運命なんだと思う。……これからもずっと一緒にいたい。俺の生涯の伴侶になってくれませんか?」

 ……っ!

 僕は大きく目を見開いて、フレッドを見た。
 僕の、聞き間違いではないのだろうか?
 思わず、自分の頬をギューッと引っ張ってみた。

「いたい……」

 夢じゃ、ない……?

 もう一度、目の前のフレッドを見ると、不安げに瞳を揺らしていた。

「ミッチ、返事は……?」

 僕の答えは、ただひとつ。他の選択肢なんて、あるわけがない。

「はい! よろしくお願いします!」

 僕は溢れ出しそうになる涙をこらえながら、大きな声で返事をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

嘘つきの婚約破棄計画

はなげ
BL
好きな人がいるのに受との婚約を命じられた攻(騎士)×攻めにずっと片思いしている受(悪息) 攻が好きな人と結婚できるように婚約破棄しようと奮闘する受の話です。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

運命なんて要らない

あこ
BL
幼い頃から愛を育む姿に「微笑ましい二人」とか「可愛らしい二人」と言われていた第二王子アーロンとその婚約者ノア。 彼らはお互いがお互いを思い合って、特にアーロンはノアを大切に大切にして過ごしていた。 自分のせいで大変な思いをして、難しく厳しい人生を歩むだろうノア。アーロンはノアに自分の気持ちを素直にいい愛をまっすぐに伝えてきていた。 その二人とは対照的に第一王子とその婚約者にあった溝は年々膨らむ。 そしてアーロンは兄から驚くべきことを聞くのであった。 🔺 本編は完結済 🔺 10/29『ぼくたちも、運命なんて要らない(と思う)』完結しました。 🔺 その他の番外編は時々更新 ✔︎ 第二王子×婚約者 ✔︎ 第二王子は優男(優美)容姿、婚約者大好き。頼られる男になりたい。 ✔︎ 婚約者は公爵家長男ふんわり美人。精霊に祝福されてる。 ✔︎ あえてタグで触れてない要素、あります。 ✔︎ 脇でGL要素があります。 ✔︎ 同性婚可能で同性でも妊娠可能な設定(作中で妊娠した描写は一切ありません) ▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。 【 『セーリオ様の祝福シリーズ』とのクロスオーバーについて 】 『セーリオ様の祝福』及び『セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り』のキャラクターが登場する(名前だけでも)話に関しては、『セーリオ様の祝福』『セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り』のどちらの設定でも存在する共通の話として書いております。 どちらの設定かによって立場の変わるマチアスについては基本的に『王子殿下』もしくは『第一王子殿下』として書いておりますが、それでも両方の設定共通の話であると考え読んでいただけたら助かります。 また、クロスオーバー先の話を未読でも問題ないように書いております。 🔺でも一応、簡単な説明🔺 ➡︎『セーリオ様の祝福シリーズ』とは、「真面目な第一王子殿下マチアス」と「外見は超美人なのに中身は超普通の婚約者カナメ」のお話です。 ➡︎『セーリオ様の祝福』はマチアスが王太子ならない設定で、短編連作の形で書いています。 ➡︎『セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り』はマチアスが王太子になる設定で、長編連載として書いています。 ➡︎マチアスはアーロンの友人として、出会ってからずっといわゆる文通をしています。ノアとカナメも出会ったあとは友人関係になります。

処理中です...