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48. 水面下での調査
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どのくらいその場に立ち尽くしていただろうか。
僕は下の方から近付いてくる足音に、はっと我に返った。
またお父様が戻ってきた? 僕は一瞬身構えるけど、あの時の態度からして戻ってくるとは思えないし、おそらくそれなりに時間も経っているだろう。
そうなると、ここにくるのは、お母様かフィルの可能性が高い。
お父様でないことだけを祈りながら、近づく足音が僕のもとに到達するのを待った。
「ミッチェル様。いらっしゃいますか?」
まだ姿が見えない辺りで、声を潜めて僕を呼ぶ声がする。声の主は、顔を見ないでもわかった。
「ペーター!」
ペーターがこの塔にくるということは、少なくともこの塔とその周辺にはもうお父様はいないということだ。
多少声を上げても大丈夫だと思った僕は、ここにいるよ! とペーターの名を呼んだ。
「ああ、ミッチェル様、こちらでしたか」
僕がここにいると確認すると、足早に近付いてきて、部屋の扉を開けた。
「中に入って話をしましょうか」
ペーターに促され部屋に入ると、窓辺においてあった椅子を持ってきて、ペーターに差し出す。
そして僕は、ここを出た時のままになっていたベッドの上に、腰を下ろした。
僕が腰を下ろしたのを確認すると、失礼しますと言って、ペーターも椅子に腰を下ろした。
「僕がここにいるって、よくわかったね」
「言伝があってやってきたのですが、塔の方から、旦那様の怒鳴り声がしたと聞いたのです」
お父様から投げつけられた言葉があまりにもショックで、ぼくだけがその声が大きく聞こえたのかと思っていたが、違ったらしい。
周りのことなど気にする余裕もなく、怒鳴り散らしていったのだろう。
何事にも動じず、冷静だったお父様の面影はなく、まるで人が変わってしまったようだった。
「なにか……ありましたか?」
外まで聞こえるような怒鳴り声がしたのなら、何もなかったという言い訳など通用するわけがない。
それに、ペーターは僕がオメガで、お父様にどんな扱いをされていたのか、知っている。ここで隠す必要もないだろう。
僕は、先程の出来事を、ペーターに話すことにした。
「そう、ですか。そんなことが……」
ペーターは、うーんと一声唸ると、大きなため息をついた。
「奥様からも、お聞きになっていると思うのですが……。最近の旦那様は、どなたにも相談されずに、すべてお一人で決めてしまわれているようなのです」
「お母様も、フィルの婚約の件について、なにも知らないと言ってました」
「ええ……。ハイネル家の当主ですし、一家の主である旦那様ですので、おかしいことではないのかもしれませんが、今まではそんなことはなかったはずなのです」
「以前は……家族のことは家族で話し合おうと、よく言っていました」
ペーターは僕の言葉に小さくうなずくと、何かをためらうように、辺りをキョロキョロと見回した。
「奥様のご命令で、水面下で色々と調べています」
ペーターは声をかなり潜めて、言った。その言葉に、僕は小さく息を呑んだ。
そんなことをしていると見つかったら、調べているペーターも、命令したお母様も、何があるかわからない。
「……もし見つかったら……」
僕は自分の口から出した言葉に怖くなって、ブルッと身震いをした。
「見つからないように、最善の注意はしています。ただ……」
ペーターの言葉がピタリと止まり、少し躊躇したように続きの言葉を口にした。
「フィラット様の婚約が白紙になった原因が、もしかしたら、ミッチェル様のことに関係があるのかもしれないのです」
「……え?」
フィルの婚約が白紙になった辺りから、穏やかに思えた僕の生活は、またせわしなくなっていた。
その頃から驚きの連続だったけど、また今日も衝撃の言葉を立て続けに聞くことになってしまった。
僕は下の方から近付いてくる足音に、はっと我に返った。
またお父様が戻ってきた? 僕は一瞬身構えるけど、あの時の態度からして戻ってくるとは思えないし、おそらくそれなりに時間も経っているだろう。
そうなると、ここにくるのは、お母様かフィルの可能性が高い。
お父様でないことだけを祈りながら、近づく足音が僕のもとに到達するのを待った。
「ミッチェル様。いらっしゃいますか?」
まだ姿が見えない辺りで、声を潜めて僕を呼ぶ声がする。声の主は、顔を見ないでもわかった。
「ペーター!」
ペーターがこの塔にくるということは、少なくともこの塔とその周辺にはもうお父様はいないということだ。
多少声を上げても大丈夫だと思った僕は、ここにいるよ! とペーターの名を呼んだ。
「ああ、ミッチェル様、こちらでしたか」
僕がここにいると確認すると、足早に近付いてきて、部屋の扉を開けた。
「中に入って話をしましょうか」
ペーターに促され部屋に入ると、窓辺においてあった椅子を持ってきて、ペーターに差し出す。
そして僕は、ここを出た時のままになっていたベッドの上に、腰を下ろした。
僕が腰を下ろしたのを確認すると、失礼しますと言って、ペーターも椅子に腰を下ろした。
「僕がここにいるって、よくわかったね」
「言伝があってやってきたのですが、塔の方から、旦那様の怒鳴り声がしたと聞いたのです」
お父様から投げつけられた言葉があまりにもショックで、ぼくだけがその声が大きく聞こえたのかと思っていたが、違ったらしい。
周りのことなど気にする余裕もなく、怒鳴り散らしていったのだろう。
何事にも動じず、冷静だったお父様の面影はなく、まるで人が変わってしまったようだった。
「なにか……ありましたか?」
外まで聞こえるような怒鳴り声がしたのなら、何もなかったという言い訳など通用するわけがない。
それに、ペーターは僕がオメガで、お父様にどんな扱いをされていたのか、知っている。ここで隠す必要もないだろう。
僕は、先程の出来事を、ペーターに話すことにした。
「そう、ですか。そんなことが……」
ペーターは、うーんと一声唸ると、大きなため息をついた。
「奥様からも、お聞きになっていると思うのですが……。最近の旦那様は、どなたにも相談されずに、すべてお一人で決めてしまわれているようなのです」
「お母様も、フィルの婚約の件について、なにも知らないと言ってました」
「ええ……。ハイネル家の当主ですし、一家の主である旦那様ですので、おかしいことではないのかもしれませんが、今まではそんなことはなかったはずなのです」
「以前は……家族のことは家族で話し合おうと、よく言っていました」
ペーターは僕の言葉に小さくうなずくと、何かをためらうように、辺りをキョロキョロと見回した。
「奥様のご命令で、水面下で色々と調べています」
ペーターは声をかなり潜めて、言った。その言葉に、僕は小さく息を呑んだ。
そんなことをしていると見つかったら、調べているペーターも、命令したお母様も、何があるかわからない。
「……もし見つかったら……」
僕は自分の口から出した言葉に怖くなって、ブルッと身震いをした。
「見つからないように、最善の注意はしています。ただ……」
ペーターの言葉がピタリと止まり、少し躊躇したように続きの言葉を口にした。
「フィラット様の婚約が白紙になった原因が、もしかしたら、ミッチェル様のことに関係があるのかもしれないのです」
「……え?」
フィルの婚約が白紙になった辺りから、穏やかに思えた僕の生活は、またせわしなくなっていた。
その頃から驚きの連続だったけど、また今日も衝撃の言葉を立て続けに聞くことになってしまった。
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