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27. 手紙

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 フレッドがこっそり会いに来てくれた日から、手紙のやり取りが始まった。
 フィルとのやり取りは、学院の寮まで届けなければならないから時間がかかってしまい、頻繁にはやり取りはできない。
 けれど、同じ屋敷内にいるフレッドとは、まめにやり取りができている。

 手紙のやり取りに使っている紙は、羊皮紙に比べて安価とはいえ、この世界ではまだまだ紙は貴重だと思う。だから、なるべく小さく切った紙に、できるだけ小さな文字で綴った。

 出会ったばかりのフレッドだったら、文字の読み書きはできなかっただろうから、ゲオルクさんのもとで一緒に学べてよかった。今こうやって手紙のやり取りができることは、大げさかもしれないけど、今の僕にとっては命綱のようなものだから。

 手紙のやり取りをしていると、僕はひとりじゃない。『一緒に頑張ろう』って、励まされるんだ。

 今日は、食事のトレイに隠されて手紙が届けられた。
 ここに閉じ込められてしばらくは、ただ生きながらえるためだけに口にしていた食事も、今は美味しく食べられている。
 真っ先に手紙を読みたい気持ちを我慢して、しっかりと食事を摂った。

 そして食事を済ませたあと、僕は小さな小さな手紙を大切にひらいた。

『ミッチ、ちゃんと食べているか? しっかりと眠っているか? みんな頑張ってるから、お前も頑張れ』

「んふふ……。フレッド、お母様みたい」

 フレッドから届く手紙は、いつも僕の体と心を心配してくれるものばかり。
 自分の口から出た『お母様』という言葉に寂しさを感じるけど、僕はひとりじゃない。心配してくれる人がいると思うと、心にぽっと温かい光が灯った。
 そして、手紙の中の『お前』という文字を見つけ、ちょっぴり心が跳ねる。
 なんか、気を許してくれている相手のようで、ドキドキしてしまう。

 フィルとはたまにしか手紙の交換はできないけど、フレッドとは初めに想像していたよりも、頻繁にやり取りすることができた。
 この手紙のやり取りは、僕のフレッドに対する気持ちの変化に大きな影響を与えていた。





 この部屋に閉じ込められてから、二年半の月日が流れたらしい。暦は、使用人たちが教えてくれた。

 初めは、時々送られてくるフィルからの手紙と、頻繁にやり取りしていたフレッドとの手紙の交換のおかげで、きっと僕は大丈夫だと前向きな気持ちになれていた。
 けれど、この閉鎖空間で変化のない日々が長く続いていると、フレッドたちのお陰で保ってきた前向きな気持ちは、徐々に薄れていった。

 この頃になると、気分の落ち込む日が増えてきた。
 そんな時には必ず、僕の脳裏に現れるのは『リク』だった。

 前世の僕は、いわれのない難癖をつけられたり、陰険ないじめにあったり、オメガであることを理由に虐げられてきた。
 そんな僕を救ってくれたリク。僕に未来を夢見ることを教えてくれたリク。
 僕にとって全てだった。
 そんなリクの人生を、僕の誤解と嫉妬で奪い去ってしまった。
 
 こんな僕に、リクは再び会いたいと思うのだろうか?
 あの約束をしたのは、僕たちの愛が揺るぎないと信じていた頃だ。
 僕の馬鹿な勘違いからの喧嘩なんて、するとは思ってなかった時だ。

 リクは転生して新しい人生を送って、僕よりもっと良い人に巡り合うかもしれない。
 その人と愛し合って、僕のことなんてさっさと忘れたほうが、リクのためになるのかもしれない。

 ……じゃあ、僕は?

 どんな顔をしてリクに会えばよいのかわからない。
 それなら、いっそこのまま会えずにいて、それぞれの道を進むほうが幸せ……?

 僕の今の幸せは……そう思った時に、再びフレッドの笑顔が浮かんできた。
 ああ、なんて自分勝手なんだろう。リクとフレッドを無意識に天秤にかけてしまうなんて……。

 やっぱり僕は、ここにいちゃいけないのかもしれない……。

 僕は、ここに来たばかりの頃のように、ふらりと立ち上がり、再び吸い寄せられるように窓辺に近づいた。
 その瞬間、ドンドンドンと激しく扉が叩かれ、僕に呼びかける声がした。

「ミッチ! ここを開けて!」

 ──えっ……フィル!?
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