28 / 84
27. 手紙
しおりを挟む
フレッドがこっそり会いに来てくれた日から、手紙のやり取りが始まった。
フィルとのやり取りは、学院の寮まで届けなければならないから時間がかかってしまい、頻繁にはやり取りはできない。
けれど、同じ屋敷内にいるフレッドとは、まめにやり取りができている。
手紙のやり取りに使っている紙は、羊皮紙に比べて安価とはいえ、この世界ではまだまだ紙は貴重だと思う。だから、なるべく小さく切った紙に、できるだけ小さな文字で綴った。
出会ったばかりのフレッドだったら、文字の読み書きはできなかっただろうから、ゲオルクさんのもとで一緒に学べてよかった。今こうやって手紙のやり取りができることは、大げさかもしれないけど、今の僕にとっては命綱のようなものだから。
手紙のやり取りをしていると、僕はひとりじゃない。『一緒に頑張ろう』って、励まされるんだ。
今日は、食事のトレイに隠されて手紙が届けられた。
ここに閉じ込められてしばらくは、ただ生きながらえるためだけに口にしていた食事も、今は美味しく食べられている。
真っ先に手紙を読みたい気持ちを我慢して、しっかりと食事を摂った。
そして食事を済ませたあと、僕は小さな小さな手紙を大切にひらいた。
『ミッチ、ちゃんと食べているか? しっかりと眠っているか? みんな頑張ってるから、お前も頑張れ』
「んふふ……。フレッド、お母様みたい」
フレッドから届く手紙は、いつも僕の体と心を心配してくれるものばかり。
自分の口から出た『お母様』という言葉に寂しさを感じるけど、僕はひとりじゃない。心配してくれる人がいると思うと、心にぽっと温かい光が灯った。
そして、手紙の中の『お前』という文字を見つけ、ちょっぴり心が跳ねる。
なんか、気を許してくれている相手のようで、ドキドキしてしまう。
フィルとはたまにしか手紙の交換はできないけど、フレッドとは初めに想像していたよりも、頻繁にやり取りすることができた。
この手紙のやり取りは、僕のフレッドに対する気持ちの変化に大きな影響を与えていた。
◇
この部屋に閉じ込められてから、二年半の月日が流れたらしい。暦は、使用人たちが教えてくれた。
初めは、時々送られてくるフィルからの手紙と、頻繁にやり取りしていたフレッドとの手紙の交換のおかげで、きっと僕は大丈夫だと前向きな気持ちになれていた。
けれど、この閉鎖空間で変化のない日々が長く続いていると、フレッドたちのお陰で保ってきた前向きな気持ちは、徐々に薄れていった。
この頃になると、気分の落ち込む日が増えてきた。
そんな時には必ず、僕の脳裏に現れるのは『リク』だった。
前世の僕は、いわれのない難癖をつけられたり、陰険ないじめにあったり、オメガであることを理由に虐げられてきた。
そんな僕を救ってくれたリク。僕に未来を夢見ることを教えてくれたリク。
僕にとって全てだった。
そんなリクの人生を、僕の誤解と嫉妬で奪い去ってしまった。
こんな僕に、リクは再び会いたいと思うのだろうか?
あの約束をしたのは、僕たちの愛が揺るぎないと信じていた頃だ。
僕の馬鹿な勘違いからの喧嘩なんて、するとは思ってなかった時だ。
リクは転生して新しい人生を送って、僕よりもっと良い人に巡り合うかもしれない。
その人と愛し合って、僕のことなんてさっさと忘れたほうが、リクのためになるのかもしれない。
……じゃあ、僕は?
どんな顔をしてリクに会えばよいのかわからない。
それなら、いっそこのまま会えずにいて、それぞれの道を進むほうが幸せ……?
僕の今の幸せは……そう思った時に、再びフレッドの笑顔が浮かんできた。
ああ、なんて自分勝手なんだろう。リクとフレッドを無意識に天秤にかけてしまうなんて……。
やっぱり僕は、ここにいちゃいけないのかもしれない……。
僕は、ここに来たばかりの頃のように、ふらりと立ち上がり、再び吸い寄せられるように窓辺に近づいた。
その瞬間、ドンドンドンと激しく扉が叩かれ、僕に呼びかける声がした。
「ミッチ! ここを開けて!」
──えっ……フィル!?
フィルとのやり取りは、学院の寮まで届けなければならないから時間がかかってしまい、頻繁にはやり取りはできない。
けれど、同じ屋敷内にいるフレッドとは、まめにやり取りができている。
手紙のやり取りに使っている紙は、羊皮紙に比べて安価とはいえ、この世界ではまだまだ紙は貴重だと思う。だから、なるべく小さく切った紙に、できるだけ小さな文字で綴った。
出会ったばかりのフレッドだったら、文字の読み書きはできなかっただろうから、ゲオルクさんのもとで一緒に学べてよかった。今こうやって手紙のやり取りができることは、大げさかもしれないけど、今の僕にとっては命綱のようなものだから。
手紙のやり取りをしていると、僕はひとりじゃない。『一緒に頑張ろう』って、励まされるんだ。
今日は、食事のトレイに隠されて手紙が届けられた。
ここに閉じ込められてしばらくは、ただ生きながらえるためだけに口にしていた食事も、今は美味しく食べられている。
真っ先に手紙を読みたい気持ちを我慢して、しっかりと食事を摂った。
そして食事を済ませたあと、僕は小さな小さな手紙を大切にひらいた。
『ミッチ、ちゃんと食べているか? しっかりと眠っているか? みんな頑張ってるから、お前も頑張れ』
「んふふ……。フレッド、お母様みたい」
フレッドから届く手紙は、いつも僕の体と心を心配してくれるものばかり。
自分の口から出た『お母様』という言葉に寂しさを感じるけど、僕はひとりじゃない。心配してくれる人がいると思うと、心にぽっと温かい光が灯った。
そして、手紙の中の『お前』という文字を見つけ、ちょっぴり心が跳ねる。
なんか、気を許してくれている相手のようで、ドキドキしてしまう。
フィルとはたまにしか手紙の交換はできないけど、フレッドとは初めに想像していたよりも、頻繁にやり取りすることができた。
この手紙のやり取りは、僕のフレッドに対する気持ちの変化に大きな影響を与えていた。
◇
この部屋に閉じ込められてから、二年半の月日が流れたらしい。暦は、使用人たちが教えてくれた。
初めは、時々送られてくるフィルからの手紙と、頻繁にやり取りしていたフレッドとの手紙の交換のおかげで、きっと僕は大丈夫だと前向きな気持ちになれていた。
けれど、この閉鎖空間で変化のない日々が長く続いていると、フレッドたちのお陰で保ってきた前向きな気持ちは、徐々に薄れていった。
この頃になると、気分の落ち込む日が増えてきた。
そんな時には必ず、僕の脳裏に現れるのは『リク』だった。
前世の僕は、いわれのない難癖をつけられたり、陰険ないじめにあったり、オメガであることを理由に虐げられてきた。
そんな僕を救ってくれたリク。僕に未来を夢見ることを教えてくれたリク。
僕にとって全てだった。
そんなリクの人生を、僕の誤解と嫉妬で奪い去ってしまった。
こんな僕に、リクは再び会いたいと思うのだろうか?
あの約束をしたのは、僕たちの愛が揺るぎないと信じていた頃だ。
僕の馬鹿な勘違いからの喧嘩なんて、するとは思ってなかった時だ。
リクは転生して新しい人生を送って、僕よりもっと良い人に巡り合うかもしれない。
その人と愛し合って、僕のことなんてさっさと忘れたほうが、リクのためになるのかもしれない。
……じゃあ、僕は?
どんな顔をしてリクに会えばよいのかわからない。
それなら、いっそこのまま会えずにいて、それぞれの道を進むほうが幸せ……?
僕の今の幸せは……そう思った時に、再びフレッドの笑顔が浮かんできた。
ああ、なんて自分勝手なんだろう。リクとフレッドを無意識に天秤にかけてしまうなんて……。
やっぱり僕は、ここにいちゃいけないのかもしれない……。
僕は、ここに来たばかりの頃のように、ふらりと立ち上がり、再び吸い寄せられるように窓辺に近づいた。
その瞬間、ドンドンドンと激しく扉が叩かれ、僕に呼びかける声がした。
「ミッチ! ここを開けて!」
──えっ……フィル!?
141
お気に入りに追加
339
あなたにおすすめの小説
狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?
左側
BL
陽の光を浴びて桃色に輝く柔らかな髪。鮮やかな青色の瞳で、ちょっと童顔。
それが僕。
この世界が乙女ゲームやBLゲームだったら、きっと主人公だよね。
だけど、ここは……ざまぁ系のノベルゲーム世界。それも、逆ざまぁ。
僕は断罪される側だ。
まるで物語の主人公のように振る舞って、王子を始めとした大勢の男性をたぶらかして好き放題した挙句に、最後は大逆転される……いわゆる、逆ざまぁをされる側。
途中の役割や展開は違っても、最終的に僕が立つサイドはいつも同じ。
神様、どうやったら、僕は平穏に過ごせますか?
※ ※ ※ ※ ※ ※
ちょっと不憫系の主人公が、抵抗したり挫けたりを繰り返しながら、いつかは平穏に暮らせることを目指す物語です。
男性妊娠の描写があります。
誤字脱字等があればお知らせください。
必要なタグがあれば付け足して行きます。
総文字数が多くなったので短編→長編に変更しました。
お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?
麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
【運命】に捨てられ捨てたΩ
諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる