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23. バース検査
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「お父様もお母様も、とても喜んでくれていたな……」
父の誇らしげな笑みが頭から離れない。窓の外を見つめながら、セントルクレティウス学院への合格通知を思い返していた。あの瞬間、胸が高鳴ったのを今でも感じる。
けれど、期待のあとに訪れたのは、大きな不安だった。
「バース検査か……」
合格の知らせが書かれた巻物には、これからの予定も記されていた。全てのバースが通う学院だから、平等を謳っていても、配慮が必要なところは多々あるだろう。そのために、入学が決まったのちにバース検査が行われると案内があった。
この世界に転生してきたばかりの頃から、度々感じている胸のざわめき。最近顕著に現れている体調不良。前世もオメガだった僕には、不安要素ばかりだ。
「ミッチ! 準備できた?」
そう言いながら、部屋のドアからひょっこり顔を出したのは弟のフィルだ。
僕の複雑な心境とは違い、楽しみで仕方がないといった様子で、キラキラと笑顔を輝かせていた。まるで学院の見学をした時のあの子達のようだった。
「うん、出来たよ。そろそろ行こうか。……バース検査、楽しみだね」
フィルの前では不安を悟られないように、努めて明るく振る舞った。
◇
今日は朝から使用人たちの動きが慌ただしい。なにか手伝うことはあるかと聞くと、「坊っちゃんたちは部屋にいてください」と言って背中を押され部屋に押し込まれてしまった。
同じように閉じ込められたのか、「ミッチ、そっち行って良い~?」という声が聞こえ、返事も待たずにひょこっとフィルが現れた。
つい先日まで同じ部屋で過ごしていた僕たちだけど、寮生活は一人部屋ということで、少しでも慣れるように、そして入学に向けての準備もあるので丁度良いだろうと、別々の部屋で過ごすように言われてしまった。
「使用人のみんながバタバタしてるのって、僕たちの誕生日のお祝いの準備してくれてるんでしょー? 隠さなくてもわかってるのにねー」
いつものように僕のベッドに腰掛けて、脚をブラブラさせながらフィルが言った。
「サプライズで喜んでほしいって思ってるんだろうね。その気持ちが嬉しいね」
今日は僕たちの十二歳の誕生日だ。そして、バース検査の結果がわかる日でもある。
使用人たちは朝から、僕たちの誕生日とバース検査の結果を兼ねての、祝宴の準備に追われている。
フィルは純粋に喜んでいるけど、僕の心は穏やかではなかった。けれどフィルと他愛もない話をしていると、少しずつ平常心が戻ってくるような気がした。
いつものように二人でくつろいでいると、日が高く昇る頃になって、お父様とお母様が部屋に入ってきた。
使用人が伝えたのかわからないけど、迷う様子もなく部屋に入ってきた。お父様には、僕たちが一緒に過ごしているのがわかっているようだった。
「ミッチェル、フィラット。そこに座りなさい」
ベッドの上にいた僕たちに、お父様は椅子に座るように促した。
お父様の顔はいつになく険しいもので、僕の心臓の鼓動は一気に早くなった。
「バース検査の結果が届いた……」
その言葉に、鼓動はさらに早くなる。
大丈夫、大丈夫、大丈夫……。
僕は自分を落ち着かせるように、ぎゅっと強く目を瞑り、祈るように心の中で『大丈夫』を繰り返す。
そんな僕のとなりでは、お父様の表情がいつもと違うことを察していないフィルが、「わぁ! 楽しみ!」と楽しそうに声を上げていた。
「きっと僕たち、すごい結果が出るよね! ミッチ、楽しみだね!」
フィルの無邪気な言葉が、まるで遠くから聞こえるように感じた。次の瞬間、お父様の声が響いた。
「フィラットはアルファだ。そして、ミッチェル。……お前は、オメガだ」
大丈夫だと祈る僕の心の声は、お父様のそのひとことで、無惨なまでに打ち砕かれた。
皆に祝福され、幸せに包まれるはずの誕生日は、僕の人生を再び狂わせる日々の始まりとなった。
父の誇らしげな笑みが頭から離れない。窓の外を見つめながら、セントルクレティウス学院への合格通知を思い返していた。あの瞬間、胸が高鳴ったのを今でも感じる。
けれど、期待のあとに訪れたのは、大きな不安だった。
「バース検査か……」
合格の知らせが書かれた巻物には、これからの予定も記されていた。全てのバースが通う学院だから、平等を謳っていても、配慮が必要なところは多々あるだろう。そのために、入学が決まったのちにバース検査が行われると案内があった。
この世界に転生してきたばかりの頃から、度々感じている胸のざわめき。最近顕著に現れている体調不良。前世もオメガだった僕には、不安要素ばかりだ。
「ミッチ! 準備できた?」
そう言いながら、部屋のドアからひょっこり顔を出したのは弟のフィルだ。
僕の複雑な心境とは違い、楽しみで仕方がないといった様子で、キラキラと笑顔を輝かせていた。まるで学院の見学をした時のあの子達のようだった。
「うん、出来たよ。そろそろ行こうか。……バース検査、楽しみだね」
フィルの前では不安を悟られないように、努めて明るく振る舞った。
◇
今日は朝から使用人たちの動きが慌ただしい。なにか手伝うことはあるかと聞くと、「坊っちゃんたちは部屋にいてください」と言って背中を押され部屋に押し込まれてしまった。
同じように閉じ込められたのか、「ミッチ、そっち行って良い~?」という声が聞こえ、返事も待たずにひょこっとフィルが現れた。
つい先日まで同じ部屋で過ごしていた僕たちだけど、寮生活は一人部屋ということで、少しでも慣れるように、そして入学に向けての準備もあるので丁度良いだろうと、別々の部屋で過ごすように言われてしまった。
「使用人のみんながバタバタしてるのって、僕たちの誕生日のお祝いの準備してくれてるんでしょー? 隠さなくてもわかってるのにねー」
いつものように僕のベッドに腰掛けて、脚をブラブラさせながらフィルが言った。
「サプライズで喜んでほしいって思ってるんだろうね。その気持ちが嬉しいね」
今日は僕たちの十二歳の誕生日だ。そして、バース検査の結果がわかる日でもある。
使用人たちは朝から、僕たちの誕生日とバース検査の結果を兼ねての、祝宴の準備に追われている。
フィルは純粋に喜んでいるけど、僕の心は穏やかではなかった。けれどフィルと他愛もない話をしていると、少しずつ平常心が戻ってくるような気がした。
いつものように二人でくつろいでいると、日が高く昇る頃になって、お父様とお母様が部屋に入ってきた。
使用人が伝えたのかわからないけど、迷う様子もなく部屋に入ってきた。お父様には、僕たちが一緒に過ごしているのがわかっているようだった。
「ミッチェル、フィラット。そこに座りなさい」
ベッドの上にいた僕たちに、お父様は椅子に座るように促した。
お父様の顔はいつになく険しいもので、僕の心臓の鼓動は一気に早くなった。
「バース検査の結果が届いた……」
その言葉に、鼓動はさらに早くなる。
大丈夫、大丈夫、大丈夫……。
僕は自分を落ち着かせるように、ぎゅっと強く目を瞑り、祈るように心の中で『大丈夫』を繰り返す。
そんな僕のとなりでは、お父様の表情がいつもと違うことを察していないフィルが、「わぁ! 楽しみ!」と楽しそうに声を上げていた。
「きっと僕たち、すごい結果が出るよね! ミッチ、楽しみだね!」
フィルの無邪気な言葉が、まるで遠くから聞こえるように感じた。次の瞬間、お父様の声が響いた。
「フィラットはアルファだ。そして、ミッチェル。……お前は、オメガだ」
大丈夫だと祈る僕の心の声は、お父様のそのひとことで、無惨なまでに打ち砕かれた。
皆に祝福され、幸せに包まれるはずの誕生日は、僕の人生を再び狂わせる日々の始まりとなった。
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