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19. 誤解
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降りしきる雨の中、僕はただその場に立ち尽くしていた。目の前には、花が手向けられた墓石。
その墓石を眺めながら、僕はここに来ても良かったのだろうか? と、自分に問いかけた。
僕のせいでこの世を去ったリク。なのに僕は、あれから涙を一度も流していない。そんな薄情な僕が、リクに合わせる顔なんてあるのだろうか。
「美智留くん?」
僕の名を呼ぶ声がして、ゆっくりと振り返ると、そこにはリクの幼馴染の『海渡』くんが立っていた。
「あっ……。ご無沙汰しています……」
僕はぎこちない挨拶をし、ゆっくりと頭を下げた。けれど、この人にとっても、僕は忌まわしい存在のはずだ……と考えてしまったら、顔を上げることができなかった。
「美智留くん、顔を上げて。……実は話したいことがあって、連絡をしようと思っていたんだ。ここで会えたのはちょうど良かった。少し時間あるかな?」
何の話だろうか、また、責められるのだろうか。そう思うと気が重くなったけれど、僕には拒絶する権利はない。それだけのことをしてしまったのだから、責められようが、罵られようが、仕方がない。
そう思いながら、言われたようにゆっくりと顔を上げようとしたら、突然、頭上から「ごめんなさい」という言葉が聞こえた。 驚いて反射的に顔を上げると、同じように深く頭を下げている海渡くんがいた。
「美智留くんが誤解してしまったのは、僕たちのせいなんだ……っ」
海渡くんは頭を下げたまま、苦しげに声を絞り出すようにして言った。
◇
「誤解……だったんだね……」
僕は、手元にある小さな箱を眺めながら、ぽつりとつぶやいた。
あの日の喧嘩の発端は、リクが女の子と楽しそうに指輪を選んでいるのを、偶然僕が見てしまったことだった。
僕はリクとの将来を考えていたのに、リクは違ったの? そう思ったら悲しくてしょうがなかった。
でもまだ信じられなくて、きっと誤解だよという言葉をくれるのを期待して、リクに問いただした。なのにリクは、謝ることも言い訳することもなく、困った顔で僕を見ていた。
「もう知らない! 触らないで!」
期待した言葉が返ってこないとわかると、僕は力の限り、リクを拒絶する言葉を叫んだ。
怒りと悲しみが交錯し、心の中がぐちゃぐちゃになったまま、リクから逃げ出すことを選んだ僕は、リクの静止を振り切って走り出した。
そして……あっという間に、最愛の人を失ってしまった──。
それからの日々、僕は自分を責め続けた。あの時、リクから逃げ出さずに、冷静に話を聞いていればと、何度も悔やんだ。ちゃんと話し合えば、リクが命を落とすことはなかったのに、僕はなんて浅はかだったんだろう。
『あの日、リクは君にプロポーズをするための指輪を選んでいたんだ。照れながら僕と彼女に相談してくれたから、サプライズで指輪のプレゼントをしたら喜ぶんじゃないか? って。でもまさか君があの場にいたなんて……。あいつは、サプライズにしたいからって、本当のことは言えなかったんだな』
海渡くんのその言葉を聞いた瞬間、僕の中で何かが崩れ落ちた。リクは僕を愛していたのに、僕はその愛を信じることができなかった。
「リク……ごめんね……」
手元の箱を開け、中に入っていた指輪を見つめた。
僕に、この指輪を持つ資格なんてあるんだろうか。リクの愛を受け取ることが許されるのだろうか。
指輪だけをしっかりと握りしめて、あてもなくふらりと外へ出ると、雨が降る中傘もささずに歩き出した。
その墓石を眺めながら、僕はここに来ても良かったのだろうか? と、自分に問いかけた。
僕のせいでこの世を去ったリク。なのに僕は、あれから涙を一度も流していない。そんな薄情な僕が、リクに合わせる顔なんてあるのだろうか。
「美智留くん?」
僕の名を呼ぶ声がして、ゆっくりと振り返ると、そこにはリクの幼馴染の『海渡』くんが立っていた。
「あっ……。ご無沙汰しています……」
僕はぎこちない挨拶をし、ゆっくりと頭を下げた。けれど、この人にとっても、僕は忌まわしい存在のはずだ……と考えてしまったら、顔を上げることができなかった。
「美智留くん、顔を上げて。……実は話したいことがあって、連絡をしようと思っていたんだ。ここで会えたのはちょうど良かった。少し時間あるかな?」
何の話だろうか、また、責められるのだろうか。そう思うと気が重くなったけれど、僕には拒絶する権利はない。それだけのことをしてしまったのだから、責められようが、罵られようが、仕方がない。
そう思いながら、言われたようにゆっくりと顔を上げようとしたら、突然、頭上から「ごめんなさい」という言葉が聞こえた。 驚いて反射的に顔を上げると、同じように深く頭を下げている海渡くんがいた。
「美智留くんが誤解してしまったのは、僕たちのせいなんだ……っ」
海渡くんは頭を下げたまま、苦しげに声を絞り出すようにして言った。
◇
「誤解……だったんだね……」
僕は、手元にある小さな箱を眺めながら、ぽつりとつぶやいた。
あの日の喧嘩の発端は、リクが女の子と楽しそうに指輪を選んでいるのを、偶然僕が見てしまったことだった。
僕はリクとの将来を考えていたのに、リクは違ったの? そう思ったら悲しくてしょうがなかった。
でもまだ信じられなくて、きっと誤解だよという言葉をくれるのを期待して、リクに問いただした。なのにリクは、謝ることも言い訳することもなく、困った顔で僕を見ていた。
「もう知らない! 触らないで!」
期待した言葉が返ってこないとわかると、僕は力の限り、リクを拒絶する言葉を叫んだ。
怒りと悲しみが交錯し、心の中がぐちゃぐちゃになったまま、リクから逃げ出すことを選んだ僕は、リクの静止を振り切って走り出した。
そして……あっという間に、最愛の人を失ってしまった──。
それからの日々、僕は自分を責め続けた。あの時、リクから逃げ出さずに、冷静に話を聞いていればと、何度も悔やんだ。ちゃんと話し合えば、リクが命を落とすことはなかったのに、僕はなんて浅はかだったんだろう。
『あの日、リクは君にプロポーズをするための指輪を選んでいたんだ。照れながら僕と彼女に相談してくれたから、サプライズで指輪のプレゼントをしたら喜ぶんじゃないか? って。でもまさか君があの場にいたなんて……。あいつは、サプライズにしたいからって、本当のことは言えなかったんだな』
海渡くんのその言葉を聞いた瞬間、僕の中で何かが崩れ落ちた。リクは僕を愛していたのに、僕はその愛を信じることができなかった。
「リク……ごめんね……」
手元の箱を開け、中に入っていた指輪を見つめた。
僕に、この指輪を持つ資格なんてあるんだろうか。リクの愛を受け取ることが許されるのだろうか。
指輪だけをしっかりと握りしめて、あてもなくふらりと外へ出ると、雨が降る中傘もささずに歩き出した。
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