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17. 救いの手
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オメガと診断されてから、両親や親族をはじめ、周りの態度が一気に変わった。あまりの変貌ぶりに、僕は愕然とした。
男でも子供を産めるというだけで、気持ち悪がられたり、男だけど売女と呼ばれたり、卑猥な言葉で揶揄われたりもした。
そのたびに、オメガに産まれた僕が悪い。オメガだから虐げられても仕方がない。……そう思ってずっと心を隠してきた。本物の心を外に出してしまったら、きっと一瞬にして壊れてしまうから。
あの日も、そうやって心を隠してずっと耐えていた。時が過ぎれば、はじめは面白がっていたおもちゃにも、飽きるはずだと信じて。
「なぁ、あんたさー、レイコの彼氏寝取ったって、マジ?」
「うわっ、マジかよww きもっ」
「俺は、アキルをフェロモンで誘惑して、わけわかんなくなったアキルが、こいつを襲ったって聞いたぜ」
「いや、勘弁してくれよ。あいつには彼女いるだろ?」
見たこともない四つの顔が、僕を見下ろしていた。
レイコもアキルも見たこともなければ聞いたこともない。それに僕は、そういうことはまだ経験したことがない。だから襲うとか襲われるとか、あるわけないのに。
「あー、ほんとオメガってキモいのな。ちょっと懲らしめてやろうぜ」
四人のうちの一人が、なんだか分からない理論で、僕のお腹に蹴りを入れた。すると、押し出されるように、僕の口から潰れたカエルのような声が漏れた。
そこからは、僕にかかる衝撃がどんどん増えていった。初めはすっごく痛かったのに、衝撃が増えれば増えるほど痛みが薄れていく。もう言葉として認識できない罵声とともに、内外から不穏な音が聞こえ続けているのに、不思議なことにすっかり痛みは消えていた。
そして、痛みが消えたと思ったら、今度はふわふわと体が軽くなった。まるで空に浮かぶ雲の上で横になっている気分だ。ああ、とても気分がいい。このままゆーっくり安心して眠れたら幸せだなぁ。
僕は、久しぶりに心からリラックス出来たような気がする。あと少し、あと少しだけでいいから、このまま──。
わずかに残っていた僕の意識は、そこでぷつりと途切れた。
◇
「……なぁ、おい。……起きろ」
ペシペシと頬を叩く刺激に気付くと、多分僕に話しかけてるんだろうと思う声が耳に入ってきた。
さっきの人たち、まだ飽きてくれないのか……。今日は長いなぁ……。目を開けたら、またあちこち蹴られるのかな、それとも殴られるのかな。でも、知らない振りをしてたら、怒鳴られちゃうよね。
僕はそう思いながら、嫌だけどゆっくり目を開けた。開けたはずなのに、違和感が邪魔して前がよく見えない。
「ああ、気付いたか。大丈夫か? ……ああ、目もこんなに腫れちゃってる……」
よく見えないけど、僕の顔を覗き込んで、そっと顔を撫でてきた。
けど、さっきまで殴ったり蹴ったりとやりたい放題されていたんだ。僕は反射的に、ビクッと体を震わせた。
「ああ、ごめん。大丈夫だよ、さっきの奴らは全員伸しておいたから」
顔がぼやっとしてよく見えないけど、多分僕と同じくらいの男の人なのかな? その人は、そう言いながら僕の後ろを指さした。
……さっきの奴らの仲間じゃないの……?
「今から迎えが来るから、もうちょっと待っててな。……あ、大丈夫。信頼できる人だから。……って言っても、初めて会ったのにそんな事言われてもだよな」
さっきから、ぼくが怖がらないように一生懸命考えて話してくれているように思う。
僕に選ぶ権利なんて無いけど、この人なら大丈夫って、何故かそう感じたんだ。
「あ……りがと……ございま……す」
やっとの思いで声を絞り出したあと、僕は再び意識を手放した。
男でも子供を産めるというだけで、気持ち悪がられたり、男だけど売女と呼ばれたり、卑猥な言葉で揶揄われたりもした。
そのたびに、オメガに産まれた僕が悪い。オメガだから虐げられても仕方がない。……そう思ってずっと心を隠してきた。本物の心を外に出してしまったら、きっと一瞬にして壊れてしまうから。
あの日も、そうやって心を隠してずっと耐えていた。時が過ぎれば、はじめは面白がっていたおもちゃにも、飽きるはずだと信じて。
「なぁ、あんたさー、レイコの彼氏寝取ったって、マジ?」
「うわっ、マジかよww きもっ」
「俺は、アキルをフェロモンで誘惑して、わけわかんなくなったアキルが、こいつを襲ったって聞いたぜ」
「いや、勘弁してくれよ。あいつには彼女いるだろ?」
見たこともない四つの顔が、僕を見下ろしていた。
レイコもアキルも見たこともなければ聞いたこともない。それに僕は、そういうことはまだ経験したことがない。だから襲うとか襲われるとか、あるわけないのに。
「あー、ほんとオメガってキモいのな。ちょっと懲らしめてやろうぜ」
四人のうちの一人が、なんだか分からない理論で、僕のお腹に蹴りを入れた。すると、押し出されるように、僕の口から潰れたカエルのような声が漏れた。
そこからは、僕にかかる衝撃がどんどん増えていった。初めはすっごく痛かったのに、衝撃が増えれば増えるほど痛みが薄れていく。もう言葉として認識できない罵声とともに、内外から不穏な音が聞こえ続けているのに、不思議なことにすっかり痛みは消えていた。
そして、痛みが消えたと思ったら、今度はふわふわと体が軽くなった。まるで空に浮かぶ雲の上で横になっている気分だ。ああ、とても気分がいい。このままゆーっくり安心して眠れたら幸せだなぁ。
僕は、久しぶりに心からリラックス出来たような気がする。あと少し、あと少しだけでいいから、このまま──。
わずかに残っていた僕の意識は、そこでぷつりと途切れた。
◇
「……なぁ、おい。……起きろ」
ペシペシと頬を叩く刺激に気付くと、多分僕に話しかけてるんだろうと思う声が耳に入ってきた。
さっきの人たち、まだ飽きてくれないのか……。今日は長いなぁ……。目を開けたら、またあちこち蹴られるのかな、それとも殴られるのかな。でも、知らない振りをしてたら、怒鳴られちゃうよね。
僕はそう思いながら、嫌だけどゆっくり目を開けた。開けたはずなのに、違和感が邪魔して前がよく見えない。
「ああ、気付いたか。大丈夫か? ……ああ、目もこんなに腫れちゃってる……」
よく見えないけど、僕の顔を覗き込んで、そっと顔を撫でてきた。
けど、さっきまで殴ったり蹴ったりとやりたい放題されていたんだ。僕は反射的に、ビクッと体を震わせた。
「ああ、ごめん。大丈夫だよ、さっきの奴らは全員伸しておいたから」
顔がぼやっとしてよく見えないけど、多分僕と同じくらいの男の人なのかな? その人は、そう言いながら僕の後ろを指さした。
……さっきの奴らの仲間じゃないの……?
「今から迎えが来るから、もうちょっと待っててな。……あ、大丈夫。信頼できる人だから。……って言っても、初めて会ったのにそんな事言われてもだよな」
さっきから、ぼくが怖がらないように一生懸命考えて話してくれているように思う。
僕に選ぶ権利なんて無いけど、この人なら大丈夫って、何故かそう感じたんだ。
「あ……りがと……ございま……す」
やっとの思いで声を絞り出したあと、僕は再び意識を手放した。
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