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11. もう大丈夫
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今まで同年代の子と交流する機会はほとんどなく、顔を合わせたとしても、両親の後ろについていきペコリと挨拶をする程度。僕たちが個人として話すということはほとんどなかった。
一ヶ月ほど前に初めて会った少年に、そんなに執着するつもりはないのに、なぜか気になって仕方がない。もしかしたら助けてもらった恩を勘違いしているのかもしれないけど、この胸のざわつきは何なのだろうと考えていた。
そして、やっと再び対面する約束を取り付けることができ、もう一度ちゃんとお礼が言えると、今度はもっと話ができると、気持ちが高鳴る中会いに行った。それなのに、目の前にいるのは、熱が下がらず、目も覚まさないフレッドだった。
「先生。あれからもう三日も過ぎてるのに、全然良くならないじゃないですか」
「そうだよ。せんせいがみてくれるから、もうだいじょうぶだっていったのに!」
僕とフィルは、先生が悪いわけではないのが分かっているのに、どうして? と、問い詰めてしまう。先生に診てもらえさえすれば、きっと大丈夫って信じてたのに。
「ミッチェルくん、フィラットくん。今フレドリックくんは頑張って戦っているんだよ。病気に勝ったら、元気なフレドリックくんに会えるよ」
幼い僕たちの、高ぶる感情をなだめるように話しかけながら、先生はフレッドの診察をした。
相変わらず高熱は続いているけど、呼吸は安定しているから大丈夫だろうと言った。
僕たちは、先生の言葉を信じて待つことしかできなかった。
◇
フレッドを家に連れ帰ってから、五日目の朝のことだった。
僕たちはフレッドの様子をうかがうために、フレッドを休ませている離れに向かった。
本来は、みすぼらしい少年を簡単に家には入れないのだろうけど、フレッドは恩人である上に、高熱を出していたため急を要すると判断された。離れの方に運び込み診察をし、体を拭いて身綺麗にすると、そのまま療養させることになった。
毎日僕たちは、朝一番に様子を見に行くのが日課となっていて、今日もフィルと二人でドキドキしながらドアを開けた。
そこで見た光景は、僕たち二人の気持ちを一気に押し上げるものだった。
「「フレッド!!」」
僕たちの声はピッタリとハマり、部屋中に響き渡った。
まだベッドに横たわったままだけど、たしかにフレッドはしっかりと目を開けこっちを見ていた。
「ここは……どこ?」
自分の置かれている状況がわからないフレッドは、やっと聞き取れるようなか細い声で聞いた。
それでも見知った顔を見つけたのは、不安の中でもホッと安心できる要素だっただろう。
「僕たちの家だよ」
「ぼくたちのいえだよ」
再び、僕とフィルの声が重なった。
普段は、前世の十八歳の記憶がある僕の言葉は少し大人びていて、本当の八歳のフィルの言葉は年相応なため、双子でも言葉がピッタリ合うことは少ない。だけど今日は、フレッドを思う気持ちがそうさせたのか、ピッタリと息が合う。
「なんでここに……?」
フレッドは不思議そうに首を傾げた。
それもそのはず、あの馬小屋のような……いや多分、本当に元は馬小屋なのだろう。窓と言ってもただ木枠があるだけで、ガラス戸もなければ、代わりになる扉のようなものはなかった。
そんな場所でも、フレッドにとっては寝起きする場所。具合が悪くなったフレッドはその小屋で横になったところまでは記憶があるはず。なのに気付いたら、知らない場所のベッドの上で目を覚ました。状況がつかめなくても仕方がない。
「フレッドがめをさましたって、いってくる!」
フレッドからの質問に答える前に、フィルが急いで部屋を出ていった。こういう時は大人に報告するのはとても大切な事だ。
けど、今までのフィルだったら、フレッドのそばにいたいって駄々をこねて動かなかったかもしれない。それが自ら進んで呼びに行ってくれるなんて、成長したなぁって僕は嬉しくなった。
その後すぐ先生と、続いてお父様とお母様も部屋に入ってきた。
先生は僕たちの家の専属医師で、緊急時にも対応できるように、この屋敷に住み込みで働いている。
先生はフレッドの診察をし、いくつか質問をしたあとニッコリと微笑んだ。
「もう大丈夫だね」
一ヶ月ほど前に初めて会った少年に、そんなに執着するつもりはないのに、なぜか気になって仕方がない。もしかしたら助けてもらった恩を勘違いしているのかもしれないけど、この胸のざわつきは何なのだろうと考えていた。
そして、やっと再び対面する約束を取り付けることができ、もう一度ちゃんとお礼が言えると、今度はもっと話ができると、気持ちが高鳴る中会いに行った。それなのに、目の前にいるのは、熱が下がらず、目も覚まさないフレッドだった。
「先生。あれからもう三日も過ぎてるのに、全然良くならないじゃないですか」
「そうだよ。せんせいがみてくれるから、もうだいじょうぶだっていったのに!」
僕とフィルは、先生が悪いわけではないのが分かっているのに、どうして? と、問い詰めてしまう。先生に診てもらえさえすれば、きっと大丈夫って信じてたのに。
「ミッチェルくん、フィラットくん。今フレドリックくんは頑張って戦っているんだよ。病気に勝ったら、元気なフレドリックくんに会えるよ」
幼い僕たちの、高ぶる感情をなだめるように話しかけながら、先生はフレッドの診察をした。
相変わらず高熱は続いているけど、呼吸は安定しているから大丈夫だろうと言った。
僕たちは、先生の言葉を信じて待つことしかできなかった。
◇
フレッドを家に連れ帰ってから、五日目の朝のことだった。
僕たちはフレッドの様子をうかがうために、フレッドを休ませている離れに向かった。
本来は、みすぼらしい少年を簡単に家には入れないのだろうけど、フレッドは恩人である上に、高熱を出していたため急を要すると判断された。離れの方に運び込み診察をし、体を拭いて身綺麗にすると、そのまま療養させることになった。
毎日僕たちは、朝一番に様子を見に行くのが日課となっていて、今日もフィルと二人でドキドキしながらドアを開けた。
そこで見た光景は、僕たち二人の気持ちを一気に押し上げるものだった。
「「フレッド!!」」
僕たちの声はピッタリとハマり、部屋中に響き渡った。
まだベッドに横たわったままだけど、たしかにフレッドはしっかりと目を開けこっちを見ていた。
「ここは……どこ?」
自分の置かれている状況がわからないフレッドは、やっと聞き取れるようなか細い声で聞いた。
それでも見知った顔を見つけたのは、不安の中でもホッと安心できる要素だっただろう。
「僕たちの家だよ」
「ぼくたちのいえだよ」
再び、僕とフィルの声が重なった。
普段は、前世の十八歳の記憶がある僕の言葉は少し大人びていて、本当の八歳のフィルの言葉は年相応なため、双子でも言葉がピッタリ合うことは少ない。だけど今日は、フレッドを思う気持ちがそうさせたのか、ピッタリと息が合う。
「なんでここに……?」
フレッドは不思議そうに首を傾げた。
それもそのはず、あの馬小屋のような……いや多分、本当に元は馬小屋なのだろう。窓と言ってもただ木枠があるだけで、ガラス戸もなければ、代わりになる扉のようなものはなかった。
そんな場所でも、フレッドにとっては寝起きする場所。具合が悪くなったフレッドはその小屋で横になったところまでは記憶があるはず。なのに気付いたら、知らない場所のベッドの上で目を覚ました。状況がつかめなくても仕方がない。
「フレッドがめをさましたって、いってくる!」
フレッドからの質問に答える前に、フィルが急いで部屋を出ていった。こういう時は大人に報告するのはとても大切な事だ。
けど、今までのフィルだったら、フレッドのそばにいたいって駄々をこねて動かなかったかもしれない。それが自ら進んで呼びに行ってくれるなんて、成長したなぁって僕は嬉しくなった。
その後すぐ先生と、続いてお父様とお母様も部屋に入ってきた。
先生は僕たちの家の専属医師で、緊急時にも対応できるように、この屋敷に住み込みで働いている。
先生はフレッドの診察をし、いくつか質問をしたあとニッコリと微笑んだ。
「もう大丈夫だね」
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