8 / 80
7. フィルの願い
しおりを挟む
フィルがフレッドと呼んだ少年は、肩より少し長めのシルバーの髪を無造作に後ろで束ね、前髪も切りそろえられておらず、ボサボサという印象だった。
長い前髪の隙間から見えるブルーグレイの瞳を見つめると、慌ててペコリと頭を下げた。
「フィラットくんが迷子になっていて……」
「フィルだよ!」
たどたどしいながらも説明をしようとしてくれているのに、横からフィルが口を挟む。
「フィル? 今お話を聞いているから、ちょっと待っていてくれるかな?」
さっき反省したことをもう忘れたのか、フィルは自分も話に加わりたい様子で、ねぇねぇと話しかけてくる。そんなフィルにひとこと注意すると、あっという間にシュンっと小さくなってしまった。
少年……フレッドの話を要約すると、見慣れない小さな子が、木陰で小さくうずくまって泣いていたので声をかけた。どうやら家族とはぐれたらしいということまではわかったけれど、泣きながら断片的に話をするので、状況を把握するのに時間がかかってしまった。どうしたものかと考えあぐねていると、メイドが探しにやってきた。これで安心だと思い引き渡そうとしたら、一緒に行くと言って聞かないので、ここまでやってきた……ということらしい。
「そう言うことだったんですね。弟を追いかけて探しに来たものの、知らない場所に迷い込んでしまって、僕も困っていたところなんです。本当に助かりました。ありがとう」
僕も深くお辞儀をすると、御礼の言葉を伝えた。
もし彼が気にして声をかけてくれなかったら、悪い奴らに連れて行かれたかもしれない。両親と歩いていた場所とはかなり雰囲気が違うから、事件に巻き込まれてしまってもおかしくないと思う。
「ねぇミッチ! おとうさまとおかあさまに、フレッドのこといおうよ!」
嬉しそうにそういうフィルは、危機感を全く持たずに無邪気に笑う。
でも僕は、このまま連れて行って良いものかと決めかねていると、再びメイドがそっと耳打ちをした。その言葉を聞き、僕はフィルに優しく微笑んだ。
「そうだね。助けてもらったからね」
「うんっ」
「……と言うわけなんだけど、フレッドくん、少し時間はありますか?」
このまま帰ろうとしても、フィルが納得することはないと思うので、一緒に連れて行くのが最善ではないかという、メイドの助言を聞いた僕は、一緒に来れませんか? と尋ねた。
「今日は、特にやることはないので……」
初めて言葉を交わした時から感じたのは、彼がやけに遠慮がちだということだった。
ただ控えめ……というのとは、少し違う気がする。言葉もやっと聞こえるかのようなか細い声で、ボソボソと話すし、身なりも僕たちと比べるとどうも様子が違う。先程この街に迷い込んだ時に感じた、僕たちの知らない空間に馴染んでいるように見えた。
「じゃあ、一緒に来てもらっても大丈夫ですか?」
僕の言葉に、「はい、だいじょうぶです」とうなずきながら小さく返事をした。
「やったー! フレッド、いこう!」
フィルは嬉しそうにフレッドと手をつなぐと、大きく腕をブンブンと振りながら、ご機嫌で歩き出した。
前世、僕には五歳年下の弟がいた。年が離れていたのもあって、懐いてくれていた弟が可愛くて仕方がなかった。
生まれ変わってもまた弟が出来た。双子で同じ歳だけど、前世の記憶のある僕にとっては、歳の差を感じる可愛い弟だ。
僕のことが大好きで、ずっとまとわりついているくらい一緒にいたのに、さきほど会ったばかりの少し年上の少年に、自分の役割を奪われたような気がして、少し寂しくなってしまった。
……そんなことはただの思い過ごしだとはわかっているのに、僕は少しやきもちをやいてしまったのだと思う。
いくら恩人とはいえ、身元もわからない少年なので警戒しつつも、楽しそうに手を繋いで歩くフィルを、静かに後ろから見守ることにした。
長い前髪の隙間から見えるブルーグレイの瞳を見つめると、慌ててペコリと頭を下げた。
「フィラットくんが迷子になっていて……」
「フィルだよ!」
たどたどしいながらも説明をしようとしてくれているのに、横からフィルが口を挟む。
「フィル? 今お話を聞いているから、ちょっと待っていてくれるかな?」
さっき反省したことをもう忘れたのか、フィルは自分も話に加わりたい様子で、ねぇねぇと話しかけてくる。そんなフィルにひとこと注意すると、あっという間にシュンっと小さくなってしまった。
少年……フレッドの話を要約すると、見慣れない小さな子が、木陰で小さくうずくまって泣いていたので声をかけた。どうやら家族とはぐれたらしいということまではわかったけれど、泣きながら断片的に話をするので、状況を把握するのに時間がかかってしまった。どうしたものかと考えあぐねていると、メイドが探しにやってきた。これで安心だと思い引き渡そうとしたら、一緒に行くと言って聞かないので、ここまでやってきた……ということらしい。
「そう言うことだったんですね。弟を追いかけて探しに来たものの、知らない場所に迷い込んでしまって、僕も困っていたところなんです。本当に助かりました。ありがとう」
僕も深くお辞儀をすると、御礼の言葉を伝えた。
もし彼が気にして声をかけてくれなかったら、悪い奴らに連れて行かれたかもしれない。両親と歩いていた場所とはかなり雰囲気が違うから、事件に巻き込まれてしまってもおかしくないと思う。
「ねぇミッチ! おとうさまとおかあさまに、フレッドのこといおうよ!」
嬉しそうにそういうフィルは、危機感を全く持たずに無邪気に笑う。
でも僕は、このまま連れて行って良いものかと決めかねていると、再びメイドがそっと耳打ちをした。その言葉を聞き、僕はフィルに優しく微笑んだ。
「そうだね。助けてもらったからね」
「うんっ」
「……と言うわけなんだけど、フレッドくん、少し時間はありますか?」
このまま帰ろうとしても、フィルが納得することはないと思うので、一緒に連れて行くのが最善ではないかという、メイドの助言を聞いた僕は、一緒に来れませんか? と尋ねた。
「今日は、特にやることはないので……」
初めて言葉を交わした時から感じたのは、彼がやけに遠慮がちだということだった。
ただ控えめ……というのとは、少し違う気がする。言葉もやっと聞こえるかのようなか細い声で、ボソボソと話すし、身なりも僕たちと比べるとどうも様子が違う。先程この街に迷い込んだ時に感じた、僕たちの知らない空間に馴染んでいるように見えた。
「じゃあ、一緒に来てもらっても大丈夫ですか?」
僕の言葉に、「はい、だいじょうぶです」とうなずきながら小さく返事をした。
「やったー! フレッド、いこう!」
フィルは嬉しそうにフレッドと手をつなぐと、大きく腕をブンブンと振りながら、ご機嫌で歩き出した。
前世、僕には五歳年下の弟がいた。年が離れていたのもあって、懐いてくれていた弟が可愛くて仕方がなかった。
生まれ変わってもまた弟が出来た。双子で同じ歳だけど、前世の記憶のある僕にとっては、歳の差を感じる可愛い弟だ。
僕のことが大好きで、ずっとまとわりついているくらい一緒にいたのに、さきほど会ったばかりの少し年上の少年に、自分の役割を奪われたような気がして、少し寂しくなってしまった。
……そんなことはただの思い過ごしだとはわかっているのに、僕は少しやきもちをやいてしまったのだと思う。
いくら恩人とはいえ、身元もわからない少年なので警戒しつつも、楽しそうに手を繋いで歩くフィルを、静かに後ろから見守ることにした。
203
お気に入りに追加
303
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
運命なんて要らない
あこ
BL
幼い頃から愛を育む姿に「微笑ましい二人」とか「可愛らしい二人」と言われていた第二王子アーロンとその婚約者ノア。
彼らはお互いがお互いを思い合って、特にアーロンはノアを大切に大切にして過ごしていた。
自分のせいで大変な思いをして、難しく厳しい人生を歩むだろうノア。アーロンはノアに自分の気持ちを素直にいい愛をまっすぐに伝えてきていた。
その二人とは対照的に第一王子とその婚約者にあった溝は年々膨らむ。
そしてアーロンは兄から驚くべきことを聞くのであった。
🔺 本編は完結済
🔺 10/29『ぼくたちも、運命なんて要らない(と思う)』完結しました。
🔺 その他の番外編は時々更新
✔︎ 第二王子×婚約者
✔︎ 第二王子は優男(優美)容姿、婚約者大好き。頼られる男になりたい。
✔︎ 婚約者は公爵家長男ふんわり美人。精霊に祝福されてる。
✔︎ あえてタグで触れてない要素、あります。
✔︎ 脇でGL要素があります。
✔︎ 同性婚可能で同性でも妊娠可能な設定(作中で妊娠した描写は一切ありません)
▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
【 『セーリオ様の祝福シリーズ』とのクロスオーバーについて 】
『セーリオ様の祝福』及び『セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り』のキャラクターが登場する(名前だけでも)話に関しては、『セーリオ様の祝福』『セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り』のどちらの設定でも存在する共通の話として書いております。
どちらの設定かによって立場の変わるマチアスについては基本的に『王子殿下』もしくは『第一王子殿下』として書いておりますが、それでも両方の設定共通の話であると考え読んでいただけたら助かります。
また、クロスオーバー先の話を未読でも問題ないように書いております。
🔺でも一応、簡単な説明🔺
➡︎『セーリオ様の祝福シリーズ』とは、「真面目な第一王子殿下マチアス」と「外見は超美人なのに中身は超普通の婚約者カナメ」のお話です。
➡︎『セーリオ様の祝福』はマチアスが王太子ならない設定で、短編連作の形で書いています。
➡︎『セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り』はマチアスが王太子になる設定で、長編連載として書いています。
➡︎マチアスはアーロンの友人として、出会ってからずっといわゆる文通をしています。ノアとカナメも出会ったあとは友人関係になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる