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星司と月歌(スピンオフ)

7. 再会

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「わぁ。この煮物、とっても美味しいです。今度作り方教えてください」
「いいわよいいわよ、いつでもいらっしゃい」

 僕がひとつ料理を食べるたびに、おいしいと感嘆の声を上げるので、百合子ゆりこさんは嬉しそうにあれこれと差し出してきた。
 二人でキャッキャとはしゃぎながらお弁当を食べる姿を、町長さんと星司せいじくんはニコニコしながら満足そうに見ていた。

「ああ、そうだわ。今度、このあたりの視察に来たいという電話があったのよ」
「視察?」
「電話では簡単な話を聞いただけだから、詳しくはわからないのだけど、オメガのための施設用の土地を探しているらしいの」
「オメガ用の施設?」
「私たちはベータだから、そのあたりのことはよく分からなくてねぇ。もし良かったら、星司くんと月歌るかくん、一緒に対応してくれないかしら?」

 お弁当のあとに、僕が作ってきたクッキーを手にしながら、百合子さんはそう言うと、パクっとクッキーを口にした。

「んー、サクッとしてて香りも良いし、美味しいわぁ」
「先日いただいた、ダージリンティーの茶葉を練り込んでいるんです」
「月歌くん、スイーツも上手なのね。今度一緒に作りましょう」
「はい、お願いします!」

 僕と百合子さんが、また料理の話に花を咲かせていると、星司くんが横から口を挟んできた。

「視察とのことなのですが……」

 あ、そうだった! 視察の話をしてたんじゃないか。つい、大好きな料理の話で盛り上がっちゃったけど、話を戻さないと。

「そうそう。今週末、代表の方が来ることになっているから、同席してほしいのよ。今回はあちらの話を聞くだけなので、ほんと気楽な気持ちで聞いていてくれれば良いから」
「わかりました。俺たちでお役に立てるのなら」
「ありがとう、助かるわ」

 町のことなので、本来ならば町長さんが話すのかな? と思っていたけど、町長さんは百合子さんに任せっきりで、のんびりと僕の作ったクッキーを「うまいうまい」と言いながら食べていた。
 まぁ、これはいつものことで、話すことが得意な百合子さんが表に立って話すことも多い。
 この町では、男も女も、アルファもベータもオメガも、皆平等との考えなので、百合子さんが中心となって話していても、特に不満は出てないようだった。



 お花見から数日過ぎた土曜日。僕たちは町役場の会議室で、来客が来るのを待っていた。町長さんと百合子さんは、船着場まで出迎えに行っている。
 ちょっとソワソワしながら待っていると、車のエンジン音が聞こえてきた。戻ってきたみたいだ。
 車のドアを閉める音がして、話し声がだんだん近付いてきた。

「あなた達と同じくらいの年齢だと思うの。今日は同席してもらうので、よろしくお願いね」
「はい、よろしくお願いします」

 扉の向こうから聞こえてきた声に、僕はドキリとした。
 似ているんだ。会いたいのに、もう会うことは許されないと思っている、僕の初めてのオメガの友達の声に。

 でもまさかね。こんな遠く離れた離島に来るわけがない。
 きっと似ている人の声だと思うのに、僕の心臓の音はますます大きくなっていく。

「お待たせ。連れてきたわよ」
「はい、おかえりなさい。お待ちし……」

 百合子さんの声とともに、扉が開かれた。
 その声に導かれるように、扉へ視線を移した僕は、その先の言葉を失い、目を大きく見開いた。

「ゆい……くん?」

 百合子さんに続いて部屋に入ってきたのは、間違いない、由比麻琴ゆいまことくんだった。
 消え入るような声を漏らした僕の隣からは、星司くんの息を呑む声が聞こえた。

「え……っ、飯田いいだくん!?」

 僕と同じタイミングで、由比くんもこちらを見て大きく目を見開いた。
 そして、町長さんと後ろから並んで入ってきたのは、森島蒼人もりじまあおとくんだった。

「星司くん、月歌くん、どうしたの? ……知り合い?」

 その場にいた僕たち四人が一斉に固まったので、何かあったのかと思ったのだろう。
 百合子さんが不思議そうに問いかけた。
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