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星司と月歌(スピンオフ)
7. 再会
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「わぁ。この煮物、とっても美味しいです。今度作り方教えてください」
「いいわよいいわよ、いつでもいらっしゃい」
僕がひとつ料理を食べるたびに、おいしいと感嘆の声を上げるので、百合子さんは嬉しそうにあれこれと差し出してきた。
二人でキャッキャとはしゃぎながらお弁当を食べる姿を、町長さんと星司くんはニコニコしながら満足そうに見ていた。
「ああ、そうだわ。今度、このあたりの視察に来たいという電話があったのよ」
「視察?」
「電話では簡単な話を聞いただけだから、詳しくはわからないのだけど、オメガのための施設用の土地を探しているらしいの」
「オメガ用の施設?」
「私たちはベータだから、そのあたりのことはよく分からなくてねぇ。もし良かったら、星司くんと月歌くん、一緒に対応してくれないかしら?」
お弁当のあとに、僕が作ってきたクッキーを手にしながら、百合子さんはそう言うと、パクっとクッキーを口にした。
「んー、サクッとしてて香りも良いし、美味しいわぁ」
「先日いただいた、ダージリンティーの茶葉を練り込んでいるんです」
「月歌くん、スイーツも上手なのね。今度一緒に作りましょう」
「はい、お願いします!」
僕と百合子さんが、また料理の話に花を咲かせていると、星司くんが横から口を挟んできた。
「視察とのことなのですが……」
あ、そうだった! 視察の話をしてたんじゃないか。つい、大好きな料理の話で盛り上がっちゃったけど、話を戻さないと。
「そうそう。今週末、代表の方が来ることになっているから、同席してほしいのよ。今回はあちらの話を聞くだけなので、ほんと気楽な気持ちで聞いていてくれれば良いから」
「わかりました。俺たちでお役に立てるのなら」
「ありがとう、助かるわ」
町のことなので、本来ならば町長さんが話すのかな? と思っていたけど、町長さんは百合子さんに任せっきりで、のんびりと僕の作ったクッキーを「うまいうまい」と言いながら食べていた。
まぁ、これはいつものことで、話すことが得意な百合子さんが表に立って話すことも多い。
この町では、男も女も、アルファもベータもオメガも、皆平等との考えなので、百合子さんが中心となって話していても、特に不満は出てないようだった。
◇
お花見から数日過ぎた土曜日。僕たちは町役場の会議室で、来客が来るのを待っていた。町長さんと百合子さんは、船着場まで出迎えに行っている。
ちょっとソワソワしながら待っていると、車のエンジン音が聞こえてきた。戻ってきたみたいだ。
車のドアを閉める音がして、話し声がだんだん近付いてきた。
「あなた達と同じくらいの年齢だと思うの。今日は同席してもらうので、よろしくお願いね」
「はい、よろしくお願いします」
扉の向こうから聞こえてきた声に、僕はドキリとした。
似ているんだ。会いたいのに、もう会うことは許されないと思っている、僕の初めてのオメガの友達の声に。
でもまさかね。こんな遠く離れた離島に来るわけがない。
きっと似ている人の声だと思うのに、僕の心臓の音はますます大きくなっていく。
「お待たせ。連れてきたわよ」
「はい、おかえりなさい。お待ちし……」
百合子さんの声とともに、扉が開かれた。
その声に導かれるように、扉へ視線を移した僕は、その先の言葉を失い、目を大きく見開いた。
「ゆい……くん?」
百合子さんに続いて部屋に入ってきたのは、間違いない、由比麻琴くんだった。
消え入るような声を漏らした僕の隣からは、星司くんの息を呑む声が聞こえた。
「え……っ、飯田くん!?」
僕と同じタイミングで、由比くんもこちらを見て大きく目を見開いた。
そして、町長さんと後ろから並んで入ってきたのは、森島蒼人くんだった。
「星司くん、月歌くん、どうしたの? ……知り合い?」
その場にいた僕たち四人が一斉に固まったので、何かあったのかと思ったのだろう。
百合子さんが不思議そうに問いかけた。
「いいわよいいわよ、いつでもいらっしゃい」
僕がひとつ料理を食べるたびに、おいしいと感嘆の声を上げるので、百合子さんは嬉しそうにあれこれと差し出してきた。
二人でキャッキャとはしゃぎながらお弁当を食べる姿を、町長さんと星司くんはニコニコしながら満足そうに見ていた。
「ああ、そうだわ。今度、このあたりの視察に来たいという電話があったのよ」
「視察?」
「電話では簡単な話を聞いただけだから、詳しくはわからないのだけど、オメガのための施設用の土地を探しているらしいの」
「オメガ用の施設?」
「私たちはベータだから、そのあたりのことはよく分からなくてねぇ。もし良かったら、星司くんと月歌くん、一緒に対応してくれないかしら?」
お弁当のあとに、僕が作ってきたクッキーを手にしながら、百合子さんはそう言うと、パクっとクッキーを口にした。
「んー、サクッとしてて香りも良いし、美味しいわぁ」
「先日いただいた、ダージリンティーの茶葉を練り込んでいるんです」
「月歌くん、スイーツも上手なのね。今度一緒に作りましょう」
「はい、お願いします!」
僕と百合子さんが、また料理の話に花を咲かせていると、星司くんが横から口を挟んできた。
「視察とのことなのですが……」
あ、そうだった! 視察の話をしてたんじゃないか。つい、大好きな料理の話で盛り上がっちゃったけど、話を戻さないと。
「そうそう。今週末、代表の方が来ることになっているから、同席してほしいのよ。今回はあちらの話を聞くだけなので、ほんと気楽な気持ちで聞いていてくれれば良いから」
「わかりました。俺たちでお役に立てるのなら」
「ありがとう、助かるわ」
町のことなので、本来ならば町長さんが話すのかな? と思っていたけど、町長さんは百合子さんに任せっきりで、のんびりと僕の作ったクッキーを「うまいうまい」と言いながら食べていた。
まぁ、これはいつものことで、話すことが得意な百合子さんが表に立って話すことも多い。
この町では、男も女も、アルファもベータもオメガも、皆平等との考えなので、百合子さんが中心となって話していても、特に不満は出てないようだった。
◇
お花見から数日過ぎた土曜日。僕たちは町役場の会議室で、来客が来るのを待っていた。町長さんと百合子さんは、船着場まで出迎えに行っている。
ちょっとソワソワしながら待っていると、車のエンジン音が聞こえてきた。戻ってきたみたいだ。
車のドアを閉める音がして、話し声がだんだん近付いてきた。
「あなた達と同じくらいの年齢だと思うの。今日は同席してもらうので、よろしくお願いね」
「はい、よろしくお願いします」
扉の向こうから聞こえてきた声に、僕はドキリとした。
似ているんだ。会いたいのに、もう会うことは許されないと思っている、僕の初めてのオメガの友達の声に。
でもまさかね。こんな遠く離れた離島に来るわけがない。
きっと似ている人の声だと思うのに、僕の心臓の音はますます大きくなっていく。
「お待たせ。連れてきたわよ」
「はい、おかえりなさい。お待ちし……」
百合子さんの声とともに、扉が開かれた。
その声に導かれるように、扉へ視線を移した僕は、その先の言葉を失い、目を大きく見開いた。
「ゆい……くん?」
百合子さんに続いて部屋に入ってきたのは、間違いない、由比麻琴くんだった。
消え入るような声を漏らした僕の隣からは、星司くんの息を呑む声が聞こえた。
「え……っ、飯田くん!?」
僕と同じタイミングで、由比くんもこちらを見て大きく目を見開いた。
そして、町長さんと後ろから並んで入ってきたのは、森島蒼人くんだった。
「星司くん、月歌くん、どうしたの? ……知り合い?」
その場にいた僕たち四人が一斉に固まったので、何かあったのかと思ったのだろう。
百合子さんが不思議そうに問いかけた。
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