【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
上 下
46 / 62
星司と月歌(スピンオフ)

2. 肩代わりの条件

しおりを挟む
 星司せいじくんは、オメガの僕にもとても優しくしてくれた。僕だけじゃなく、女手一つで育ててくれた僕のお母さんにも、とても良くしてくれた。

 両親は結婚して、この場所に小さな洋菓子店を構えた。慣れないことばかりで大変だったけど、念願のお店だから幸せに満ち溢れていたらしい。
 なのに、父が病気で急に亡くなったのは、僕が幼稚園の頃だった。それからお母さんは僕を育てるために必死だった。やっと軌道に乗って落ち着いたと思った矢先、近所にできた大手洋菓子チェーン店。一気に客足が遠のいた。

 経営が大変でも、安易な値上げはしたくないと、人を雇うこともせず一人で切り盛りしていた。
 それでも経営は悪化する一方。そんな中、嫌な噂を耳にするようになった。この辺り一帯の再開発を計画している会社があるのだと。もう何店舗か契約に合意し、立ち退く準備が進んでいるとの噂だ。

 そしてその悪魔の手は、僕たちの小さなお城にも忍び寄ってきた。

「奥さん、もうこのあたりのお店はみんな立ち退きを決めたんですよ。仕事の心配をしているのなら大丈夫。新しい複合施設内の洋菓子店で、働けるように斡旋しますから」
「何度来られても、うちはここを退く気はありません」
「うーん、困りましたねぇ。我々としても、この辺り一体の再開発するにあたり、この場所にいつまでもいられると困ってしまうんですよねぇ」

 見た目こそきっちりとしたスーツを着こなしているが、やっていることはヤクザと変わらない。
 僕はいつもビクビクしながら、その様子を隠れて見守っていた。男なのにお母さんを守れない自分がとても嫌だった。


 そんなやり取りが続き、いい加減お母さんも疲れが見え始めた頃、星司くんが父親と一緒に訪ねてきた。
 僕たちの事情を知っている星司くんが、父親に相談したらしい。

「あの人達には立ち退かないと言っていますが、借金もあるし、赤字続きで店を畳まないといけなくなると思います」

 星司くんたちの問いかけに、しばらく口を閉ざしていたお母さんが、重い口を開いた。
 そして悔しそうに唇を噛み締め、再び口を閉ざしてしまった。

「受け入れがたい提案かもしれませんが、ひとつ私たちの話を聞いてもらえないでしょうか?」

 そう言い出した星司くんのお父さんは、僕とお母さんの顔をじっと見つめた。そして、とんでもない一言を放った。

「借金の肩代わりをさせてもらえないでしょうか?」

 僕もお母さんも、予想もしなかった言葉に、二人して固まってしまった。
 そしてそのとんでもない一言から始まった提案は、何がなんだかわからないまま、どんどん話は進んでいった。

 星司くんの家は、大手製薬会社『八重製薬』を代々受け継いでいる家だった。八重製薬グループの会長がおじい様で、八重製薬の社長がお父様らしい。そして星司くんはもちろん跡継ぎ。
 え? そんなにすごい人だったの? 星司くんもお父様もとても気さくで優しいし雰囲気も柔らかいし、まさかそんなにすごい人たちだと思わなかった。

 けれどそんなすごい人たちだからこそ、とんでもない提案が飛び出したのだと思う。
 このお店を守りたいという気持ちと、星司くんたちなら大丈夫という安心感から、僕もお母さんもこの提案に甘えさせてもらうことにした。

 ただ。

 この提案はそこで終わりではなかった。
 借金の肩代わりの提案の承諾を得た上に、自分たちの身分を明かしたあと、おそらくこの件で一番の驚きの発言が繰り出された。

「申し訳ないのですが、このお話には条件をつけさせていただきたいのです」
「条件?」

 もちろん、こんな良い提案をただで済むとは思っていない。僕たちができることならばと耳を傾けた。

「月歌さんを、星司の婚約者として、いずれ佐久家に迎え入れたい」

 ……えっ?

 借金の肩代わりを提案された時は、それ以上驚くことはないと思ったのに、なんかとんでもない爆弾を落とされた気分だった。
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

【完結】隣に引っ越して来たのは最愛の推しでした

金浦桃多
BL
タイトルそのまま。 都倉七海(とくらななみ)は歌い手ユウの大ファン。 ある日、隣りに坂本友也(さかもとともや)が引っ越してきた。 イケメン歌い手×声フェチの平凡 ・この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...