上 下
26 / 47
あれで付き合ってないの?(本編)

26. 告白

しおりを挟む
「ありがとな。……おれは大丈夫だから、すべてを話して欲しい」

 大好きな香りをめいいっぱい吸うと、震えていた声も落ち着き、平常心を取り戻せた気がする。
 背中から離れるとくるりと蒼人あおとをこちらに向かせ、ちょっと意地悪そうにニカッと笑いながら、真正面から抱きついてやった。
 そして。蒼人の胸に顔を埋めたまま、思いの丈をぶつけることにした。
 

「蒼人……好き……」

 顔は見えないけど、きっと目を見開いて驚いているんじゃないかな。
 このタイミングで? って思うけど、しょうがないんだ、今だって思っちゃったんだから。
 
 学校で意識を失う直前、もう蒼人に会えないかもしれないって思った。
 叶わない恋かもしれないけど、言えないまま会えなくなってしまったらって思うと、怖くなった。
 それなら、思いだけでも伝えたい。
 おれの、本当の気持ちを。
 

「──っ!」

 抱きついたままのおれの頭上から、息を呑む声が聞こえた。

「……返事は、しなくていい。……伝えたかっただけだから」

 なにか言いたげな蒼人を制して、何も言わないでほしいと懇願する。
 蒼人への思いを浄化できた。それだけで満足だ。

「肩のこと詳しく聞きたいけど、もう面会時間終わるよな。……明日、来れる時間あるか?」
「……明日も、朝から来る。……さっきのは……」
「わかった! じゃあ、また明日な」

 蒼人の言いかけた言葉に無理やり被せ、半ば強引に会話を終了させると、もう寝るから! と、部屋から追い出した。

 ごめんな。言うだけ言って逃げるなんて卑怯かもしれないけど、今日はもういっぱいいっぱいなんだ。

 さっき蒼人に抱きついたから、おれ自身にも匂いが付いているし、今日は蒼人に包まれる気分で寝られる。

 思いもよらずな告白になってしまったけど、後悔はしていない。
 たとえ親の決めた結婚だったとしても、蒼人なら相手をとても大切にするだろう。そして、ちゃんと好きになるだろう。
 でも、心の一番奥かも知れないけど、おれの気持ちもきっと仕舞っておいてくれるはずだ。

 いつか、笑ってこんな日もあったなって、話せる日が来るといいな。

 肩の痛みと胸の痛みに少し顔を顰めつつも、自分に纏う大好きな人の匂いを感じながら、眠りについた。




 次の日。蒼人は言った通り朝早くからやってきた。
 本来は面会時間というものが存在するのだけど、春岡はるおか先生の病院ということもあって、かなり融通がきくようになっていた。

 産まれた頃からおれ達のことを知っている春岡先生だから、蒼人はおれにとって家族と同じ扱いということは承知していることだけど、真面目な蒼人は、律儀に先生へちゃんと面会の確認を取っていたらしい。

「体調はどうだ?」

 蒼人の第一声はそれだった。
 普通ならまぁ、おはようとかそんな感じから話すだろうし、正直昨日のことがあったから、病室に入るや否や、そのあたりに突っ込んだ話をされるかと思っていた。

 だって、勢い余って告白したんだぞ?

 それをなかったことに……とは言わないまでも、『それは置いといて』みたいな感じになっているのは、おれとしてもどうもムズムズしてしまう。
 でも、言い逃げとも言える形を取ったのも、おれ自身だ。

「うん……。もう大丈夫。朝も普通に御飯食べられたし」

 昨日目が覚めてから暫くの間は、身体が思うように動かないもどかしさがあったけど、今は身体も思考回路も正常だと思う。
 昨日のことはしっかりと覚えているし、なかったことにしてくれなんて思わない。
 蒼人が結婚すると分かっていても、おれのこの気持ちが嘘だったとは思いたくはない。
 おれのわがままでしかないけど、本当の気持ちを伝えられたのは、良いタイミングだったと思う。

 蒼人は近いうちに正式に結婚するだろうから、その前にそっと距離を置こう。
 とりあえずは、北海道に行くのも良いかも知れない。広大な大自然の中でゆっくりしてから、日本を離れようか。 

「……本音をいうと、おれは麻琴まことにすべてを話したくない」

 おれがごちゃごちゃと考えていたら、蒼人の絞り出したような声が聞こえてきた。
 一人の世界に入りかけていたおれは、はたと我に返り、蒼人の方を見た。

「喫茶店でのことも、学校でのことも、全て調査が完了している」
「え……」
「正直、麻琴にとってショックなことも含まれていると思う。……それでも、聞きたいか?」

 蒼人は、苦しそうな表情で聞いてくる。
 すべて警察に任せているのかと思ったら、蒼人も協力してくれていたのだろうか。
 真相を話したくなさそうだったけど、ここで聞かなかったら、逃げていたら、ずっと後悔すると思う。

「……おれは、全てを知りたい」

 きっと、真実を告げる蒼人だって辛いはずだ。そんな思いをさせるのは心苦しいけど、前を向くために必要なこと。

 大きく深呼吸をしたあと、蒼人の顔をしっかりと見て、大きく頷いた。

「分かった……。気分が悪くなったら、すぐ言うんだぞ?」
「うん」

 蒼人はおれの返事を聞いたあと、少し考えた様子で室内を見回し、壁際に設置されているソファーへ腰掛けた。
 そして、自分の膝の上をポンポンと叩く。

「麻琴。こっち来て」

 言われるがままにそばへ近寄ると、ぐっと腰を掴まれ、いつものように、膝の上へと腰掛ける形になった。
 そして後ろからおれをふわりと抱きしめると、「肩、大丈夫か? この姿勢でも平気か?」って耳元で囁かれたから、ドキドキしながら頷いた。
 
 顔が熱いよ……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

いつか愛してると言える日まで

なの
BL
幼馴染が大好きだった。 いつか愛してると言えると告白できると思ってた… でも彼には大好きな人がいた。 だから僕は君たち2人の幸せを祈ってる。いつまでも… 親に捨てられ施設で育った純平、大好きな彼には思い人がいた。 そんな中、問題が起こり… 2人の両片想い…純平は愛してるとちゃんと言葉で言える日は来るのか? オメガバースの世界観に独自の設定を加えています。 予告なしに暴力表現等があります。R18には※をつけます。ご自身の判断でお読み頂きたいと思います。 お読みいただきありがとうございました。 本編は完結いたしましたが、番外編に突入いたします。

可愛くない僕は愛されない…はず

おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。 押しが強いスパダリα ‪✕‬‪‪ 逃げるツンツンデレΩ ハッピーエンドです! 病んでる受けが好みです。 闇描写大好きです(*´`) ※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております! また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

学園王子と仮の番

月夜の晩に
BL
アルファとベータが仮の番になりたかった話。 ベータに永遠の愛を誓うものの、ある時運命のオメガが現れて・・?

処理中です...