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あれで付き合ってないの?(本編)
03. 兄弟みたいな関係
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中学校生活も残り半年という頃。おれ達は小春日和に誘われて、中庭のベンチへと集まっていた。
肌に当たる風は少し冷たさを感じるようになったが、降り注ぐ日差しはまだポカポカしてとても心地が良い。
受験の大事な時期ではあるけど、勉強詰めでも良くない。たまにはこうやってのんびりするのも大切なんだ。
「小春日和だなぁ……」
眩しくないように、うまい具合に顔の部分だけ日陰になっている中で、おれは満足そうに目を細めた。
「午後の授業、眠気に耐えられるかなー」
隣のベンチから、そんな声が聞こえてくる。昔からずっと一緒にいるんじゃないかと錯覚するくらい、すっかり馴染んだベータの太陽だ。
「んー。このまま寝ちゃいたい……」
同意の意味も込めて、そう言いながら大きなあくびをひとつ。
なんともいえない魅力的な言葉で誘惑されている気分だ。
「なぁ、蒼人のクラス、午後自習だろ? なら、このままここでゆっくりしようぜ」
隣のベンチにいる太陽ではなく、自分を日陰から守るように頭を傾けている蒼人に向かって話しかけた。
受験生が何を言ってるんだという話だけど、眠いものは眠い。この状態で授業を受けても、身が入らないのは明らかだ。先生の言葉も、右から入っても左にすり抜けていってしまうだろう。
おれ達三人以外にもちらほら生徒がいる中庭。そこのベンチでアルファに膝枕をしてもらっているオメガと、そのオメガを撫でながら優しく見守るアルファという光景。
おれにとっては当たり前のことなので何の疑問も持たずに過ごしてきたけど、蒼人の膝におれが座る教室でのいつもの光景と同じく、他の人から見ると普通じゃないらしい。
今も、チラチラと横目に見ながら通り過ぎる生徒がたくさんいた。
そんな視線など全く気にしない様子で、蒼人は自分の膝の上で眠そうに微睡むおれの髪をそっと手で解す。
目を閉じているおれには見えないけど、太陽が言うには、こういう時の蒼人の視線は慈愛に満ちているらしい。
それならきっと、蒼人もおれの事を家族同然に思ってくれているはずだ。そう思うとやっぱり嬉しい。
「んなわけにいかねーだろ。お前も駄目だって言えよ。麻琴に甘すぎんだよ」
隣からの太陽の言葉は至極真っ当なのに、自分の行動の何がいけないのか分からない様子で、蒼人は困ったように微笑んだ。
「ったく。……ところでさ。お前は付き合ってないって言い張ってるけど、じゃあ結局のところ、何になるんだ?」
太陽は『蒼人がおれを甘やかしすぎる問題』を、これ以上深く掘り下げても同じことの繰り返しだと思ったのか、話題を変えてきた。正直、この話題だって前々から何度も質問され続けてきたものなので、同じことの繰り返しではあると思うのだけど。
「うーん。友達?」
「それなら俺だって友達だろ。こいつと同じか?」
「違う」
思わず違うと即答してしまい、あっ……と思い、チラリと太陽の様子をうかがい見る。ごめん、太陽。悪気はないんだ。
太陽は複雑な表情をしていたけど、気を取り直したのか、それとも気付かないフリをしたのか、話を続けた。
「じゃあ何なんだよ?」
「うーん……幼馴染?」
「それにしちゃあ距離が近過ぎないか?」
太陽はおれの返答に間髪入れずにポンポンっと返してくる。
おれは、蒼人との関係って一体何なのだろうって、じっくり考えることなんてなかった。だって、物心ついた頃には隣にいたんだ。そしてずっと一緒に大きくなってきた。どんなときでも、蒼人はおれの側にいた。大げさではなく、辛い時も悲しい時も楽しい時も、全部分け合ってきたんだ。
そういうのを唯一無二の存在っていうのか? ……そう考えると、家族。兄弟。そんな言葉が合うんじゃないかって思うんだ。
「兄弟? ──そうだよ、兄弟と同じ。同じ年だし、双子みたいなもんだ!」
双子? と首を傾げる太陽の横で、おれはやっと正解にたどり着いたと言わんばかりに、嬉しそうに声を上げた。
おれと蒼人の関係について、なんとなくモヤモヤするものがあったけど、今回のが一番しっくりくる気がした。
「森島……。お前、大変だな」
スッキリとした気分でいるおれの耳に入ってきたのは、太陽が蒼人に向けた言葉だった。
何が大変なのだろうか? おれは問題児じゃないし、困るようなことしてないと思うんだけどなぁ……。
うーんと考えながら蒼人の顔を見ると、困ったような、少し寂しそうな、そんな顔をしていた。
やっぱり、なにか思うところがあるのかな? ……おれは首を軽く傾げて、蒼人に問うような視線を送ってみたけど、先ほどと表情は変わらない。
兄弟同然なおれにも言えないことなのかな? 太陽には分かっていて、おれには分からないというのが、釈然としなかった。
自分の中で、蒼人との関係を言葉にすると? という疑問に対して導き出した、『おれ達、兄弟みたいなもんなんだから』……この考えが、後々おれ自身の心に重くのしかかることになる。
太陽の言葉の意図も、蒼人の表情の理由も、おれが知ることになるのはもう少し後のことだった──。
肌に当たる風は少し冷たさを感じるようになったが、降り注ぐ日差しはまだポカポカしてとても心地が良い。
受験の大事な時期ではあるけど、勉強詰めでも良くない。たまにはこうやってのんびりするのも大切なんだ。
「小春日和だなぁ……」
眩しくないように、うまい具合に顔の部分だけ日陰になっている中で、おれは満足そうに目を細めた。
「午後の授業、眠気に耐えられるかなー」
隣のベンチから、そんな声が聞こえてくる。昔からずっと一緒にいるんじゃないかと錯覚するくらい、すっかり馴染んだベータの太陽だ。
「んー。このまま寝ちゃいたい……」
同意の意味も込めて、そう言いながら大きなあくびをひとつ。
なんともいえない魅力的な言葉で誘惑されている気分だ。
「なぁ、蒼人のクラス、午後自習だろ? なら、このままここでゆっくりしようぜ」
隣のベンチにいる太陽ではなく、自分を日陰から守るように頭を傾けている蒼人に向かって話しかけた。
受験生が何を言ってるんだという話だけど、眠いものは眠い。この状態で授業を受けても、身が入らないのは明らかだ。先生の言葉も、右から入っても左にすり抜けていってしまうだろう。
おれ達三人以外にもちらほら生徒がいる中庭。そこのベンチでアルファに膝枕をしてもらっているオメガと、そのオメガを撫でながら優しく見守るアルファという光景。
おれにとっては当たり前のことなので何の疑問も持たずに過ごしてきたけど、蒼人の膝におれが座る教室でのいつもの光景と同じく、他の人から見ると普通じゃないらしい。
今も、チラチラと横目に見ながら通り過ぎる生徒がたくさんいた。
そんな視線など全く気にしない様子で、蒼人は自分の膝の上で眠そうに微睡むおれの髪をそっと手で解す。
目を閉じているおれには見えないけど、太陽が言うには、こういう時の蒼人の視線は慈愛に満ちているらしい。
それならきっと、蒼人もおれの事を家族同然に思ってくれているはずだ。そう思うとやっぱり嬉しい。
「んなわけにいかねーだろ。お前も駄目だって言えよ。麻琴に甘すぎんだよ」
隣からの太陽の言葉は至極真っ当なのに、自分の行動の何がいけないのか分からない様子で、蒼人は困ったように微笑んだ。
「ったく。……ところでさ。お前は付き合ってないって言い張ってるけど、じゃあ結局のところ、何になるんだ?」
太陽は『蒼人がおれを甘やかしすぎる問題』を、これ以上深く掘り下げても同じことの繰り返しだと思ったのか、話題を変えてきた。正直、この話題だって前々から何度も質問され続けてきたものなので、同じことの繰り返しではあると思うのだけど。
「うーん。友達?」
「それなら俺だって友達だろ。こいつと同じか?」
「違う」
思わず違うと即答してしまい、あっ……と思い、チラリと太陽の様子をうかがい見る。ごめん、太陽。悪気はないんだ。
太陽は複雑な表情をしていたけど、気を取り直したのか、それとも気付かないフリをしたのか、話を続けた。
「じゃあ何なんだよ?」
「うーん……幼馴染?」
「それにしちゃあ距離が近過ぎないか?」
太陽はおれの返答に間髪入れずにポンポンっと返してくる。
おれは、蒼人との関係って一体何なのだろうって、じっくり考えることなんてなかった。だって、物心ついた頃には隣にいたんだ。そしてずっと一緒に大きくなってきた。どんなときでも、蒼人はおれの側にいた。大げさではなく、辛い時も悲しい時も楽しい時も、全部分け合ってきたんだ。
そういうのを唯一無二の存在っていうのか? ……そう考えると、家族。兄弟。そんな言葉が合うんじゃないかって思うんだ。
「兄弟? ──そうだよ、兄弟と同じ。同じ年だし、双子みたいなもんだ!」
双子? と首を傾げる太陽の横で、おれはやっと正解にたどり着いたと言わんばかりに、嬉しそうに声を上げた。
おれと蒼人の関係について、なんとなくモヤモヤするものがあったけど、今回のが一番しっくりくる気がした。
「森島……。お前、大変だな」
スッキリとした気分でいるおれの耳に入ってきたのは、太陽が蒼人に向けた言葉だった。
何が大変なのだろうか? おれは問題児じゃないし、困るようなことしてないと思うんだけどなぁ……。
うーんと考えながら蒼人の顔を見ると、困ったような、少し寂しそうな、そんな顔をしていた。
やっぱり、なにか思うところがあるのかな? ……おれは首を軽く傾げて、蒼人に問うような視線を送ってみたけど、先ほどと表情は変わらない。
兄弟同然なおれにも言えないことなのかな? 太陽には分かっていて、おれには分からないというのが、釈然としなかった。
自分の中で、蒼人との関係を言葉にすると? という疑問に対して導き出した、『おれ達、兄弟みたいなもんなんだから』……この考えが、後々おれ自身の心に重くのしかかることになる。
太陽の言葉の意図も、蒼人の表情の理由も、おれが知ることになるのはもう少し後のことだった──。
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