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あれで付き合ってないの?(本編)
01. 距離感バグっている二人
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クラスメイトの半分程度が登校した頃だろうか。すっかり朝の静けさは消え去り、あちこちで昨日のテレビの話や今日の予定など、楽しげな会話が飛び交っている。
そんな賑やかな声で満たされた朝の教室に、ほぼ独り言のような声のトーンで『おはよー』と言いながら、教室へと足を踏み入れた。
「よぅ、麻琴! 今日は早いな」
誰にも気付かれないだろうと思い机に向かっていたが、それに気付いて軽く手を振るのはベータのクラスメイト、天間太陽。中学校からの友達だ。そして麻琴と呼ばれたのがおれ、由比麻琴。
おれの通っている高校は、アルファとオメガの教育に力を入れている学校だから、ベータの太陽と一緒になるとは思ってもいなかった。
アルファとオメガはそれぞれ枠があるから比較的入りやすいけど、所謂ベータは一般枠となる。さらに募集人数が少なく設定されていた。そんな狭き門を突破した太陽は、優秀なんだと思う。
別々の進路になると思っていた太陽が同じ高校で、一年生は同じクラスになれた。入学したての頃は知らない顔ばかりの中でとても心強かった。
「ちょっと係の仕事で、やらなきゃいけないことがあって。だからいつもより早く登校したんだよ」
聞かれたから答えたのに、その言葉を半分聞き流した様子で、おれの後ろにチラッと視線を向けたあと、そっか……と言いながら、肩をポンポンっと叩く。
「んじゃあなんでこいつも一緒なんだ?」
当たり前のように隣に待機している人物に目をやったあと、再びおれに向かって話しかけた。
「ん? 蒼人? 普通に一緒に登校したんだけど?」
森島蒼人は、まるで忠犬ハチ公のように少し後ろに待機し、二人のやり取りを確認すると、近くの椅子へと腰を下ろした。
もちろん身も知らずのヤツの席に勝手に座ったわけではなくて、蒼人が座ったのはおれの席だ。蒼人は深く腰掛けると、おれの方を見てぽんぽんっと自分の太腿の上を叩いた。
おれはなにか言いたげな太陽をよそに、いつものように荷物を片付ける。そして先に椅子へと座って待機していた蒼人の上に、抱き込まれるようにして着席した。
「いつもと時間違うのに?」
一通りの動作が終わったんだなと確認すると、太陽は先程の問いかけを続けた。
はじめの頃は、おれたちの行動を見ておかしくないか?! と、激しく突っ込んだ太陽だったけど、最近はチラリと蒼人の方へ視線は向けるものの、特に何も言わなくなった。
それでも、いつも護衛のように側にいる蒼人のことが、ベータの太陽にとっては不思議で仕方がないらしい。
「だってこいつ、昨日おれんち泊まったもん」
差もない事のように言ったおれの言葉に、太陽の眉が一瞬ピクリと歪む。
おそらく言いたいことは山ほどあるのだろう。口を開きかけて、一度ぎゅっと噤んで言葉を飲み込んだ。
そして選ぶように、言葉をゆっくりと並べていく。
「森島が麻琴んちに泊まるのも、朝一緒に登校するのも、膝の上に当たり前のように座るのも、まぁ、百歩譲っていつものことだとしよう……」
そこで、ふぅっとひと呼吸を置く。そして渾身の一言のように、ハッキリとした口調で問い質した。
「ほんとにさ、お前ら付き合ってないの?」
何度も言われたこのセリフ。太陽曰く、普通の友達はそんなに距離感バグっていないそうだ。
でも他の奴らのことなんて知らないし、昔からおれ達はこんな感じだ。
物心ついた頃からってレベルじゃないんだ。この世に生を受けた日から隣りにいるんだぞ?
そりゃ、周りを見てもおれ達みたいな雰囲気の奴らは少ないなぁ……とは思うけど、家とかクラスメイトのいないところでは、距離感近いかもしれないじゃないか。
だから、人は人、おれ達はおれ達。距離感バグっていようがなんだろうが、付き合ってるんじゃないかって勘ぐられようが、違うとしか言いようがない。
「うーん……? 付き合ってないけど?」
何を期待しているのかは分からないけれど、いつもと変わらない返事をすると、やっぱりその返事かーとがっくり肩を落とした。変なやつ。
太陽にも、きっとそんな唯一無二みたいな友達が出来るよきっと。
おれは、太陽とおれ達の関係もなかなかに親密だということさえも気付かないまま、目の前で項垂れる太陽の肩に宥めるように手を置いた。
今は男女の性の他に、昔はなかったとされる『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性がある。
人口の二割程度がアルファで、一割程度がオメガ、残りはベータと言われている。
一般的にアルファは全ての能力が高く、国のトップや有名アスリートなど、多方面で活躍している者が多い。
ベータは本来の男女と何も変わらない、普通と分類される人々だ。
オメガは男性でも子を授かることができる種だ。定期的にフェロモンでアルファ、時にはベータでさえ誘ってしまう発情期がやってくる。ひと昔前はそれ故に虐げられたりしたらしいが、今は質の良い抑制剤も開発され、日常生活で困ることはほぼ無くなった。
蒼人はアルファでおれはオメガで太陽はベータだ。だからきっと、第二の性をよく分かっていないベータの太陽が、ちょっと仲が良いだけで勘ぐるのだとおれは思っている。
でもオメガの特徴であるヒートがまだ来ていないおれは、正直第二の性が何かって言われても、ピンとこない。
今のおれはベータの太陽と何ら変わらないと感じているし、本当は検査結果が間違ってるんじゃ? なんて実は疑っていた。
けれど、毎年行われる健康診断での結果はいつも同じ。実感はなくともオメガということを心にちゃんと止めておいてと、両親にも口を酸っぱくして言われている。
実感のないおれは、過保護だなぁ……なんて笑っていたのだけど、まさかあんなことになるなんて、おれは予想さえしていなかった。
そんな賑やかな声で満たされた朝の教室に、ほぼ独り言のような声のトーンで『おはよー』と言いながら、教室へと足を踏み入れた。
「よぅ、麻琴! 今日は早いな」
誰にも気付かれないだろうと思い机に向かっていたが、それに気付いて軽く手を振るのはベータのクラスメイト、天間太陽。中学校からの友達だ。そして麻琴と呼ばれたのがおれ、由比麻琴。
おれの通っている高校は、アルファとオメガの教育に力を入れている学校だから、ベータの太陽と一緒になるとは思ってもいなかった。
アルファとオメガはそれぞれ枠があるから比較的入りやすいけど、所謂ベータは一般枠となる。さらに募集人数が少なく設定されていた。そんな狭き門を突破した太陽は、優秀なんだと思う。
別々の進路になると思っていた太陽が同じ高校で、一年生は同じクラスになれた。入学したての頃は知らない顔ばかりの中でとても心強かった。
「ちょっと係の仕事で、やらなきゃいけないことがあって。だからいつもより早く登校したんだよ」
聞かれたから答えたのに、その言葉を半分聞き流した様子で、おれの後ろにチラッと視線を向けたあと、そっか……と言いながら、肩をポンポンっと叩く。
「んじゃあなんでこいつも一緒なんだ?」
当たり前のように隣に待機している人物に目をやったあと、再びおれに向かって話しかけた。
「ん? 蒼人? 普通に一緒に登校したんだけど?」
森島蒼人は、まるで忠犬ハチ公のように少し後ろに待機し、二人のやり取りを確認すると、近くの椅子へと腰を下ろした。
もちろん身も知らずのヤツの席に勝手に座ったわけではなくて、蒼人が座ったのはおれの席だ。蒼人は深く腰掛けると、おれの方を見てぽんぽんっと自分の太腿の上を叩いた。
おれはなにか言いたげな太陽をよそに、いつものように荷物を片付ける。そして先に椅子へと座って待機していた蒼人の上に、抱き込まれるようにして着席した。
「いつもと時間違うのに?」
一通りの動作が終わったんだなと確認すると、太陽は先程の問いかけを続けた。
はじめの頃は、おれたちの行動を見ておかしくないか?! と、激しく突っ込んだ太陽だったけど、最近はチラリと蒼人の方へ視線は向けるものの、特に何も言わなくなった。
それでも、いつも護衛のように側にいる蒼人のことが、ベータの太陽にとっては不思議で仕方がないらしい。
「だってこいつ、昨日おれんち泊まったもん」
差もない事のように言ったおれの言葉に、太陽の眉が一瞬ピクリと歪む。
おそらく言いたいことは山ほどあるのだろう。口を開きかけて、一度ぎゅっと噤んで言葉を飲み込んだ。
そして選ぶように、言葉をゆっくりと並べていく。
「森島が麻琴んちに泊まるのも、朝一緒に登校するのも、膝の上に当たり前のように座るのも、まぁ、百歩譲っていつものことだとしよう……」
そこで、ふぅっとひと呼吸を置く。そして渾身の一言のように、ハッキリとした口調で問い質した。
「ほんとにさ、お前ら付き合ってないの?」
何度も言われたこのセリフ。太陽曰く、普通の友達はそんなに距離感バグっていないそうだ。
でも他の奴らのことなんて知らないし、昔からおれ達はこんな感じだ。
物心ついた頃からってレベルじゃないんだ。この世に生を受けた日から隣りにいるんだぞ?
そりゃ、周りを見てもおれ達みたいな雰囲気の奴らは少ないなぁ……とは思うけど、家とかクラスメイトのいないところでは、距離感近いかもしれないじゃないか。
だから、人は人、おれ達はおれ達。距離感バグっていようがなんだろうが、付き合ってるんじゃないかって勘ぐられようが、違うとしか言いようがない。
「うーん……? 付き合ってないけど?」
何を期待しているのかは分からないけれど、いつもと変わらない返事をすると、やっぱりその返事かーとがっくり肩を落とした。変なやつ。
太陽にも、きっとそんな唯一無二みたいな友達が出来るよきっと。
おれは、太陽とおれ達の関係もなかなかに親密だということさえも気付かないまま、目の前で項垂れる太陽の肩に宥めるように手を置いた。
今は男女の性の他に、昔はなかったとされる『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性がある。
人口の二割程度がアルファで、一割程度がオメガ、残りはベータと言われている。
一般的にアルファは全ての能力が高く、国のトップや有名アスリートなど、多方面で活躍している者が多い。
ベータは本来の男女と何も変わらない、普通と分類される人々だ。
オメガは男性でも子を授かることができる種だ。定期的にフェロモンでアルファ、時にはベータでさえ誘ってしまう発情期がやってくる。ひと昔前はそれ故に虐げられたりしたらしいが、今は質の良い抑制剤も開発され、日常生活で困ることはほぼ無くなった。
蒼人はアルファでおれはオメガで太陽はベータだ。だからきっと、第二の性をよく分かっていないベータの太陽が、ちょっと仲が良いだけで勘ぐるのだとおれは思っている。
でもオメガの特徴であるヒートがまだ来ていないおれは、正直第二の性が何かって言われても、ピンとこない。
今のおれはベータの太陽と何ら変わらないと感じているし、本当は検査結果が間違ってるんじゃ? なんて実は疑っていた。
けれど、毎年行われる健康診断での結果はいつも同じ。実感はなくともオメガということを心にちゃんと止めておいてと、両親にも口を酸っぱくして言われている。
実感のないおれは、過保護だなぁ……なんて笑っていたのだけど、まさかあんなことになるなんて、おれは予想さえしていなかった。
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