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一章 大川

第30話

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「あらやだ!良い男じゃない!!まあ、顔の半分がグチャグチャだけど、調理のやりがいは出てきたわ~」

 吐き気がするような気持ち悪い声に反応して、俺の意識は覚醒した。なんだ?ここはどこだ?

「まずは左腕からいこうかしら~。ゴツゴツしてて素敵ね~。食べ応えがありそうだわ~」

 左腕に激痛が走った。

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

「えっ!?なんで生きてるの!?」

「この!クソ野郎がああああああああああああああああああああああああああ!!」

 右腕をナイフのように固定し、クソ野郎の左目めがけて突き出す。ネッチョ!とした感触を感じた後、脳みそを直接グリグリとかき混ぜる。

「お!おお!お、お、お、お、おひょおおお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 クソ野郎はしばらくピクピクした後、動かなくなった。

「あの野郎。ふざけやがって!!」

 俺は久々にぶち切れた。いきなり銃をぶっ放してきたあのクズ野郎のニヤケ顔が頭から離れない。あいつは必ずブチ殺す。俺の怒りに合わせるかのように暗くて見えなかった右側の視界も元に戻った。

「おい!肉屋、どうした~。ってお前!?なんで生きてる!?」

「...丁度いいや。おい。てめえに聞きたい事があるんだよ」

 全力で1歩前に踏み込み、一瞬で男の前に接近する。足の指の骨を踏みつけて簡単には逃げられないよう簡易的に拘束しておいた。

「ぐああああああああ!?て、てめえ!?うむうううぅぅぅぅ......!!」

「うるせえな。静かにしろよ」

 男の口を右腕で無理やり閉じながら、そのまま男を壁へと押し付ける。こいつから情報を引き出さなければいけない。

「おい。俺を撃った男はどこにいる?それと「牧場」て何なんだ?」

「はっ!言うわけねえだろバカが!! おいみんな...うぐああんむううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!?」

 男の歯を1本無理やり引き抜いた。歯っていうのは神経がかなり集中している場所で、傷つくと激痛が走る。拷問とかにもよく使われる手段だな。噴き出した口内の血で男はゴボゴボと苦しそうに呼吸を繰り返す。

「お~お~。今抜けたのは永久歯か?今後一生入れ歯生活とか嫌だよな~?美味しくご飯が食べられる内に喋っといたほうが身のためだと思うが」

「ゴ...ゴボボ...デメエ!!デッタイ殺ジデヤル!!」

「...俺が聞きたいのはそういうセリフじゃないんだが。分かった分かった。てめえがそういうつもりなら俺の無料歯科治療フルコースを受けさせてやるよ」

 上の歯から順番に1本1本歯を抜くと3本目辺りで男は情報を話し始めた。一度口を割ればそれからはあっと言うまだ。一通り必要な情報を入手したので男の拘束を解除する。

「五里さんは5階でペットと遊んでます!間違いないです!...へへ。こ、これで俺は見逃してもらえますよね?」

「...ダメだ」

「あえ?」

 一歩後ろに足を引いた後、右拳を男の腹部に叩き込む。

「なんで?正直にしゃべったのに...」

「...やべ。拳が貫通しちゃったよ」

 仲間を呼ばれた面倒なので気絶させるつもりで殴ったんだが、勢い余って致命傷になってしまったようだ。まあ仲間を呼ばれても面倒だしこれでも問題ないかと自分を納得させる。まあ、もうちょっとスマートにやりたがったが仕方がない。

 拳を引き抜いて、男を床に転がして部屋を出る。外には男が2人。現状を理解できず木偶の坊のように固まっている1人の首元、1人の頭部を掴んで同時に床に叩きつける。

「があっ!?」

「うげっ!?」

「まあ、これで死んじまっても自業自得だろ?お前たちみたいなクズ共はよ」

 ピクピクと痙攣する男達を放置して3階に向かう。保管されていた俺の荷物を全て回収した。どうやらあの尋問した男、本当の事を言ってたみたいだな。正直な話半信半疑だったが。

「女を監禁して飼育とかアホかよ。史上最低のクズ共だな」

 そういえば山田も生物学上は女だった。あんなちんちくりんの何が良いんだがな。俺一人なら今すぐここから逃げ出せる。以前までの俺なら間違いなくそうしていただろう。だがなんだ。...そう。本当にちょっとだけだが、あいつには恩がある。

「まったく仕方がねえなぁ...」

 今回だけは助けてやるよ。...ちくしょうが。

 5階に辿り着くと、そこには銃で武装した人間が5、6人。臨戦態勢で待ち構えているのが見えた。

「マズッたな。音とか響いてた感じか?」

「...なんか、もう色々と考えるのが面倒になってきちまったなぁ?俺は元々頭脳タイプの人間じゃねえんだよ」

 男だろうが女だろうが、もうどうなっても知るか。荷物を分かりやすい場所に適当に置いて、上着だけ脱いでおく。これからの殴殺に必要な工程だ。

「んんぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐううううううううううううううううううう!!!!」

 メキメキと盛り上がっていく筋肉。全身を襲う激しい痛み。体表がピンク色へと変化していき、体が全体が異形の姿へと変わる。全長3メートル程になり、ようやく変化が収まった。

「イテテテ。体中ノ骨ヲバキバキニシテシェイクデモシタ感ジダナ」

 そのままドスドスと正面から人間達へと向かっていく。

「なっ!? なんだあああ!?あの化け物はよおおおおおおおおおおおおおお!?」

「知らないわよっ!?」

「___テメエラ全員、皆殺シダ」
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