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一章 大川

第23話

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 色々と世話になったみたいなので、山田にはそこそこの量の食料を渡して部屋に帰ってもらった。やつはこの部屋の物は全部私のものだとかぬかしてたが、そんなものは当然却下だ。なんせ俺はこうして生きてるんだからな。

 軽く運動をして確認したんだが、この異常なパワー。どうやら自分の意志でコントロールが可能みたいだ。普通の状態の力にもできるし、頭がおかしいレベルの怪力を出すことも出来る。ただし、使い過ぎるとめっちゃ腹が減るけどな。となると、他にも何か出来る事があるかもしれない。

「...そうだな。実験がてら、コンビニにでも行くか?」

 パンデミックが起きてから2週間が経つが、俺はまだ1度もコンビニに寄ってなかった事を思い出した。近くのコンビニの状態を把握しておくのも悪い手ではないだろう。何かあったときに使うかもしれないしな。

「よし!行くか」

 少し考えてから、鉈だけを装備して俺は出かけた。


 コンビニまでの道でいったんバイクを停車し、エンジンを止める。周囲にはいい感じにゾンビが歩いていた。実験のチャンスだ。ゾンビに近づき、20%ぐらいの力でぶん殴る。ゾンビの顔は弾け飛び、体がぶっ飛んだ。

「よし。今のが20%ってところだな。まだまだいけそうだ」

 頭の中で50%ぐらいの力を意識して、全身に力を入れる。うおお!なんか今なら何でもできそうな気がするぜ!猛スピードでゾンビに接近し、シンプルな蹴りを叩き込んだ。ゾンビの体は近くの建物までぶっ飛んだ。我ながらとんでもない威力だな。

「んん。まだいけるか?」

 70%ぐらいの力をイメージし、力を入れる。ゾワゾワとした違和感を感じた後、突然、右腕が弾けた。

「痛っええええ!?」

 強烈な痛みを感じた右腕を見てみると、そこにはピンク色の巨大な腕が付いていた。そこで俺は理解する。右腕は弾けたのではなく、変形したのだ。この巨大な化け物の腕に。

「いよいよ怪物みたいになってきたな!ふんっ!!」

 怪物の右腕をゾンビに叩きつける。ゾンビは呆気なく、グチャッ!と潰れた。感覚としては、人間が蚊を叩くのと同じような感じだな。

「まだいけるような気もするが、どうする?」

 今はまだ70%の力というところだ。まだ100%この力を出し切っていない。...そうだな。今後の事も考えると、一度は本気を確認しておかないとダメだな。

 俺は少しだけワクワクしながら、力を100%まで解放した。瞬間、全身に激痛が走る。体中の骨をバラバラにして、繋ぎ合わせたかのような信じられない痛みだ。当然立っていられず、俺は地面に倒れ込む。

「むぐうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう」

 激痛に悶え苦しみ、地面を転げまわる。幸いだったのは、この激痛が30秒程で収まった事だ。チカチカと点滅する視界を持ち上げながら、俺は立ち上がる。違和感を感じた。視界がやたらと高くなっている気がする。だがそれは気のせいではなかった。

 ___俺の体は、完全に化け物になっていた。
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