俺TUEEEに憧れた凡人は、強者に愛される

豆もち。

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魔塔の狂人編

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 フィンが団長を務める第1騎士団の官舎は、王城の直ぐ側に建てられていた。


「おー。なんつーか、煌びやか?」

 
 キョロキョロと視線を飛ばしながら、ルーカスはフィンの背中を追った。
 騎士団の官舎と言うよりは、小宮殿や城と間違えるレベルで豪華である。


「ルゥ、早く来なさい」
「あ、はいっ」


 外見は、イギリスのウィンザー城の様な要塞を思わせる、重々しい佇まいだが、内装は割りに簡素と言えた。
 

「どうだ。覚えられそうか」
「無理です」
「……そうか、まあ初日だから仕方ない。少しずつ覚えていくと良い」
「はい (無理ゲーだ。だってコレ、ただ小さいだけで、城だぜ。俺自信ないわ)」
「さて、続きは後にしよう。先に団員を紹介する」


 回廊を進んだ先に、大きな扉があった。
 扉を開けると、そこには3階まで続く吹き抜けの講堂が。
 1階のホールには、およそ30名程が綺麗に整列しており、2階、3階の柵の隙間からは、チラチラ此方に視線を向ける者達が数名居る。

 第3騎士団からは想像も出来ない、厳かな雰囲気を漂わせる空間に、ルーカスはゴクリと喉を鳴らした。


「(やっぱ、無理ぃ~~っ)」





 ルーカスが何故、第1騎士団に居るか。それは、昨晩の事である。
 ガイザーの判断で、一昨日、昨日とルーカスは屋敷から出る事を禁じられていた。
 ディオンとルーカスは、ほとぼりが冷めるまでと勝手に考えていたが、ガイザーは違った。
曰く、ルーカスと事件の関係を勘づかれない為には、頻繁に出入りすべきではない、という考えらしい。
 これにディオンは、納得がいかない様子だった。
しかし、フィンとメアリーにまで賛成されては、諦めるしかない。
 しばらくは、この生活が続くだろうと、屋敷の殆どの者達が思っていた。

ーーが、昨日の夕食後、ルーカスがボソッと呟いた一言で、緊急の家族会議が行われたのだ。




「ん~コレを機に、仕事探そっかな」
「あ゛?」


 ディオンに甘やかされ慣れてしまったルーカスは、湯浴みを終えると、真っ直ぐディオンの部屋へ向かう事が増えた。
 昨夜も、髪からポトポト落ちる水をそのままに、部屋へ直行した。
 ドアを開けると、ディオンはスタンバイ済みで、直ぐ様ルーカスの濡れた髪をタオルでワシャワシャと拭く。
あらかた水分をとると、今度は温風が流れる魔道具で丁寧に乾かし始める。
 ディオンの優しい手つきと、温かい風にうとうとしつつ、ルーカスがボソッと漏らした。


「な、なんだよ、その反応。別にいいじゃん」
「危険だ」
「危険って……もう、あのお嬢様は悪さ出来ないんだろ? それに、元々は直ぐ働くつもりだったんだしさ」


 これまで、働きたがるルーカスをいなし、自分の目の届く範囲で生活をさせてきたディオンにとって、頭の痛い問題である。
 第3騎士団の厨房の手伝いや、自作の菓子類の販売でそれなりに稼いでいた為、前に比べて最近は言わなくなっていた。
だが、官舎に行けなくなった今、当然の発想と言えよう。


「……第3騎士団ウチで納得していたじゃないか」
「そりゃ、お金ももらえて、知り合いも居るんだから、ちょーラッキーだったよ?」
「なら、今度は屋敷で同じ事をすれば良いだろう」
「いやいや、ないわ。人足りてんじゃん、ココ。何より、料理長の作るレベルは、俺には出来ん」
「じゃあ、オレの世話をしろ」


 ルーカスはこの時、目の前のバカをどう矯正すれば、常識人にさせられるか、本気で悩んだ。


「明日から仕事探す。以上」
「ルーカス!」


 身体をスルッと動かして、ディオンの腕から逃れ、ルーカスはそそくさと自分の部屋へ戻って行った。


「ちっ」



ーーーー
ーーー


「なんだ、夜遅くに」
「父上、ルーカスがまた仕事を探すと言い出してます。騎士団の出入りを許可して下さい」


 ディオンは、ノックもせずにガイザーの仕事部屋へ入るなり、出入りについての撤回を求めた。


「なるほど。まあ、そうだろうな。彼は囲われたい訳ではないからな。心配ではあるが、安全そうであれば、良いんじゃないか?」
「安全かなんて、分からないでしょう。もし、家まで出ると言い出したらどうするんです!」


 息子のあまりの剣幕に、少し動揺しつつ、ガイザーは「それは困る」と、悩みだす。


「ドビー、居るか」
「はい、此方に」
「フィンを呼んで来てくれ」
「かしこまりました」


 10分程して、呼び出されたフィンが解決策を提示しにやって来た。


「では、私が預かります。構いませんね、父上」
「ああ。それなら安心だ。だが、平民嫌いの貴族には十分気を配るのだぞ」


 フィンの提案に満足そうに頷くガイザーに対し、ディオンは不満気である。


「兄貴が良くて、オレが駄目だなんて……」
「第3に居続ける事が問題なんだ。お前だって分かるだろう。それに、お前にルゥを任せるのは不安だ。下がれ」


 兄の鋭い眼光に睨まれ、ディオンは思わず言い淀む。
それは、己の無力さを認めたも同然だった。


「決まりだ。ルゥには、私付きの雑用係でもやってもらうとしよう」








◇◆◇◆◇◆◇◆


 視線が突き刺さるぅ~っ。
 見た目からして、全員エリート集団じゃん。
ぜってぇ、冗談とか言わなそう。言うとしたら、高度すぎて俺には理解出来ないヤツだ。


「申し送りの前に、新人を紹介する。ルーカスだ。彼には、私の雑用をこなしてもらう」


ーーザワザワ


 はい。嫌なザワザワ頂きました。お家帰りたーい。
ダリオが無性に恋しーい。


「書類などを届ける際に会うだろうから、顔をよく覚えておくように。
それから、見ての通り彼は非常に、ひ弱だ。扱いには気をつけろ」
「「「ハッ」」」
「さてルゥ、目の前の連中が団員だ。そして、2、3階で此方を見ている彼等が隊長格で、指揮権持つ者達だ」


 隊長格って何。団の中に、隊長居んの。恐いんだけど。目が全然笑ってません。特に2階から俺を見てる、あの金髪の人!


「るっルーカスです! 邪魔にならない様、気をつけます! 宜しくお願い致します」


ーーシーン


 ひええっ、ザ・無反応。地獄だ。アウェーなんてもんじゃない。


「では、申し送りを始めてくれ。ルゥは、こっちにおいで」
「はぃ」
「「「(ルゥ?ルゥって、あのルゥ?  団長が毎回土産を買い込んでた相手って、コイツーー?!)」」」



 20分後。その日の申し送り事項の半分以上を聞き流し、フィンから地獄の扱きが待ちうけている事を、まだ彼等は知らない。




 

 

 

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