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婚約者騒動編
3
しおりを挟む「は?」
結果オーライって、どこが。
「お前が思ってるより、精霊の効果はスゴイってこった」
「意味分かんねー」
「時間の問題だよ」
「はあ」
ーーーー
ーーー
領主様との話し合いを終え、俺達は領主邸から解放された。
その後、トラートで1番と名高いレストランで、舌鼓を打ち、約1日ぶりの王都に帰って来れた。
「王都だ。官舎だあぁっ」
「クリス卿が心配してるぜ。早く行くぞ」
「おう。ディオン、俺クリスさん探して来るー」
「ああ。ダリオとはぐれるなよ」
「大丈夫!」
第3騎士団の官舎に着いた俺は、ダリオとクリスさんを探しに歩く。
ディオンは、真っ直ぐ団長室に向かうらしい。
「いてて」
「ルーカス、大丈夫か?」
「尻が痛い」
「あ~、馬なんて普通乗らねえもんな。しかも飛ばしたし」
そう。とにかく尻が痛いのだ。痔になりそう。
荷馬車と馬車の経験はあれど、乗馬経験はほぼ無いに等しい。いくら、ディオンが気を遣って走らせてくれたとしても、速すぎる。
腰と太腿も地味に響いて痛い。
「歩くのが辛い」
「……老けたな。クリス卿の過保護モードが発動しそうだ」
「いや。その前に、甘味不足でクリスさんが萎れてそう」
「あり得る」
人に聞き回って辿り着いたのは、まさかの食堂だった。
わー。エリー様に叱られそう。
こっそり入ろう。見つからないように。
そろ~り、そろ~り忍び足で入る。
あ、居た。テーブルに突っ伏してる、クリスさん発見。
「お疲れの様だな。ルーカス、何か甘いやつ持ってないのか」
「ねーよ。俺、さっきまで囚われの身だったんだぞ。でも、厨房の冷蔵庫に作り置きのチーズケーキがある」
「取って来い」
「嫌だよっ。今行ったら、エリー様に見つかって、俺帰れなくなっちゃう。今日は流石に早く寝たい」
こそこそダリオと言い合っていたら、玉葱のお兄さんと目が合った。
「あ、見つかった」
「え」
いーやー! そんな笑顔で俺を見ないでえーっ!
今日は無理。本当に疲れてるから。
「ルーカスくーん! 今日は、もう来ないのかと思ったよ。いやあ、良かった。ジャガイモ剥くの手伝ってよー」
「なんだって、ルーカス来てたのかい。ほら、何ボサッとしてんだ。手を洗って、サッサと手伝いな」
ぎゃあーっ。エリー様にバレた!
おのれ、玉葱野郎。いつか仕返しする。
「あれ、ルーカス君、ダリオ。戻って来たのか。無事で良かったよ、本当に」
厨房からの大音量に驚いたのか、バッと身体を起こして、クリスさんが俺達を見た。
顔色は、俺達以上に悪く、1番疲弊している様に見える。
「ご心配おかけしましたっ!クリスさん」
「ダリオ、只今戻りました」
「本当に良かった。私はね、シトール侯爵からの脅し…苦情の対応で、ハハ」
クリスさんっ。
今、チーズケーキ持って来ますから!
「エリー様、冷蔵庫開けます!
ーーーーあった。クリスさん、コレを!」
「…………ぁ、甘い香りが」
「クリスさん、ケーキですよ! 食べて下さい」
「もぐもぐもぐ」
ああっ。いつもピシッとしてるクリスさんが、されるがままに。
「もぐもぐ」って、自分で言ってるのか? どうしよう。クリスさんが壊れた。
「おい、ルーカス」
「お、俺、ジャガイモ剥かなきゃ」
「まて、ルーカス! 俺を置いて行くなっ」
ダリオ。あとは頼んだぞ。
疲れた身体に鞭を打って、一心不乱に野菜の下処理と寸胴をかき回し続けた。
最後は、呆れた様子のディオンに引き摺られる形で屋敷に戻りました。はい。
「ルーカス、怪我はないか」
「はい。ご心配をおかけしました」
「ルゥちゃん、よく頑張ったわね」
「いえ、ディオン達が直ぐに助けてくれたので」
「そもそも、ディオンが間抜け過ぎたんだ。ルゥをこんな目に合わせて。お前には任せておけない」
「フィン兄っ、俺が油断してたんです」
帰ると、玄関でパパさん達が出迎えてくれた。
心配をかけて申し訳ない気持ちが募るが、何より本気で安堵してくれている姿に、ちょっぴり泣きそうになった。
ただ、フィン兄だけ、かなりディオンに怒っているご様子。
悪い、ディオン。
「さあ、ルゥちゃん。まずはお風呂に入ってらっしゃい。夕食は食べられそうかしら」
「はい」
「良かったわ。料理長が、励まそうと思ったみたいでね。作りすぎちゃったらしいの。ドビーが困ってたわ」
料理長までっ。ジーンと来たぜ。
今なら無限に食べれます。お任せ下さい、メアリーママ、ドビーさん。
バスタブでゆったりしていたら、珍しくユキが入って来た。
「《ルゥ様、ワタシも一緒に宜しいですか?》」
「おう、いいぞ! つーちゃんもおいで」
「《お風呂ぉ~》」
つーちゃんは、そうでもないが、ユキはあまり風呂が好きではない。
いつもは、メイドさん2人がかりで風呂に入れられてるんだよな。
「何気にユキと入るの初めてかも」
「《はい》」
「《ボクは、いつも一緒ぉ》」
「《黙れ、ノーム》」
「《むうっ。ボク、つーちゃんって名前があるのにぃ》」
「こらこら、仲良くしなさい」
おお~っ!
ヤバイ、めっちゃ豪華!
「どう、ルゥちゃん食べられそう?」
「はいっ」
「たくさん食べるんだぞ、ルゥ」
「たくさん食べます!」
食事の栄養バランスにうるさい、フィン兄だけでなく、今晩はパパさんとメアリーママも加わって、どんどん皿に盛っていく。
食べても食べても、皿が空かねえ。
美味いけど、ブタになりそうだ。
「そうだ、ルーカス。シトール侯爵は分からないが、シトール嬢はもう大丈夫だ」
行儀は良くないが、モリモリ口に放り込んでいると、パパさんがそう言った。
「大丈夫と言うと?」
「精霊の騒ぎのおかげだよ。明日には、恐らく王都中に広まるだろう」
「?」
「城で騒ぎになっていた。『50年ぶりの精霊の大行進』が起こったってね」
精霊の大行進? 今日みたいな事が、50年前にも起きたのか。知らなかった。
「今日の様な事件では、侯爵令嬢を罰する事は難しい。あくまで、ルーカスは平民だからな」
何だよ、それ。俺が平民だから、あんなに自信満々だったってわけ。バレても罪に問われないから。
悪評がつくだけってか、クソッ。
「じゃあ、どうなるんですか」
「安心しなさい。大丈夫と言っただろう。彼女は、精霊を怒らせた。下手をしたら、50年前の厄災が起きるところだったんだ。実刑は免れん」
「厄災って何ですか。精霊達は、少し脅かしただけですよ」
巻き込まれた人達を見れば分かるはずだけど。
まさか、あんなのが厄災と呼ばれるのか。
「それは、ルーカスが無事だったからだ。つーちゃんと言ったかな。君は、もし彼が死にでもしたら、どうするつもりだった」
「《ん~、分かんない。でも、つまんないから、精霊の国に還るかなぁ》」
「フッ。そういう事だ、ルーカス」
いや、パパさん。全然分からん。
「50年前、ある国で精霊を生贄にした術を行使した者がいた」
「いけにえ……」
「ああ。その者は凶暴化した大群の精霊によって、葬られた。だが、それは厄災ではない。本当の厄災は、今も尚、続いているんだ」
「今も?!」
「そうだ。その後、国から精霊が消えた。そして50年経った今も、精霊は現れない。それだけではない。その国の出身者は、精霊と契約する事も出来ないそうだ」
残虐な個人のせいで、50年経った今も、精霊と交流出来ないなんて。その国の人が可哀想だ。
でも、精霊を生贄にするとは、悪魔の所業だな。
「そうなのか、つーちゃん」
「《ボクは生まれる前だから、詳しくは知らなーい。でも、緑の王のお気に入りが死んじゃったんだ。だから、ボク達は怒ったんだよぉ》」
「緑の王。ランパスとは、また違う王様なのか」
「《そうだよっ》」
ランパスは闇の精霊王だって、言ってたよな。
じゃあ、緑は風の精霊王か?
「本当に精霊と仲良しだな、ルーカスは。だが、少し不思議ではある。今までも、精霊と契約した者が殺される事は度々あった。なのに、ルーカスだけ何故……。もしや、そのノームが特別なのか?」
そんな事言われましても。俺にはさっぱり。
「まあ、考えても仕方ない。精霊とは、気まぐれな生き物だからな。
そういう訳で、デメテルにその危機を持ち込んだ令嬢は、重罪という事だ。侯爵も下手に動けないだろう」
なんか、よく分かんないけど……、つーちゃん様様って事?
「つーちゃん、ありがとう」
「《いいよぉ。だってルーカスは家族だからぁ》」
「つーちゃんっ!」
「《えへ》」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「黒の。騒ぎを起こした様だな」
「緑か。我ではない。下位精霊の仕業よ。我は手を貸してやったまでだ」
「人間如きの為にか」
「緑は相変わらずだな。だが、まあ懐かしい気配を感じてな」
「何?」
「我は、てっきり同胞かと思ったんだが」
「我々の血が流れているのか?」
「さてな。気のせいと言われれば、それまで。
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「……真か」
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「何を言う。我が子の末裔かも知れぬのだぞっ。あの様な、野蛮な場所に置いてはおけん。我等の国で手厚く保護するのだ!」
「ふむ。もしや我は、要らぬ事を言ってしまったのやも知れん。まあ、良いか。これで貸し借りなしだな、人間よ」
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