俺TUEEEに憧れた凡人は、強者に愛される

豆もち。

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婚約者騒動編

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◇◆◇◆◇◆◇◆



 ディオンの召喚獣、ディーによって王都全体に固有スキル『伝達』と索敵魔法の応用『サーチ』が張り巡らされた。


「ディー、どうだ」
「《……まだだ。網には反応がない》」
「くっ。もう20分だ。そろそろオレも限界だぞ」
「《分かっている!》」


 マナ量が多いとは言え、騎士のディオンに魔塔の人間が使う魔法は負荷がかかり過ぎた。
 すでに、魔法を行使したせいで、彼の身体は限界を迎えようとしている。
 額からは脂汗が流れ落ち、ソファーでぐったりしていた。
 補佐のクリスは、上司ディオンのその姿を、黙って見る事しか出来ない。


「副団長、もう……」
「静かにしてくれ。気が散る」
「ですが! マナの消費が大き過ぎます。このままでは、マナ欠乏症の恐れが」
「問題ない。休めば治る。だが、ルーカスは一刻を争うんだ。分かったら、別の捜索隊の進捗を見て来い」
「……ハッ」


 指示に従い、クリスは部屋を出た。
 1人残ったディオンの息は浅くなり、やがて意識が朦朧とし始める。


「《おい、ディオンよ! どうしたっ。リンクが途切れかかっているぞ》」
「その、まま……さが、せ」
「《おいっ、ディオン! ーーちっ、マナ切れか》」


 ディーの呼びかけに応答はなく、彼の意識はそこで落ちた。






「ーー見つけた」


 沈んだ意識の中で、ディオンは妙に鮮明な夢を見る。



「るーかす……ルーカスを早く見つけてやらないと」

「見つけて、どうする」
「っ、誰だ!」
「我は黒の王なり。ルーカスは無事だ。道標を用意した。目覚めたら、来るが良い」
「待て! お前はいったいーー」






ーーーー
ーーー



 毛むくじゃらの温かい何かに顔を叩かれ、ディオンは目を覚ます。


「ゔ……」
「ワフッ」
「ーーユキ。エリー婆と一緒に居ろと言ったはずだが」


 身体を起こし、ハッキリとユキを確認した彼は、ユキの頭に乗った精霊に気づいた。


「精霊か。最近、ルーカスに懐いてるノームだな。何故、官舎ここに居る」
「《黒の王が呼んでる! 早くルーカスの所に連れてってぇ。他の子は、もう向かってるよぉ》」


 ノームの言葉に、ディオンは目をかっぴらく。
そして、夢の中で男が言っていた言葉を思い出した。


「黒の、王。
ーー場所は何処だ。案内してくれ」
「《船のうえーっ! トラートだって》」
「王都じゃない? だから見つからなかったのかっ。
ディー、聞こえるか。トラートの港を探せ」
「《起きたか、愚か者めっ。直ぐ伝達する》」


 ディーとのリンクを復活させたディオンは、急ぎ団員達を集めた。


「散開」
「「「ハッ」」」


 救出部隊、調査部隊、待機部隊の3つに分け、彼はユキとノームを連れてトラートへ馬を走らせた。

 騎士団の馬には、身体強化魔法がかけられており、通常の3倍の速度で駆ける事が出来る。
その為、わずか40分でトラートの街に着いた。


「王立第3騎士団のモンフォールだ」
「領主様より、話は伺ってます。どうぞお通り下さい」
「ああ、ご苦労」


 事前にトラート領主に通達したおかげで、ディオン達はスムーズに街に入る事が出来た。
 しかし、シトール侯爵家とトラート領主の繋がりが分からない為、詳細ついては全て伏せらている。


「副団長、船を捜索する許可は取れたんですか」
「いや、領主には話していない。ルーカスを救出し
次第、説明するつもりだ」
「それは問題になりませんか」
「緊急だったと言えば、領主も強く抗議はしないだろう」


 観光と貿易で栄えるトラートにおいて、様々な取引相手が集う港を荒らす行為は、最も忌避されている。
 部下の心配は尤もだった。
だがディオンは、有力者との関係よりもルーカスを優先させた。


「始末書は避けられません。それでは副団長のお立場がっ」
「それぐらい安いもんだろ」
「……はあ。後でルーカス殿にコッテリ絞られて下さい」 
「望むところだ」
「……」


 ルーカスが来てからというもの。どんどん変わっていく上司に嘆きながらも、団員達は「悪くない」と、感じていた。
 その不思議な空気感は、叫び声に溢れた船を前にして、ピシリと崩れ去る。


「副団長、コレはいったい何ですか」
「さあ」
「さあって。かなり大事になってませんか?
むしろ、街の警備隊は気付いてないんですかね」
「……とりあえず、行くぞ」
「ええっ」


 船内で逃げ惑う乗客や船員を追い回し、地味に攻撃を仕掛ける精霊の大群。
 騎士達が混乱するのも無理はない。


「《奥にルーカス居るよっ》」
「本当か! ルーカスを見つけた。オレとダリオで中に入る。お前達は待機しろ」
「ハッ。しかし、助けなくて良いのですか」
「誰が敵か分からない。ルーカスを救出するまでは、待て」
「「「ハッ」」」


 馬から降りたディオン達は、岸壁に渡されたタラップを駆け上がる。
 そして、何故か見事に固まっているルーカスを発見した。


「ルーカスっっ!!」
「ワフッ」
「《ルーカスぅ~、王様ぁ~っ》」


 ディオンの必死な叫びに対して、ルーカスから返ってきた反応は、実に暢気なものだった。



「あれ、ディオンっ? ユキにつーちゃんまで!」


「無事だったか、良かったっ」
「わっ」


 ぺちゃんこにしそうな勢いで、ディオンはルーカスを抱きしめる。
 その彼等の周りを、ユキは尻尾を振って、ぐるぐる回った。




「ルーカス、俺も居るんだけど……」



ーーひゅうぅぅ、ぽすっ


「《ふむ、小僧。ディオンの部下だな。ワタシは疲れた。休ませろ》」
「あ、副団長の召喚獣の。ちょっと、俺の頭の上で休まないで下さいよ」
「《うるさいぞ、小僧。黙っておれ》」
「え~」


 ポツンと、忘れられたダリオが呟いていると、空からディーが合流した。
 上司の召喚獣に休憩所扱いされ、更に寂しそうにダリオは漏らすのだった。









 
 


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