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婚約者騒動編
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しおりを挟む「「「《やあ、ルーカス!》」」」
何じゃこりゃ。これが精霊なの……か。
威厳がないというか、可愛すぎる。
もっと人型とかを想像してたけど、違ったな。
漫画やアニメで言うところの、妖精かお助けキャラに近い。
日曜の午前中に流れてた、女児向けアニメに出てそう。まだ、枠続いてんのかねー。
にしても、ニヤける。15年も憧れた存在が、こんなにたくさん!
どうして転生直後に姿を現してくれなかったんだ。君達。
「え~と、おはよう」
「「「《おはよう! 次は誰と契約するっ?》」」」
「してくれるのか?」
「「「《いいよっ》」」」
か、感動っ。可愛い。持って帰りたい。
「《ダメだよ、ルーカス。ボクと契約したばっかりでしょぉ。マナを馴染ませなきゃ~》」
「そうなのか、ノーム」
「《ボクはノームだけど、ノームじゃないよおっ。名前ちょーだい》」
ユキみたいに、名付けて大事だろうか。
メアリーママを見れば、ニコニコ笑うだけで、何も言ってくれない。
さっきまで、あんなに丁寧に教えてくれたのに。
「ノーちゃん」
ノームだから。
「《……冗談だよね》」
「やっぱ、ダメか。名前を考えるのが、苦手なんだ。ちょっと待ってくれ」
大地の精霊だから、ダイちゃん?
ぷっくりほっぺで、ぷくぷく? いや、ほっぺは皆んなぷにぷにだ。
我ながら酷過ぎる。
「つ、つーちゃん……」
「《まさか、ボクが土属性だからぁ?》」
「仰る通りです」
「《いいよぉ》」
え、いいの。土のつーちゃんだよ?
「つーちゃん!」
「《だって、何時間考えても~、変わらなそうなんだもぉん》」
わー、鋭い。そして胸が痛い。
周りの精霊達も、引いてるじゃん。
そんな顔で見ないでくれ。傷つくから。
「面目ない」
「「「《ルーカス、ダサ~い》」」」
「グハッーー…」
「うふふっ。この子達ったらね、ルゥちゃんが家に来てから、毎日騒がしかったの。だけど声が聞こえてないみたいだったから。
視えてないとは思わなかったけど」
うわ、時間を無駄にした気分だ。せっかくのチャンスを棒に振ってただなんて。
悲しくなって、つーちゃんに同意を求めてみる。
「なー? つーちゃん」
「《??》」
「あとでユキを紹介するな。今、風呂に入れてもらってるから」
「《ボク知ってるよぉ。あのホワイトウルフ、いつもボクらを威嚇するんだ》」
あのユキが? 誤解じゃないか。賢くて良い子だし。
「ユキは優しくて、良い子だぞ。話せば誤解も解けるさ」
「《違うよー。ボクらがルーカスに近付くと怒るんだ。たぶんルーカスをとられると思ってるんだよぉ》」
なんて可愛いヤツなんだ。ウチの子は!
いっぱい、もふもふして、ブラッシングしてやるからな。待ってろよ、ユキ。
「そ、そうなんだ」
「《ルーカス嬉しそう。ボクともちゃんと遊んでよっ》」
「もちろんだ」
「《えへへ》」
可愛いなー、もう。ユキとつーちゃんが一緒に昼寝とかしたら、最高の絵になる。絶対。
「さて、じゃあ始めようかしら」
「はい!」
「私は水やりをするわ。ルゥちゃんは、ノームに頼んで、土壌を見てもらってちょうだい」
「分かりました」
水属性と思われる精霊達に頼んで、メアリーママは温室全体に雨を降らせた。
すごいな、おい。
つーちゃんと他のノーム達は、プランターの土を触って栄養状態をチェックしている。
「なんか、何もする事ありませんね」
「だから言ったでしょ? 服はそのままで大丈夫って。ただ、マナは消費するから気を付けないといけないわ」
「マナをですか?」
「そうよ。この水だって、あの子達が私のマナを使って作ってるんだもの」
どういう事だ。マナを消費された感じは全くしないが。契約の時に、少し減ったぐらいな気がする。
つーちゃん達は、特に困った様子もなく、サクサク作業を進めているし。
土を触ってるだけだから、マナは必要ないのかも知れない。耕してるわけでもねーしな。
「つーちゃん、疲れてないか」
「《ぜーんぜん》」
「そっか。ありがとう」
「《うん》」
花びらや葉から落ちた雫が、陽射しに反射してキラキラ光る。
非現実的な空間が、いつの間にか出来上がっていた。
精霊も飛んでるしな。
「どう、ルゥちゃん。素敵でしょ?」
「はい。綺麗です」
「ありがとう。結構有名なのよ、私の温室。ここでお茶会を開きたいって言う、ご婦人も多いの」
「それは分かる気がします」
芸術に疎い俺でさえ、綺麗すぎてビックリするんだ。
貴族の人なら、男女問わず好まれそうだ。
精霊がこんなに集まってるってのも、人気の理由かも知れない。
「せっかくだから、お昼も後で食べましょ。それまでは、お花の名前を教えてあげるわ」
「ありがとうございます」
◇◆◇◆◇◆◇◆
第3騎士団の官舎は、異様な空気が流れていた。
原因は明白である。珍しく1人で出勤したディオンと、そのディオンにまつわる噂のせいだ。
「クリス卿、アレ何なんですか」
「ダリオか。見たら分かるだろう。ウチの副団長で、我々の上司だ」
「いや、それは知ってます。あの殺気ですよ! さっき、人殺して来ました、みたいな顔してません?! 正直、怖すぎて仕事になりませんっ」
ダリオの叫びに、貴族も平民も関係なく、団員達は頷いた。
クリスはクリスで、今日何度目かも分からない苦情に、頭を悩ませる。
「私が知るわけないだろ。今日は精神安定剤も居ないし……まあ辛抱するしかない」
「そんなあっ」
「無駄な事してないで、仕事しろ。前回の出動の後処理がまだ終わってないはずだ」
「う゛(何で来ねーんだよ、ルーカスの野郎)」
そして、彼に怯えているのは、彼等だけではなかった。
「聞いてますか、団長。未処理の申請書が溜まってます。これ、2日前に終わらせるって言ってましたよね」
「ひぃっ! ご、ごめん。ち、ちゃんとやるから」
「それ2日前も言ってました。何故終わってないんでしょう。3時間で終わらせて下さい」
「ええっ、さ、3時間なんて……」
「問題が?」
「やっやりますぅっ! ご、ごめんなさい。あ、あああと、婚約おめでとう。い、言ってくれたら良かったのに」
その瞬間、メルベンは死を覚悟した。
自分が地雷を音速で踏み抜いたと理解したからだ。
「も、モンフォーーーー」
「団長。来月の会合はご自身で出て下さい」
「あっあっ、まって、モンフォール卿。ごめんなさいっ、僕が悪かったからっ! 待ってよおっっ」
「ん? 今叫び声が聞こえなかったか?」
「どうせ団長だろ」
「ああ、団長か。つか、俺もう3週間くらい、団長に会ってねぇんだけど。やっぱ、伯爵様に俺達は釣り合わないって事かな」
「いやあの人は、身分差別じゃなくて、人間が嫌いなんだ。貴族も平民も関係ないぞ」
「あー、なる」
メルベンは、団長室で縮こまって泣き始めた。
ディオンは既に退出しているというのに、よほど恐ろしかったらしい。
「ううっ、だって、モンフォール家の次男が侯爵令嬢とこっ、婚約したって、ぐすっ、噂になってたからぁっ。ぼ、僕は、ただ。お祝いしてあげたかっただけなのにぃ。ううっ。嫌われちゃった。もう生きていけない。団長辞めたい」
そう。ディオンと侯爵令嬢の婚約話は、ゴシップ紙にまで載った。
その為、貴族はおろか平民にまで、噂はまことしやかに囁かれていた。
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