俺TUEEEに憧れた凡人は、強者に愛される

豆もち。

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森の民編

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◇◆◇◆◇◆◇◆



 団長の判断で一先ずユーリは、族長の家に運ばれた。


「ふぅん、しかし弱った。アレッシオ殿が言うなら、彼が王子である事は、間違いないだろう」
「族長、どうしますか。それが本当なら、速やかにお帰り頂くべきです」
「分かっとる。だが、意識がないまま森の外には、放れない。かと言って今目覚められても困る。
何と面倒な」
「いっそ森の東に放置しますか。度胸試しに来た冒険者が、たまに入って来ますし」


 族長、団長、アレッシオの3人は、気絶したままのユーリを見た。
 ただの冒険者や近隣の村人であれば、最悪見捨てる事も出来た。だが、王族となれば話は別だ。
 必ず調査隊が派遣されるだろう。いや、既に直ぐそこまで来ている可能性まである。
となれば、残された道はただ1つ。ユーリを抱き込むしかない。
 幸い、ユーリが王家の繁栄や誇りに興味がない事。アレッシオの友人である事が、救いと言えよう。


「すまないが、アレッシオ殿。我々のこれからは貴方にかかっていると言っても過言ではない。
そろそろ目を覚ます頃だろう。儂の忘却魔法の使用許可を何としてもっ!」
「善処します」
「善処じゃダメだ。必ず説得しろ、アレッシオ。トニーの為だぞ」


 族長と団長の期待と圧が、アレッシオを襲う。
正直、断られる確率の方が高いと彼は予想した。
 族長の忘却魔法の精度が分からないアレッシオには、嘘でも絶対大丈夫だ、とは言えないのだ。
 少しでも手元が狂い、他の記憶まで消してしまう可能性は排除出来ない。
 1つの記憶が消えれば、必ず疑念が生まれる。
 ユーリ・デメテルがそれを見逃したりはしない。自力で答えに辿り着くだろう。そういう男だ。


ーーゴソ


「「「!?」」」
「ーーあれ、此処は…確か賊に襲われて……ん? アレッシオじゃないか。という事は、まだ夢の中か」
「「「……」」」


 あまりにも気の抜けた推測をかますユーリに、3人は「イケるんじゃないか?」と、内心思ってしまった。


「あー、久しぶりだな。ユーリ。元気にしてたか」
「わあ~話し方までアレッシオだ。会いたかったんだよ、アレッシオ! 君のせいで俺がどれだけーー…え、誰この人達」


 ようやく目が覚めたらしい。
 アレッシオは、なるべく森の民について伏せて説明した。







「なるほど。俺の記憶を操作したい訳だね」
「まあ、平たく言えば」
「あっはっは、やだなぁアレッシオ。君は俺を馬鹿にしてるのかい? 何やら隠したい事がたくさんある様だね。納得出来る要素がまるでない。そこの彼等に口止めされているんだろう?」


 説得を試みた結果、撃沈した。
 団長の目がかなり際どい角度になっているが、親友の目も厳しい。


「穴だらけだとは、理解している。
だが頼む」
「無理だね。アレッシオは信用出来ても、その2人は別だ。初対面の術者に身を委ねる気はない」
「どうしても無理か」
「当たり前だろ。それより此処は何処なんだい。まさか“終の森”の中じゃないよね」


 暫しの沈黙が流れ、族長がゲロった。
 精霊の血や能力については暈したものの、この状態では悪手でしかない。


「(今までよく見つからなかったな。この村)」


 アレッシオの感想は尤もと言えよう。


「終の森で暮らすだなんて、正気の沙汰じゃないね。でもまあ、道理で誰も存在を知らなかった訳だ」
「ですから、どうか儂の魔法を……」
「それは無理なんだって、族長さん。
希望に添えず申し訳ないが、助けられた事実は変わらない。この森での事は誰にも口外しないと約束する」
「どうしても、受け入れて下さらないのでしょうか」
「ああ、すまないね。本当に感謝しているんだが…」




ーーーー
ーーー   


 話し合いの末、族長達が折れざるを得なかった。
加えて、ユーリのお願いまで聞かされる羽目になる。


「そんな目で見ないでよ、アレッシオ」
「見たくもなる。図々しいんじゃないか?」
「彼等には悪いと思ってる。けど自分の安全が第一だからね」


 アレッシオが図々しいと言ったのは、そこにあった。
 直ぐにでも森から出て欲しい森の民に対し、ユーリは滞在を希望した。
 近くの村に助けを求めるよりも、転移魔法で城まで飛んだ方が安全だからだ。


「1週間もあればマナも回復する。それ以上は居座らないから怒らないでよ」
「3日で回復しろ」
「無茶だ。終の森だぞ? どんだけ距離があると思ってるんだ」


 アレッシオの機嫌が悪い理由は、それだけではない。
 団長に「お前が面倒みろ」と、押し付けられてしまったのだ。
 他人ひとには言えないが、秘かに新婚気分を味わっているアレッシオにとって、ユーリの登場は邪魔以外の何者でもない。
 毎日の様に愛でているトニーに、1週間も触れられないのだ。


「無能め」
「ええっ。酷くないか、親友だよね。俺達」
「今日から他人だ」
「えええ」



 1週間は瞬く間に過ぎた。
 不貞腐れるアレッシオとは対照的に、トニーの機嫌は良い。
 ユーリから、アカデミー時代のアレッシオの話を仕入れ、ホクホクなのだ。

 ユーリもまた、尊い時間を過ごしていた。
 最も信頼する友人と、心優しい友人の恋人。
 ユーリにとって、一瞬も悪意に晒されない日々が、どれだけ大切な記憶になったか、想像に容易い。





「ユーリ君、もう行っちゃうの?」
「早く行け。バカ王子」
「黙れバカッシオ。
ごめんね、トニー。お礼も出来ずに」
「ううん。……元気でね」
「ありがとう。そこのバカを宜しくね。本当は結婚式を開いてあげたいんだけど……きっと会う事はないから」
「けっ、結婚式?! 何言ってんの、ユーリ君!
僕達はそんなんじゃっ」
 

 真っ赤になって慌てるトニーは、誰の目から見ても可愛らしかった。顔は平凡なのに、不思議である。
 アレッシオはトニーの頭を撫でながら、ユーリを見る。彼には、これが最後だと分かっていたからだ。


「死ぬなよ」
「もちろん。アレッシオも幸せに」
「ああ」


 王族である自分が、アレッシオを訪ねれば、森の民の存在が漏れてしまう。
 二度と会う事はないだろう。
 それでも、ユーリの心は晴れやかだった。
たった1人の親友が、心から安らげる場所を見つけたのだから。


「じゃあね。族長さん達にも、迷惑かけたって謝っといて」
「ああ」



ーーシュルン






◇◆◇◆◇◆◇◆



「エカテリーナ王女!
北東に大魔法を行使した形跡があります!」
「まあ、何処なの?」
「これは……終の森。終の森ですっ!」


ーーザワッ


 終の森ですって? 魔物達ゴロゴロ居る所じゃない。
マナ探査機に引っかかる程の魔法を使える人は、限られてる。ピンク頭の可能性が高いわ。


「もし殿下であれば、恐らく転移魔法を使われたのでしょう。森は危険ですので、調査は不要かと」


 そうね。転移魔法を使ったなら、もう終の森には居ないでしょうし。
………いいえ? ちょうど良い子達がいるじゃない。
 私に従わない、生意気な部隊があったわね。
そこに調査させればいい。上手くいけば全滅してくれる。
 私には、ピンク頭を捜索するという、大義名分があるんだもの。


「まって。念のため調べましょう。ただ、あまり人数を割く必要はないわ。第7騎士団を向かわせて」
「しかしっ。必要性が低い調査で、危険区域に騎士を派遣する訳には……」
「酷いわ! これは私のお兄様の捜索なのよ? 少しでも調べるのは当然じゃないっ」
「王女様ーーーー直ちに通達致します」





 森の民が滅ぶまで、あとーー3日。




◇◆◇◆◇◆◇◆



「トニー、本当に結婚式を挙げてみないか?」
「アレッシオまでバカな事言って。僕達は男同士なんだから、要らないでしょ?」
「私は結婚したい。村の人だって、私達の関係を受け入れてくれている。反対はされないと思うが」
「うーん。まあ反対はしないと思うよ?
でも必要なくない。このままで良いじゃん」


 ユーリを見送った後、アレッシオは真剣に考えていた。トニーが自分のものだと見せつけたい。そんな願望も見え隠れさせて。


「しよう」
「……母さんに言ってみなよ。たぶん、僕と同じ事言うから」


 だが、トニーの予想は外れた。
 まさかの大歓迎である。治癒所に勤める母によって、アレッシオとトニーの結婚話は、あっという間に広まった。


「アレッシオ! 良かったな!」
「団長? 何がだ」
「ばっか、お前。結婚すんだろ? 式はどうする。手伝うぞ」
「え」


「トニー、おめでとう! 幼かったお前が立派になって……」
「おばさん、どうしたの?」
「嫌だよ、アンタ結婚するんでしょ? 式の料理は任せなっ」
「え゛」



 娯楽の少ない村で、祝い事は大歓迎であった。
 反対するどころか協力を申し出る者ばかり。
族長に至っては、儂が取り仕切る!と、息巻いている始末。


「……アレッシオ」
「なんだ」
「もうしよっか。結婚」
「っああ! 式はいつにする」
「さあ。たぶん族長達が勝手に進めてる」
「有難いな。だが、トニーの希望を無視されては困る。私達も準備に参加するぞ」


 いつもの凛々しい顔は見る影もなく、アレッシオは破顔した。
 嬉しそうにトニーの手を取って、2人は族長の家へ向かった。



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