21 / 58
王都編
2
しおりを挟むペットになったホワイトウルフが喋りました、まる。
「《マスター?》」
「どうしよう、ユキ。お前が俺を『マスター』と、呼んでる風に聞こえる。疲れてんのかな」
「《マスターがお嫌でしたら、ルゥ様とお呼びすれば良いですか?》」
「……やっぱり、喋ってるー!?」
何故だ。ホワイトウルフは、知能が高い生き物なのか?
それとも、テイマーの能力に目醒めた?
ーーいや、ないな。契約してねーもん。
「いいなー、テイマー。もふもふパラダイスだし。パーティから追放されたら、実は最強でしたパターンもあるし」
「《ワタシをテイムしたいのですか?
ですが、ルゥ様にテイマーの気は感じられませんが》」
やっぱ、ないんだ。
っじゃなくて! 何で会話出来てんの!
ウチの子どんだけスゴイんだよ。天才かよっ。
「ユキ、人間の言葉が分かるのか?」
「《ルゥ様の言葉は、なんとなく解ります》」
俺だけ……? こんなに堪能なのにか。
でもはじめは喋ってなかったよな。
ーー名前か! ユキって名前をつけた後から、言葉が聞こえる様になったんだ。
名付けが関係しているに違いない。
「これから俺と一緒に暮らす事になるけど、大丈夫か。その、お母さんとか…」
「《ルゥ様は、優しい匂いがするので嬉しいです! 父はワタシを連れて来た人間の仲間と契約を結びました。母は森に残りました》」
お父さんはテイムされたのか。
お母さんは、お父さんよりワイルドそうだな。
「寂しくないか」
「《分かりません。ルゥ様が、たくさん可愛がって下されば大丈夫ですっ》」
飼い主に愛嬌を振り撒くとは…ちゃっかりしてんな。お任せ下さい!
ブラッシングも毎日欠かさずしてやるからなー。
「もうちょっとしたら、出かけなきゃいけないんだ。お留守番出来るか?」
「《出来ます。しかし、ワタシを置いていくのですか?》」
ーーガシッ
「《ルゥ様、苦しいですっ》」
「ハッ! つい、衝動で。すまん。
分かった、一緒に行こう」
一緒に行くって言ってしまった。
連れて行っていいか、ディオンに聞かねーと。
あ゛~~、あんま顔合わせたくないんだけどなぁ。どんな顔すれば良いんだよ。
ーーコンコン
「ディオン、入っていい?」
「ああ」
一瞬躊躇って、思いっきりドアノブを掴んでドアを開ける。
身支度中だったらしく、シャツを羽織っている途中だった。
「うわっ、ごめんっーー」
「閉めなくていい。入って来い」
「う、うん」
どこ見れば良いんだ。
見ちゃダメだと思いつつ、チラチラ着替える姿を見てしまう。
ディオンって、着痩せするタイプだよな。
だって昨日はあんなに……って! 何考えてんだ、俺は!
「ルーカス。ソレは何だ」
「や、決して疚しい気持ちはっ。あ゛。
ーー何でもない。ホワイトウルフのユキだ。
さっき、フィン兄がくれた」
「兄貴が? ずいぶん大人しいな」
「だろ」
ユキはディオンを窺って、鳴き声一つ上げずに、じっと座っている。
「それで、オレに紹介してくれるのか?」
「おう。それもなんだけど、官舎に連れてってもいいか? いきなり留守番は可哀想で」
しゃがんでユキの背中を撫でてやると、スリスリ頭を擦り付けてくる。ぐうかわ。
「いいぞ。邪魔になる場合は、悪いが即帰宅だ。出来るか、ユキ」
「ワフッ」
「ありがとう!」
「それより。もう平気なのか?
食事中はあんなに目を合わせない様にしていたのに」
バレてる。
そして、もうユキが懐いてる。首を撫でられて、気持ち良さそうに目を細めるな!
お前のご主人は、俺だぞっ。
「だって、あんな事したのに」
「恥ずかしがってるのか?」
「あっ当たり前だろっ」
「慣れたら、そんな事ないはずだ。
ゆっくり教えてやるから、な」
ものすごくエロく聞こえるんだが。
そんでもって、何故嫌がらない。俺!!
「《ルゥ様。この者は、やはり番ですか?》」
「ちょっ、何言ってんだよ!」
「(どうしたんだ、急に)」
ユキの突拍子もない様で、地味に鋭い質問に、俺はたじろぐ。
「《ルゥ様から、この者の匂いがします。
それに、この男はルゥ様をメスとして見ています》」
「何でそれをっ」
「(どういう事だ? ただ吠えている様にしか聞こえないが……まさか、テイムしたのか!)」
やめてくれ。それ以上言わないでくれぇっ。
「《少し薄いですが、マーキングされてますよ。ルゥ様も嫌がってはいない様ですし》」
「ぐっ」
動物の本能、恐るべし。としか、言いようがない。
俺が自分を誤魔化そうとしているのに、ユキはあっさり見抜いてしまった。
「ルーカス。もしかして、テイムしたのか?」
「いや、してないけど」
「していない? オレには会話している様に見えた。違うのか」
「会話は出来る。でもテイマーの才能はないって、ユキが」
なんかマズイ事言った?
難しい顔をして黙り込んじゃった。
「なあ、ユキ。やっぱお前、特殊なんじゃ…」
「《残念ながら、ワタシは平均的です。おかしいのはルゥ様ですよ。契約をしていないのに、ルゥ様はワタシの言葉を理解しておられる》」
完っ全に、俺のセリフだよ。
フィン兄に言った方が良いのか?
「ーー従魔に関して、詳しい人に心当たりがある。話を聞いてみるか?」
「出来るの? そうだな、会ってみたい」
「《誰に会うのですか? それで、番なのですか、違うのですか》」
「……今は、いいだろ。ユキ」
「《大事な事です。力関係はハッキリさせるべきです。ワタシがこの者に従うべきか、そうでないか》」
こだわってた理由は、ソレか。
実に動物らしい考えだな。
主人との関係によって、態度も変わるってわけだ。
こだわる所は動物的だが、行動は人間そのものだな。
「ユキは何と言っているんだ?」
「っ、いや。特には」
言えねー。そんなこと。
「そうか?
とりあえず、行くまでに官舎の説明を軽くしておいてくれ。
興奮して暴れられたら、危険だからな」
「ん、分かった」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「どう思う、ディー」
ーーバサッ
ルーカスが自室に戻った後、ディオンは自分の召喚獣を喚んだ。
「普通のホワイトウルフだな。
あの人間の言う通り、契約は結ばれていない」
「そんな話、聞いた事がない。
ルーカスが特別なのか?」
「さてな。特別には見えんが、どうも居心地の良い空気を纏っているのは、確かだ」
思った様な答えが得られず、ディオンは迷った。
彼と引き合わせる人物は、実はディオンもよく知らない。
その為、上司である第3騎士団団長に頼むつもりであった。
「もし。ルーカスが特殊な力を持っていて、目を付けられる様な事があれば……」
「仮にそうだとして、何の問題がある。
我が主人は、己の番も守れねのか」
召喚獣の傲慢とも取れる、その物言いに、ディオンは不思議とスッキリした。
「いや、そんな事はない。
ルーカスは、必ずオレが守る」
「フッ、そうか。まあ、まずは番に迎えてから言うんだな。情けなくて見ておられん」
「何だと、ジジイ」
「ジジイっ? この誇り高きワタシを爺呼ばわりだとっ!
フンっ。ホワイトウルフとの会話を教えてやろうと思ったが、もう知らん。
せいぜい逃げられぬ様に縋るんじゃなっ」
捨て台詞を吐いて、召喚獣は勝手に還って行った。
残されたディオンは、何とも言えない顔で、ルーカスを想った。
0
お気に入りに追加
328
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる