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王都編

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 ペットになったホワイトウルフが喋りました、


「《マスター?》」
「どうしよう、ユキ。お前が俺を『マスター』と、呼んでる風に聞こえる。疲れてんのかな」
「《マスターがお嫌でしたら、ルゥ様とお呼びすれば良いですか?》」
「……やっぱり、喋ってるー!?」


 何故だ。ホワイトウルフは、知能が高い生き物なのか?
 それとも、テイマーの能力に目醒めた?
ーーいや、ないな。契約してねーもん。


「いいなー、テイマー。もふもふパラダイスだし。パーティから追放されたら、実は最強でしたパターンもあるし」
「《ワタシをテイムしたいのですか?
ですが、ルゥ様にテイマーの気は感じられませんが》」


 やっぱ、ないんだ。
っじゃなくて! 何で会話出来てんの!
ウチの子どんだけスゴイんだよ。天才かよっ。


「ユキ、人間の言葉が分かるのか?」
「《ルゥ様の言葉は、なんとなく解ります》」


 俺だけ……? こんなに堪能なのにか。
でもはじめは喋ってなかったよな。
ーー名前か! ユキって名前をつけた後から、言葉が聞こえる様になったんだ。
 名付けが関係しているに違いない。


「これから俺と一緒に暮らす事になるけど、大丈夫か。その、お母さんとか…」
「《ルゥ様は、優しい匂いがするので嬉しいです! 父はワタシを連れて来た人間の仲間と契約を結びました。母は森に残りました》」


 お父さんはテイムされたのか。
お母さんは、お父さんよりワイルドそうだな。


「寂しくないか」
「《分かりません。ルゥ様が、たくさん可愛がって下されば大丈夫ですっ》」


 飼い主に愛嬌を振り撒くとは…ちゃっかりしてんな。お任せ下さい!
 ブラッシングも毎日欠かさずしてやるからなー。 


「もうちょっとしたら、出かけなきゃいけないんだ。お留守番出来るか?」
「《出来ます。しかし、ワタシを置いていくのですか?》」


ーーガシッ


「《ルゥ様、苦しいですっ》」
「ハッ! つい、衝動で。すまん。
分かった、一緒に行こう」


 一緒に行くって言ってしまった。
連れて行っていいか、ディオンに聞かねーと。
 あ゛~~、あんま顔合わせたくないんだけどなぁ。どんな顔すれば良いんだよ。





ーーコンコン


「ディオン、入っていい?」
「ああ」


 一瞬躊躇って、思いっきりドアノブを掴んでドアを開ける。
 身支度中だったらしく、シャツを羽織っている途中だった。


「うわっ、ごめんっーー」
「閉めなくていい。入って来い」
「う、うん」


 どこ見れば良いんだ。
見ちゃダメだと思いつつ、チラチラ着替える姿を見てしまう。
 ディオンって、着痩せするタイプだよな。
だって昨日はあんなに……って! 何考えてんだ、俺は!


「ルーカス。ソレは何だ」
「や、決して疚しい気持ちはっ。あ゛。
ーー何でもない。ホワイトウルフのユキだ。
さっき、フィン兄がくれた」
「兄貴が? ずいぶん大人しいな」
「だろ」


 ユキはディオンを窺って、鳴き声一つ上げずに、じっと座っている。


「それで、オレに紹介してくれるのか?」
「おう。それもなんだけど、官舎に連れてってもいいか? いきなり留守番は可哀想で」


 しゃがんでユキの背中を撫でてやると、スリスリ頭を擦り付けてくる。ぐうかわ。


「いいぞ。邪魔になる場合は、悪いが即帰宅だ。出来るか、ユキ」
「ワフッ」
「ありがとう!」
「それより。もう平気なのか?
食事中はあんなに目を合わせない様にしていたのに」


 バレてる。
そして、もうユキが懐いてる。首を撫でられて、気持ち良さそうに目を細めるな!
 お前のご主人は、俺だぞっ。


「だって、あんな事したのに」
「恥ずかしがってるのか?」
「あっ当たり前だろっ」
「慣れたら、そんな事ないはずだ。
ゆっくり教えてやるから、な」


 ものすごくエロく聞こえるんだが。
そんでもって、何故嫌がらない。俺!!


「《ルゥ様。この者は、やはり番ですか?》」
「ちょっ、何言ってんだよ!」
「(どうしたんだ、急に)」


 ユキの突拍子もない様で、地味に鋭い質問に、俺はたじろぐ。


「《ルゥ様から、この者の匂いがします。
それに、この男はルゥ様をメスとして見ています》」
「何でそれをっ」
「(どういう事だ? ただ吠えている様にしか聞こえないが……まさか、テイムしたのか!)」


 やめてくれ。それ以上言わないでくれぇっ。


「《少し薄いですが、マーキングされてますよ。ルゥ様も嫌がってはいない様ですし》」
「ぐっ」


 動物の本能、恐るべし。としか、言いようがない。
 俺が自分を誤魔化そうとしているのに、ユキはあっさり見抜いてしまった。


「ルーカス。もしかして、テイムしたのか?」
「いや、してないけど」
「していない? オレには会話している様に見えた。違うのか」
「会話は出来る。でもテイマーの才能はないって、ユキが」


 なんかマズイ事言った?
難しい顔をして黙り込んじゃった。


「なあ、ユキ。やっぱお前、特殊なんじゃ…」
「《残念ながら、ワタシは平均的です。おかしいのはルゥ様ですよ。契約をしていないのに、ルゥ様はワタシの言葉を理解しておられる》」


 完っ全に、俺のセリフだよ。
 フィン兄に言った方が良いのか?


「ーー従魔に関して、詳しい人に心当たりがある。話を聞いてみるか?」
「出来るの? そうだな、会ってみたい」
「《誰に会うのですか? それで、番なのですか、違うのですか》」
「……今は、いいだろ。ユキ」
「《大事な事です。力関係はハッキリさせるべきです。ワタシがこの者に従うべきか、そうでないか》」


 こだわってた理由は、ソレか。
実に動物らしい考えだな。
 主人との関係によって、態度も変わるってわけだ。
 こだわる所は動物的だが、行動は人間そのものだな。


「ユキは何と言っているんだ?」
「っ、いや。特には」


 言えねー。そんなこと。


「そうか?
とりあえず、行くまでに官舎の説明を軽くしておいてくれ。
興奮して暴れられたら、危険だからな」
「ん、分かった」




◇◆◇◆◇◆◇◆



「どう思う、ディー」


ーーバサッ


 ルーカスが自室に戻った後、ディオンは自分の召喚獣を喚んだ。
 

「普通のホワイトウルフだな。
あの人間の言う通り、契約は結ばれていない」
「そんな話、聞いた事がない。
ルーカスが特別なのか?」
「さてな。特別には見えんが、どうも居心地の良い空気を纏っているのは、確かだ」


 思った様な答えが得られず、ディオンは迷った。
 彼と引き合わせる人物は、実はディオンもよく知らない。
その為、上司である第3騎士団団長に頼むつもりであった。


「もし。ルーカスが特殊な力を持っていて、目を付けられる様な事があれば……」
「仮にそうだとして、何の問題がある。
我が主人あるじは、己の番も守れねのか」


 召喚獣の傲慢とも取れる、その物言いに、ディオンは不思議とスッキリした。


「いや、そんな事はない。
ルーカスは、必ずオレが守る」
「フッ、そうか。まあ、まずは番に迎えてから言うんだな。情けなくて見ておられん」
「何だと、ジジイ」
「ジジイっ? この誇り高きワタシを爺呼ばわりだとっ!
フンっ。ホワイトウルフとの会話を教えてやろうと思ったが、もう知らん。
せいぜい逃げられぬ様に縋るんじゃなっ」


 捨て台詞を吐いて、召喚獣は勝手にもどって行った。
残されたディオンは、何とも言えない顔で、ルーカスを想った。


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