俺TUEEEに憧れた凡人は、強者に愛される

豆もち。

文字の大きさ
上 下
20 / 58
王都編

フィンの帰還とお土産

しおりを挟む

◇◆◇◆◇◆◇◆


「ゔー、ねむ……重いっ」
「いて」


 どうやらディオンに抱き込まれたまま、寝てたらしい。
 前世も含めて、生まれて初めての腕枕体験はビミョーだった。
腕枕だけなら、ディオンが辛いだけだ。
だが、反対の腕でホールドされてるせいで寝苦しい。
 筋肉つきすぎなんだよ。重いっつーの。


「うるさい、放せ」
「蹴る事ないだろ。ったく」
「うっせぇ。体格差を考えろ、バカディオン」


 昨日の事を無かった様に振る舞われるのも嫌だが、だからと言って甘すぎる。
そんな愛おしそうな目で見られたら…


「身体は大丈夫か」
「あ、ぅ。うるさいっ!」


 むしろスッキリしてるのが辛い。


「嫌だったか?」
「…嫌、ではなかった……けど」
「そうか。じゃあ次は最後までしよう」


 何を仰ってるんだ。このウルトラバカは。
 爽やかな顔で言っても、騙されねーぞ。


「次はない!」
「気持ちよかっただろ」
「それは、まあ」
「なら構わないな」
「いやいや。恋人でもあるまいし」
「……恋人になって欲しいと言ったら、なってくれるのか?」


 嘘だ。冗談に決まってる。
だけど…熱を帯びた目が、嘘ではないと訴えてくる。
 嫌悪感はない。それよりも、嬉しいとさえ感じている気がする。
 俺、どうしちまったんだ?
 王都で可愛いお嫁さんを見つけるつもりなのにっ。

 これは逃げても良いんだろうか。今までの関係が変わってしまうのは、恐い。
自分が楽でいる為に、ディオンの意思を無視するのか?
 

「悪い。困らせたかったわけじゃないんだ。
今は、忘れてくれ。先に食堂に行ってる」


 ポンと頭に手を置いて、落胆した様子でディオンは出て行った。
……ガッカリさせた、よな。あんな顔をさせておいて、聞かなかった事にするのか、俺は。
 何でこんな狡い人間になっちまったんだろう。


「ふぅ~。とりあえず着替えよ」


 そういえば、やけにスッキリしてる。溜まったもんを出したから、とかじゃない。
 ドロドロになってたはずの身体も、シーツも綺麗だ。
ディオンが全部やってくれたって事だよな。
ーーやっぱり、ちゃんと考えよう。


「待てよ? 身体は拭けばいいけど、シーツはどうしたんだ。っまさか、そのまま洗濯にっ!」


 じゃあメイドさんにはバレてる?
メイドどころか、屋敷中の人が知っている可能性も……。
 俺は、どんな顔して食堂に行けばいいんだ!
 






 どんよりした気分で、出来るだけ使用人の皆さんと視線を合わさない様に歩いた。
そもそもだ。起こしに来てくれるメイドさんが来ない時点で、恐らくバレてる。
 俺に気を利かせてくれたのか。
はたまた嫌われたのか。後者だったら最悪だ。



「おはよう、ルゥ。こうやって顔を会わすのは久しぶりだな」


 俺の葛藤を知ってか知らずか、食堂に行く途中で声をかけられた。
 

「おはようございます。
お元気でしたか、フィン兄」
「ああ。魔物討伐と言っても、中級ばかりだったからな。全員無事だ」
「良かった」


 実はフィン兄とは、初日に会話したぐらいで、なかなか会えていない。
遠征や護衛の任務で、家を空けてばかりだったからだ。
 それでも偶に立ち寄って、お土産を置いて行ってくれたりした。


「ルゥはどうだ。変わりなかったか。
第3騎士団に顔を出していると聞いたが」
「はい。皆さん良くしてくれます。友人も出来ましたし」
「そうか。良かったな。
ーーして、その友人とは何処の家の者だ。ちゃんとした奴なんだろうな」


 弟って言うより、妹じゃないか。その心配の仕方は。


「大丈夫ですよ。それに騎士ですから」
「騎士だからと言って、安心するのは危険だ」
「フィン兄。心配しすぎです」
「む。まあいい。それより、後で部屋に来なさい。良いモノを見せてやる」
「分かりました。今日のメニューは何でしょうね」
「さあ、特に変わり映えはしないと思うが」


 思春期の娘を持つ父親かっ。会話のキャッチボールが進まないなぁ、もう。




「おはよう…あら、ルゥちゃん。今朝はフィンと一緒なのね」
「おはようございます、メアリーママ」
「お久しぶりです、母上。明け方に戻りました」
「そう。ご苦労様でした」


 伯爵夫人とは思えないフレンドリーさで接してもらった結果、俺はメアリーママと呼ぶ様になった。
 1ヶ月あまりだが、第ニの母が出来たみたいで嬉しい。
 ふいにディオンを見れば、ジッとこちらを見つめていた。


「どうしたルゥ。顔が赤いぞ」
「えっ、あ、いえ、何でもないですっ!」


 早く鎮まれぇ~。
 慌てて席に着くと、隣から「フッ」と、漏れた声が聞こえる。
「何ともありません」って、顔しやがって。
しかも鼻で笑われた!
 ディオンの奴、ちょっと年上だからって偉そうに。


 恥ずかしさで俯いているうちに、パパさんが起きてきた。
今日も今日とて、ラスボスオーラは健在だ。


「ディオン。今日はやけにスッキリした顔をしているな。何かあったのか」
「まあ、出すもん出しーーー」
「わーっ! 昨日っ! 昨日ストレッチしたからだよね!」


 大馬鹿者ー!! 
どこに親に性事情を話す息子がいるっ!


「なんだ、ルーカスも一緒にやったのか」
「(墓穴掘った) か、軽ーく」
「そうか、偉いな」
「あはは~」


 油断も隙もないな、ディオン・モンフォール。




ーーーー
ーーー


ーーコンコン


「ルーカスです」
「入りなさい」
「失礼します」


 何気に初めてだな。ディオン以外の人の部屋にお邪魔するのって。
 分厚い背表紙の書籍に囲まれた部屋は、寝室と言うより、勉強部屋みたいだ。


「何か珍しい物でもあったか?」
「すみません。本がいっぱいだから、気になっちゃって」
「ああ、読みたい物があれば貸そう」
「ありがとうございます」


 俺でも読める本あるかな。
やっぱり、魔法か精霊の本が良いんだけど。
 俺がキョロキョロ物色していると、不意に右脚に何かが触れた。


「ワフッ」


 わふっ?
 目線を下げると、シベリアンハスキーぐらいの大きさの犬が、鼻を擦り付けていた。


「うわっ!」
「ホワイトウルフのこどもだ」
「ウルフ?! え、コレでこどもなんですか」


 デカくね。すげー、オオカミって初めて見た。


「ハッハッハッ、ワフン!」


 犬だ。犬にしか見えない。なんて愛らしさなんだ!
 今すぐモフりたい。わしゃわしゃしたいっ。


「気に入ったか?」
「はいっ。めっちゃ可愛いですね!」


 触りたくてウズウズしていると、ホワイトウルフが「待て」のポーズで俺を見てくる。
 ぐぅっ、俺に何を求めているんだ。
オヤツか。それともオモチャか。
待ってろ。今買って来てやるからな!


「ソイツもルゥが気に入った様だ。
まだ幼いくて戦力にはならないが、多少の役には立つだろう。
餌はこちらで用意するし、庭で放し飼いでもしておけばいい」


 フィン兄が飼うのか?
ならモフりたい放題なのではっ。もう触っていいっすか!


「名前も好きにつけるといい」
「……俺がっ!?」
「何を驚いている。お前用に連れて帰ったんだから、当然だろう」


 俺用に連れて帰った…………?
えっ。まさかラブリーなこの子を、俺のペットにして良いのかっ。


「俺がもらっても良いんですか!」
「その為に選んだんだ」
「ありがとうございますっ!! フィン兄大好きっ」
「っ!? そ、そうか。但し、躾はしっかりしなさい」
「頑張ります!」
「困った事があれば、いつでも言いなさい。
用はそれだけだ。もう行っていいぞ」
「はいっ」


 おいでー、とデレデレの顔で言えば、トコトコとついて来てくれる。
おりこうさんだな、キミは。

 フィン兄、神。愛してる。




「よーし、ココがお前の部屋だぞ~」
「ワフッ」
「えらいなぁ」


 部屋に戻り、ほっぺを挟む様にわしゃわしゃすると、尻尾が左右にブンブン振れた。
 おぉ~、そうかあ。お前も撫でられるの好きかぁ。


「名前、どうしようか」
「ワフ?」
「ホワイトウルフだから……スノウとか?
安直すぎるか」
「ヘッヘッ、アォン」
「その前にオスか、メスか。ちょっと失礼ーーーーオスだな」


 オスだとスノウは女の子っぽいか。
じゃあユキ? どっちでもイケそうだし。
 うーん。驚くほど、ネーミングセンスねえな、俺。


「なあ、お前の名前だけど、ユキでいいか?」
「アォーン!」
「いいって事か?
……ユキ」
「ワフッ」
「おお。ユキっ」
「ワフッ」
「そうかあ、気に入ったかあー」
「ワッフン」


 ヤベー、可愛すぎて鼻血出そう。
 まるで俺の言葉が分かるみたいに、返事が返ってくるし、ユキは賢い子に違いない。
 お手とか教えてみようかな。


「《お手とは何ですか、マスター》」
「ん~? お手って言うのはな、こう前足を俺の手にーーーーえ゛?」


 脳がバグった。ユキが喋るはずがない。
ゾッコンになりすぎて、都合のいい幻聴が聞こえる技を身に付けたのか?


「《どうされましたか、マスター》」


 あっれぇぇ?


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...