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王都編
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「まあ。こんなに美味しいものが、お薬だったって言うの?
それも王妃殿下が使われる貴重な……」
「ああ。どこで手に入れたんだ?」
意外と「塗り薬を食べさせられた」っつう、嫌悪感はない様だ。
良かった。機嫌を損ねる心配はなさそうだな。
「市民街の外れにある、魔道具店で見つけました。な、ルーカス」
「あ、うん。……じゃなくて、はい」
変態の事は言わなくて良いんだろうか。
一応、魔塔の人なんだろ?
「市民街の近くに?
それは怪しいな。国内での流通ルートは限られているはずなのに」
雲行きが怪しい。これは、ゲロった方が良いんじゃ。
あと、目的は違えどチョコレートはやっぱり高級品なんだな。
歴史を辿れば、カカオを溶かして飲み薬にしてたって話もあったし。
塗り薬は初めて聞いたけど。
「ディオン……」
言わないのか、と袖口を引っ張って目線を合わす。
やっぱり言いたくないらしい。
微妙な表情を浮かべて、ため息を吐いた。
「父上。その店にはサシャ・ヴァロアが居ました」
「サシャ・ヴァロアだと?
魔塔の狂人か」
狂人!?
あの変態にそんなあだ名が。
……違和感ねーな、おい。まんまじゃん。
「あら~。それは珍しい人と会ったのね、ルゥちゃん」
「そうなんですか」
「そうよ。魔塔と言ったら、名誉も富も必要とせず、ただひたすらに魔法を極める集団なの」
通りで、頭のネジが外れてたわけだ。納得。
でも、そんなヤツがどうして店なんて。
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「……もしかして、10歳で魔塔入りした天才児って」
「あら、ルゥちゃんも知ってたの?
彼がその天才児よ。今は17歳だったかしら」
マジかー。アイツ公爵家のぼんぼんかよ。
しかも17。20歳は超えてるかと思ったんだけどなぁ。
偉そうなわけだよ。実際、生まれも仕事も偉いって事だろ。
ないわー。神様、それはないわ。
あの人、変態だよ? 思考もだいぶ危ない系の。
「それは、すごい、デスネ」
「あまり人前に出ない方だと聞くから、ルゥちゃんラッキーね。うふふ」
うふふ、じゃないんだ。メアリーママ。
俺の貞操の危機だったんですよ。
「なるほど。彼なら、不思議はないな。
特に問題はなかったか」
「「・・・」」
「ーーあった様だな。
話しなさい、ディオン」
「……ルーカスが気に入られました」
「は?」
「連絡を取れる様に、伝書鳩まで用意しようとしたので、止めて帰りました」
何、この空気。
パパさんもママさんも、何でそんな顔で俺を見るの。
「ルーカス、1人で出歩いてはいけないぞ」
「え?」
「そうよ、ルゥちゃん。必ず誰かと一緒に居るのよ。
でも困ったわ。ディオンは明日からお仕事でしょ?
屋敷の者達だけで、大丈夫かしら」
「ええ?」
「そうだな。警備を増やすか。
いや、いっそ私の所に来るか」
「えええっ?」
変態に気に入られるって、そんなヤバイ事なのかっ。
俺、死ぬの? 命狙われてる感じ?
「父上、それならオレが。
近衛騎士が部外者を招くのは難しいでしょう。
それに王族に目をつけられでもしたら…」
「それもそうか。
よし。第3騎士団なら、まあ良いだろう。
遠征後で、しばらくは落ち着いているだろうし」
「はい。団長にはオレから伝えます」
「ああ、そうだな。
急いだ方が良い。」
「良かったわね、ルゥちゃん。
明日からも、ずっとディオンと一緒よ」
全く状況が理解出来てません。
何が良かったんだ。
ディオンの仕事場について行くって事?
邪魔者以外の何ものでもないよね、俺。
自慢じゃないけど、戦闘力ゼロだから!
「どゆこと?」
「そういう事だ、ルーカス。
明日は、オレの職場に行くぞ」
「えっ。大丈夫なのか?
それに俺、仕事探さなきゃいけねーんだけど」
無職はキツいからね。
生活の地盤を固めていかねーと。
「「「仕事?」」」
「……え、はい。ちゃんと自立しないと、いつまでもお世話になれないので」
「っ! いつまでも居れば良い。
オレが養うから安心しろ。お前は好きな事だけすれば良い」
ちょっとディオンさん。アンタ何言ってんの。ヒモ男製造機か、さては。
「この家が不満なのか?」
「そんなっ。ルゥちゃんは、もう私の子でしょう?」
や、ちがっ。
てか、意味が分からない。
必死になるとこ、おかしくないか。
もしかしなくても、ペット認定されてる?
俺、人間なんですけど……
「いえ、不満なんて、とんでもないっ。
でも何もせずにお世話になるってのは……」
「何がダメなんだ?」
「何がダメなの?」
ディオン。おたくのご両親、だいぶ変だぞ。
金銭感覚の違い?
そもそも、村に来たディオンを1週間泊めただけの仲だよ、俺達。
かなり仲良くなったとは、思ってるけどさぁ。そこは、別だろ。
「ディ、ディオン」
「ルーカス、出て行くつもりだったのか」
「いや、直ぐにってわけじゃないけどさ」
「……分かった。仕事を見つければ良いんだな」
「あ、うん」
空気、おっも。
「家から近い職場を見つけてやる。
そうすれば、ココから通う方が効率的だろ」
「んん? そういう話じゃないって。
無償でお世話になり続けるのは、おかしいだろ」
「それだけか?」
「それだけって、大事な事だぞ」
この国では、無償で養うのが暗黙の了解だったりすんの?
アルソン村は、働かざる者食うべからずだった。
田舎と都会の差か、コレが!
……っなわけねーよな。さすがにそこまでバカじゃない。
「嫌なわけじゃないんだな?」
「(しつこいな) 嫌なわけないじゃん。
びっくりするぐらい快適」
7つ星ホテルも顔負けの、至れり尽くせりの極上空間なんで。そりゃ出たくないよね。
「なら居れば良い」
「ディオンの言う通りよ。ねぇ?」
「ああ、そうだな。
気になるのであれば、今日の様に何か作ったり、買い物に付き合ったりしてくれれば良い」
「パパさん、それだとあまりにも……」
「では、条件を追加しよう。
用事がない時は、私の見送り、出迎えをする様に」
???
メイドさんを手伝えって事かな。
「はい、分かりました」
「ルーカス、オレもそうしてくれ」
「いやだわ、ディオン。貴方ルゥちゃんと一緒にお仕事行くんでしょ。
ムリよ」
ママさん、その冷静なツッコミをもっと前にしてもらいたかったです。
かくして俺は、正式に居候する事が決定した。家賃が浮くのは願ってもない。
何かしらのお返しは今後考えて行こう。
一夜明け、俺はパパさんを送り出し、第3騎士団の官舎に居る。
「紹介する。しばらく俺の雑務を担当するルーカスだ。宜しく頼む」
「「「ハッ! 承知しましたっ」」」
朝の訓練の途中だった、騎士団の皆さんを集め、ディオンは俺を紹介した。
剣を持ったムサイ集団の視線を一身に浴びて、ちびりそうになったのは悪くない。
一般人として、当然の反応だと思いたい。
「副団長。雑務とは何でしょう。
我々補佐と同じ仕事ですか。それでしたら、私がお教えしますが」
緑の頭髪が印象的な男性が一歩前に出て質問する。
彼はディオンの補佐さんなんだろうか。
「いや、仕事は……そうだな。オレの傍において、たまに茶を用意してもらう」
「「「はっ?」」」
「ごほんっ。何の冗談ですか、副団長。
この件は団長もご存知なんですよね」
俺、補佐(仮)の人に睨まれてるよな。
すいませんっ、すいませんっ!
神聖な騎士の仕事を冒瀆したって思いますよね。だけど、聞いて下さい。
俺も初耳ですっ!!
「無論だ。許可は得ている」
ーーザワっ
騒ついてるよ。めっちゃアウェイじゃん。
も、帰って良いっすか。
「クリス。ルーカスは菓子作りが上手いぞ。ウチの料理人も褒めていた」
うん。今それ全く関係ないね。要らない情報No.1!
「そうですか。
ルーカス君とお呼びしても?」
「ああ」
何でディオンが答えるんだよ。
「ルーカス君。私は、副団長補佐の1人、クリス・へヴァーだ。宜しく」
「はい、宜しくお願いしますっ」
「厨房に材料は揃っているから、好きな時に作って良いから」
わーお。この人、ただの甘味バカだ。
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