俺TUEEEに憧れた凡人は、強者に愛される

豆もち。

文字の大きさ
上 下
15 / 58
王都編

しおりを挟む
「じゃあ、すいません。コレにシャンティを添えて夕食にお願い出来ますか?
夫人の分は1番大きくカットして下さい」
「お任せ下さい」
「あっ、この味見用のは、良ければマイヤーさん達で食べちゃって下さい」
「宜しいんですか?」
「はい。皆さんに食べてもらえば、次作る時、もっと美味しいのが出来ますよね」
「……ハハ、お任せ下さい」


 チョコレートの魅力に気付いてもらえれば、俺が変態に会いに行かなくても伯爵家が仕入れてくれる!
 フッハッハッハッ!



◇◆◇◆◇◆◇◆
[モンフォール家のメイド視点]


 厨房の準備が出来た、とルーカス様担当のメイドに伝えようとしました。
しかし部屋の前に待機して居なかったので、私が代わりにお伝えしたのです。

 ドア越しに聞こえるお声は、何やら焦った様子でしたが、ディオン様のお声が聞こえたので、その場を離れました。


「あ、ルーカス様、そろそろ来るって?」
「はい。恐らくディオン様もご一緒に」
「えっ、ディオン様もっ?!」


 先輩が驚くのも、無理はありません。
 貴族の方、しかも男性が厨房に立ち入るなど有り得ない事です。


「ルーカス様と一緒に行くと仰ってました」
「は~っ、すごいわ。目に入れても痛くないって感じね」
「たしかに、別人と疑いたくなるぐらいに過保護ですよね」
「過保護って言うか……(あれは独占欲だと思うけど)」
「どうされました?」
「あ、ううん。
とにかく私達は、夕食の準備とお迎えの準備を済ませましょ」
「はい」


 そうです。急いで準備をしなくては、全ての作業が遅れてしまいます。
 お二人は、厨房の者がしっかりサポートするはずです。



 30分程経った頃、旦那様のご帰宅が早まるとの連絡を受けました。
至急、厨房とディオン様にお伝えするべく向かったのですがーーーー。


「なにこれ、甘くて良い香り」


 厨房の外からでも香る、芳しい香りに驚かされます。
 嗅ぎ慣れない香りですが、料理長が新作を考案したのでしょうか。


「失礼します。旦那様のご帰宅が予定より早まるとの事です!
食事は間に合いますか」
「問題ないよ。帰宅されたら、また教えて」
「承知しました」


 入口から1番近い所で調理する者に言えば、問題ない様子で安心する。
急ぎ戻って報告しなくちゃ、とキビを返そうとしたその時。
 私の視界に、信じられない光景が写ったのです。


 ディオン様がご自身で作業されているっ!?
ボウルを手に、何やらすごいスピードでかき混ぜています。


「あの……あれは?」
「あれ? ああ、ディオン様達ですか。
ケーキを焼いてるみたいだよ。序盤から不思議な香りがして、俺達も気になってんだ」
「はあ。あの、止めなくて宜しいんですか?」


 ディオン様にあの様な雑務をーー


「ルーカス様が指示を出してるらしいから、大丈夫だろ。嬉しそうに手伝ってらっしゃるぞ」


 嬉しそうにって。まあ、ディオン様が良いのであれば、私共は何も言えませんが。

 そして事件は起こったのです。


「ーーーーえ゛」
「……驚いた。ずいぶん、仲良いなー」


 いや、あれは仲が良いの範中なのですか?
 だってまるで。
まるで愛おしい恋人に触れる様な……。


「あ、舐めた」
「舐め、ましたね」


 私はいったいどうすれば良いのでしょう。
 仲睦まじくイチャつ……こほん!
仲睦まじくお戯れになるお二人を、どう捉えたら良いのか。
 何より、この心臓をぎゅっと握りしめられた様な痛み。


「アンタ大丈夫か?
息も荒いし、顔も赤いが」
「えっ。な何でもありませんっ!
では、他の者に伝えて参りますのでっ」


 嗚呼、どうしましょう!
色気爆発のディオン様と、可愛らしく恥じらうルーカス様。
 何故か先程のお二人を思い出すと、興奮が収まりません!!




◇◆◇◆◇◆◇◆

 
 珍しく仕事を早く切り上げ、ガイザーが帰宅した。


「「「「おかえりなさいませ。旦那様」」」」
「ああ」


 普段なら直ぐに自室へ戻り、着替えを済ますのだが、今日の彼は違った。
 玄関ホールから動かず、ソワソワした様子で、何かを待っている。
 使用人達は、戸惑った。
頭を上げても良いものか。はたまた声がかけられるまでキープすべきか。
 しかしそこは伯爵家の使用人達だ。
一切乱れる事なく、綺麗なお辞儀をキープしている。

 助け舟を出したのは、執事のドビーであった。
彼は、ガイザーに仕えて20年の大ベテランにして、良き理解者でもある。


「旦那様。もしやルーカス殿をお待ちですか」
「っ! ああ、まだ帰って来ていないのか」


 使用人達は、ますます頭にハテナを浮かべた。何故ディオン様のお客人を旦那様が待つのか。


「それでしたら、ディオン坊っちゃまと厨房においでです。
ご挨拶は、ご夕食時になされたら宜しいかと」
「厨房? ……そうか、分かった。着替える」


 そう言うと、少し残念そうに荘重な両階段を上がって行った。


「奥様がお帰りではないから、お出迎えが寂しかったのでしょうか?」
「いや……だとしても、ルーカス様を何故?」


 その後、各々の持ち場に戻りながらも、使用人達はしばらく考え続けたらしい。



「旦那様。まさかかと思いますが、ルーカス殿に『パパさん、おかえりなさい』などと、期待していたのですか」
「うぐっ。ほんの少しだけだ」


 ドビーに言い当てられ、何とも言えない気恥ずかしさを感じたガイザーは、夕食まで黙り続けた。





 わずか数分後、メアリーも茶会からも戻り、一家の夕食が始まった。


「ルゥちゃん、どうだった? 王都は」
「とても活気があって賑やかでした」
「そう。楽しめたかしら」
「はい (ヤバイ奴にも会ったけど)」


 楽しそうに会話に花を咲かせるメアリーとルーカスを、ガイザーとディオンは優しい目で見ている。
 ほっこりした雰囲気に、給仕の者まで締まりのない顔を晒すが、誰も咎める者は居なかった。

 
 会話も落ち着きを見せた頃、食事はデザートを残すのみになっていた。


「あら、今日はずいぶん多いのね」


 デザート皿が2つサーブされた事に、メアリーは首を傾げた。
それも、1つは自分だけかなり大きいケーキが出されているのだ。
 その様子に、ディオンとルーカスは笑みを浮かべた。


「メアリーママさん、実はケーキの方は俺達が焼いたんです」
「まあっ! ルゥちゃんが?」
「はい。ディオンも手伝ってくれました」
「まあ……」


 よっぽど驚いたらしく、メアリーはケーキとルーカス、ディオンの顔をかわるがわる見る。
 驚いたのは、ガイザーも同じらしく、ケーキを穴が空きそうなほど見ている。


「コレ、今日の収穫と言いますか、プレゼントにと思って」
「プレゼントに?
なんて素敵なのかしら! まさか手作りだなんてっ。勿体無くて食べられないわ」
「母上。せっかくルーカスが作ったんですから、召し上がって頂かないと」
「もうっ。ディオンはせっかちねぇ。
ーーでは頂こうかしら」


 メアリーはドキドキしながら、ひと口食べた。
 もちろん、ルーカスはそれ以上にドキドキしながら、反応を待っている。


「……美味しいわっ。初めて食べる味ね」


 頬を緩ませてルーカス達に感想を伝えると、そのまま二口目を口に運ぶ。


 近衛騎士であるガイザーは、香りの正体に気付いた素振りを見せるが、美味しそうに完食してみせた。


「ありがとう。とっても美味しかったわ!
また作ってくれるかしら」
「嬉しいです。もちろん作らせて頂きます」


 だが、褒められてニコニコ顔のルーカスに、ガイザーは爆弾を落とす。


「本当に美味かった。ルーカスには料理の才能がある様だな。
しかし、薬をケーキに入れるアイディアは、どこから得たんだ?」
「えっ(まさかパパさん、塗り薬の材料だって知ってるの?! )」
「父上、ご存知だったんですか」
「ああ。出回る事が少ないが、薬草を混ぜて毒消しに使ったり、肌の回復薬として使ったり、用途は様々だ。王妃がよく取り寄せているから、度々目にはする」


 素直に感心するディオンを余所に、ルーカスの目は泳ぎ始めた。


「(いきなりバレた!
どう言い訳したら良いんだ。
でもチョコは食べ物なんだってばぁ)」
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

処理中です...