俺TUEEEに憧れた凡人は、強者に愛される

豆もち。

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王都編

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「ディオン?」
「……」


 店を出てから、ずっと無言のまんまだ。
やっぱり怒ってるのかな。たくさん迷惑かけたし。


「なあ、ディオンってば。聞こえてるんだろっ」
「……なんだ」


 良かった。返事してくれた。


「メアリーママさんに、お土産買わなきゃ」
「あ゛?」
「うっ、だ、だって。約束したじゃん。
来たかったけど仕事で行けないから、何かプレゼントちょーだい、って」


 そう。一緒に観光したいと言ってくれたメアリーママさんは、どうやら侯爵夫人のお茶会に招待されていたらしい。
 ドタキャンしようとする彼女を、パパさんがドス黒いオーラを漂わせて黙らせたのだ。

 
ーーーー
ーーー
(5時間前)


「さて、市民街に行くなら着替えなくては」
「…母上、本当に一緒に来る気ですか」
「ええ。何か問題でも?」
「いえ…(初デートが親同伴か)」


 護衛の人達って、どんな人なんだろう。
屈強な漢。いや剣と魔法の世界は、細マッチョな可能性もーーいやいや、美人エルフの可能性だって!


「それは問題だ」


 さむっ。ラスボスから、とてつもない冷気が発されてる。


「あら、何故ですの?」
「今日はアルフィン侯爵夫人の茶会ではなかったか」
「……体調が優れませんの」


 いや、無理があるって!
 メアリーママ、意外と豪胆っ。


「ハァ。君がアルフィン夫人を苦手に思っている事は知っている。
だが、一度受けた招待を当日に断れると思っているのか」
「それは……申し訳ありません。
きちんと参りますわ。とても嫌ですけど」


 こんな恐ろしいパパさんに、文句が言えるなんてスゴイなママさん。
 逆らわないようにしよう。


「ルゥちゃん、ディオン。
この可哀想な私に、プレゼントを下さる?」
「プレゼント、ですか?」
「ええ。私に似合う物や、私が興味がありそうな物をお願いするわ」


 貴族のご婦人が欲しがる者なんて、分かりません。
 しかも行くのは、市民街なんだよな。
王都の市民街は、俺が想像する様な場所じゃなくて、高級ブティックが並ぶブランド街なのかっ?
 じゃあ、貴族街ってどんなとこよ。
俺、王都ここで暮らしていけるかな。金銭面とか金銭面とか、金銭面とかで。


「が、頑張ります?」
「うふふ。よろしくね。
ディオン、しっかりルゥちゃんを守るのよ」
「当然です」
「ルゥちゃんの分、いくらか持たせましょうか?」
「結構です。オレが出しますから」
「あらあら、独占欲の強い男は逃げられるわよ」
「ご心配なく。逃しませんので」


 途中からいったい何の話をしてるんだ?



ーーーー
ーーー


 ん~。今頃、侯爵邸に向かってるのかな。
ご近所さんなんだろうか。それとも領地で?
 そういや、モンフォール家は領地持ってるのか?
 知らない事ばっかりだな。


「ね、なんか買おうぜ」
「…っ。分かった。
そのかわり、オレにも後でご褒美くれよ」
「ご褒美?
俺、あんま金ないから高いのは無理だぞ」
「物じゃないから、大丈夫」


 なら問題ないな。


「おう、良いぞ。
ディオンには世話になりっ放しだからな」
「約束だぞ」
「おうっ」


 雑用とかかな。
あ、掃除なら出来るぞ。


「母上の馴染みの宝石店に行っても、面白味に欠けるだろうし。
……いっそ露店で髪飾りでも買うか」
「伯爵夫人なのに、良いのか?
そんな安物で。お金なら、働いて返すぞ」


 ママさんが、庶民がつける様なアクセサリーを身につけるとは思えない。
想像出来ねーもん。


「大丈夫だろ。
ルーカスが選んでやれば、それだけで喜ぶから」
「本当に?」
「ああ。金も要らない。
……それより、そんな袋持ってたか?」


 袋?
 ディオンの視線を辿ると、俺のベルトポーチからラッピングされた何かが、はみ出していた。
 入り切ってないじゃん。何だろ、コレ。

 取り出してリボンを解けば、中には板チョコが5枚入っている。
 やられた! あの変態が、魔法で転移させたに違いない。
 買うなんて言ってないのに、押し付けられたぁ! いくらだ。本当にいくらなんだ。
ツケてくれるのかな。直ぐに払えって言われたら詰む。


「どうしよう、ディオン。
これ、あの人の仕業だ。チョコが入ってる。5枚」
「なんだとっ。
気狂い野郎が。いいか、とにかくアイツには関わるな。
もう帰ろう」


 お土産は?


「でも…」
「母上のプレゼントは、それでいいだろ(これ以上、外に居ては危険だ)」
「え。これ、塗り薬の材料なんでしょ。
俺は好きだけど、バレたら気を悪くするんじゃ」
「なら原型を無くせばいい」


 そういう事ではないだろ。本当に貴族か。
 ディオンは博識なイメージだったけど、実は違うのかな。


「どうやって」
「かせ。オレが粉々に割る」


 私怨入ってませんか、ディオンさんや。
 粉々か……それならいっそ、ケーキ作っちゃえば良いじゃん。


「ケーキ作ろうっ!」
「ルーカスがか?」
「大丈夫。たぶん作れる!」


 前世では、大学時代にカフェでバイトしていた。
調理場担当だったから、デザートメニューに載ってたケーキは作れる! はず。


「知らなかった。すごいじゃないか。
よし、特殊な材料はあるか?」
「うーん。卵と小麦と砂糖があれば出来ると思う。もし可能なら生クリームも欲しい」
「生クリーム。どんなやつだ」
「昨日のデザートさ、上に白いクリームがのってたでしょ。アレ」
「シャンティの事か」


 オシャレだな、おい。フランス語みたい。
クレームシャンティとかって、聞いた事あるぞ。デザート担当の前野さんが言ってた。


「買わなくてもあるかな?」
「それぐらいなら、常にあるはずだ。
迎えもそろそろ来るだろう」


 いつの間に。
 この世界に携帯とかあるのかな。


「いつ呼んだわけ。
どうやって呼んだの。俺も使える?」
「ハハッ、落ち着けよ。
コイツを使ったんだ」


 ディオンが空に手を挙げると、1羽の鳥がとまった。
 スカイブルーの綺麗な羽根と、長い尾がよりエレガントさを出している。
 青い鳥かぁ。ほんと、ファンタジー。
 王都に来てまだ2日なのに、一気に異世界を堪能してるな、コレ。
 村だと、魔法あんまり使う人居なかったし。使っても水とか火とか、生活に必要な魔法ぐらいだった。
 まあ、テオドールは別として。
これで俺も精霊やら妖精が視えたら完璧なんだけどなー。


「綺麗な子だね」
「ふむ。分かっておるな、人間」


 ???
今、すごくジジくさい声が聞こえた様な。


「なんだ、すっとぼけた顔をして。
ディオンよ、此奴がお前の番か?」
「……に、なれば良いと思っている」
「情けない奴め。このワタシと契約しておきながら、嘆かわしい」


 まさか、この鳥が喋ってるのか!?


「でぃ、ディオン。それ……」
「ん? オレの召喚獣のディーだ」
「召喚獣っ!」


 何でもアリだな、この世界っ。
俺の理解が追いつかねー。
 あと、ディオンだから「ディー」って名付けたとしたら、安直だと思いまーっす!


「人間。我等の事を知らんのか。
ならば教えてやろうっ。ワタシはーー…」
「もう還っていいぞ」
「何っ?! まだ教えてやってないぞっ」
「また今度な」
「おいっ、ディオンよーっ!!」


 消えた。


「俺もう、ワケが分かんない」
「追々教えて行くから安心しろ。
ルーカスも勉強すれば、召喚出来るかもしれないぞ?」
「ほんとっ!」
「ああ。
おっ、見ろ。迎えが来た」







◇◆◇◆◇◆◇◆
[モテフォール家のメイド視点]


 ディオン様がずっと待ち焦がれていたお方がやって来た。
 奥様が“お嫁さん”だと仰るから、私どもはてっきり子爵家か男爵家のご令嬢がいらっしゃるのかと思っていました。


「ディオン様のお客人がいらっしゃいました!」


 警備隊からの連絡を受け、屋敷は慌ただしくなったのです。
 対応したメイドの話では、あのディオン様が仕事を放り出して応接間に駆け込んだらしい。
 正直信じられなかったのですが、今のご様子を見れば一目瞭然でしょう。


「婚約発表がないと思ったら、そういう事だったのねー」
「ほんとよ。びっくりしたわっ!
でも綺麗な男の子だったわね」
「そうね。なんか弟って感じ」


 ディオン様が紹介して下さったのは、シャンパン色の瞳が魅力的な男の子でした。
 15歳という事で、少年から青年へと成長する中間と言いましょうか。
あどけなさが残っていて、先輩陣は「可愛い可愛い」と、騒いでます。
 我々下っ端は、同い年の子や、歳が近い子が多く、親近感が湧きました。
生まれが田舎というのも、私個人としてはシンパシーを感じます。


「初めまして、ルーカスです。お世話になります!」


 お客様でありながら、私どもに深々と頭を下げたルーカス様は、一夜にして先輩メイドのアイドルになったのだとか。


 それが、どうしてこの様な事になったのでしょう。


「わっ、ディオン。
ちょっと離してよ」
「んー? あ、ここクリームついてる」
「おいっ、舐めるなよ!
普通にとってくれれば良いだろっ」


 我々は何を見さされているのでしょうか。
 始まりは、30分前の事でしたーーー



◇◆◇◆◇◆◇◆
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