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王都編
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しおりを挟む「うふふ、仲良しさんなんだからっ。
ねえ、ルーカスちゃん。フィンが兄なら、私は“お母様”……いえ“ママ”なんじゃなくって?」
おーっと、これはハードルが高いぞ。
伯爵夫人をママ呼びする平民が何処に居る。まず、伯爵に殺されるよ。
「母上、それは流石に……」
「あらディオン。私が母と呼ばれるという事は、ルーカスちゃんが嫁入りしたと同義じゃない。
それなのに、あなたは嫌なの?」
うん、違いますね。どうやったら、そんな思考回路になるんでしょうか。メアリー夫人。
「お母様とママ、どちらをご希望ですか。母上」
「えっ、ディオン?」
「もちろん、ママよ」
「ルーカス。今日から母上がお前の義母だ。ママ、もしくはメアリーママと呼んでやってくれ」
屈した。意味不明な理由で屈したぞ、コイツ。
モンフォール家にまともな奴が居ない。
見ろよ。あの給仕のお兄さんの考える事を放棄した顔。何か悟りを開いた。たぶん。
いっそ俺も開きたい。
羞恥心よ、消え去れ。
「さっ、ルーカスちゃん呼んでみて」
「えっと」
「呼んでやれ、ルーカス」
「別に減るもんでもないだろう。
呼んでみたらどうだ。ルゥ」
ルゥ!?
ルゥって何!!
まさか、今さっき言った「呼び方を考えよう」の呼び方がコレ?
そんなあだ名つけられた事ねーよ。
女の子っぽくないか。地味に嫌なんだけど。
「兄貴、呼び方決めたのか」
「まあな。暫定ではあるが」
暫定なら直ぐ変えて!
普通にルーカスでいいじゃん。
「あら可愛いわね。私もルゥちゃんと呼ぼうかしら。
はい、ルゥちゃん。ママって呼んでみて」
「(無だ。心を無にするんだ) メアリーママ、さん」
「さん、は要らないのだけど……まあ仕方ないわね。今後に期待するわ」
助かった。ギリギリ助かってないけど、なんか助かった。
「なんだ。私が居ない間にずいぶん楽しそうじゃないか」
「あら旦那様。おはようございます」
「あっ、おはようございまーーす?!」
ラスボスだ。ラスボスが降臨なされたっ。
予想してた何倍もコワイィー!
おどろおどろしい。目を合わせたら呪われるっ。
実は普通の貴族じゃなくて、悪の貴族なんじゃないの。裏社会の家なんじゃないの。
「おはよう、ルーカス。よく眠れたかい」
「はひっ」
「では食べようか」
ラスボスの着席と共に、朝食が運ばれて来た。昨日の夕食に比べると品数や量も少なめだけど、俺にはご馳走にしか見えない。
朝からフルーツ山盛りってすごいな。
なんて贅沢なんだ。いっぱい食べよう。
「果物が好きなのか。ほら、あーん」
「んあ」
「美味いか」
「ん」
雛鳥の如く口を開けたら、ディオンがテキパキとぶどうやオレンジを放り込んでくれた。
手を動かさずに、口だけ動かせばいいって楽。
「ルゥ。栄養が偏ってはいけない。肉も食べなさい」
「はい」
フィンさん……間違えた。フィン兄は、デジャブみたいに皿にお肉を盛っていく。
胃がやられそうです。美味しいけどね。
「今日の予定は決まっているのか、ルーカス」
「いえ特には」
「そうか。ならディオンと王都を観てまわったらどうだ。
王都と行っても広いからな。貴族街はつまらないかもしれないが、市民街は楽しめると思うぞ」
「素敵ね~。私も行きたいわ。ルゥちゃん、私と一緒に行きましょう?」
市民街か。興味あるな。あの老夫婦はまだ居るかな。会えると良いんだけど。
「行きたいです。だけどメアリーママさん、市民街なんて行って大丈夫ですか? 安全面とか」
「大丈夫よ。ディオンも居るし、何人か護衛も連れて行くから」
お出かけに護衛がついて来るって、貴族っぽい。カッコいいんだろうなぁ。
「ごほん。可愛いらしい名前で呼び合っている様だな?」
しまった。目の前で奥さんをママ呼びしてしまった。
助けを求めてディオンを見れば、ニッコリ笑ってマスカットを口元に運んできた。
そうじゃないよ~。
「私だけ除け者とは、いただけないなルーカス。そうだろう」
「仰る通りで! 申し訳ありませんっ」
目がっ、目がキラーンて。妖しく光りましたけれども。
どうして皆んな普通なの。
居候の危機ですよっ。
「そんなに怯えられては、私が悪いみたいじゃないか」
「いえ! 滅相もございません」
「会話が噛み合わない様な……まあ、いい。私の事はパパさんと呼びなさい」
「・・・へ」
「パパさんだ。ほら、早く」
「パパサン」
「もっと感情を込めて」
「かんじょ? パパさん?」
「それでいい。それ以外は返事をするつもりはないから、気を付ける様に」
ナニコレ。
ラスボスオーラを放ちながら、満足気に頷かれても生きた心地がしない。
さながら生贄の気分だ。
言ってる事が可愛いから、ギャップ萌えとかねーよ?
マジで、恐いから。
疲れる朝ごはんだったな。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
初めて乗る豪華な馬車にドギマギしながら、王都で1番栄えているという広場に着いた。
大きな噴水を中心に、街が円状に広がっている。
行き交う人々は様々だ。ディオンの様な、いかにもな貴族も居れば、良いとこのお嬢様風な人や、ミルみたいな少し裕福な村人って感じの人達も多い。
彼等が、王都での一般庶民なんだろうか。
やっぱり王都はスゲーなー。
「何処行きたい」
「あっじゃあ。ココに来るまでお世話になった人が野菜を売ってるかもしれないんだ。
もう帰っちゃったかもしれないけど…」
「へえ。聞いてないけど、お世話になったって何?」
「え? だから、俺を乗せてくれた人達だよ。2日かかる道のりを、夜通し走って1日で到着した」
「……ああ。てっきり御者付きの馬車かと思ったら、荷馬車に乗って来たのか」
「言ってなかったっけ」
「聞いてない。良い人だったから良いものの、危ないからダメだぞ?」
村人舐めんなよ。
ラノベの主人公はだいたい荷馬車に乗って、街に出るんだからな!
そして、モテモテの人生が始まるんだ!
「あら? ディオン様ではありませんか。
奇遇ですわね。ごきげんよう」
ディオンに小言を食らっていると、綺麗な女性が声をかけてきた。
本物のお嬢様だ!
後光がさしてるもん。控えてる執事さん?もピシッとして格好いい。
「…じゃ、行こうか」
「えっ。知り合いじゃないの?
今あの女性が」
ディオンは、絶対聞こえていたはずなのに、知らんぷりして先を進み始める。
嘘だろ。田舎ではお目にかかれない美女だぞ。無視とかして良いと思ってんのか!
「そちらの方は、どなたです?
使用人……にしては、良いお召し物ね」
「ちょっと、ディオンっ」
「ちっ。
やあ、シトール嬢。こんな所で会うとは驚いた。
すまないが、彼に王都を案内している途中なんだ。失礼」
そのまま俺の肩を抱くと、早々に美女に背を向けて歩き出してしまった。
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美人はキレると恐いって本当なんだな。
完全に俺がおじゃま虫だったんじゃないか。
「お嬢様、唇が傷付きます」
「……ふん。婚約者の私にこんな仕打ちをするだなんて。
あの男について調べなさい。
ディオン様があんな優しい顔をっ。
興が削がれたわ。帰る」
「お待ち下さい、お嬢様っ」
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