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旅立ち編
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しおりを挟むついにこの日がやって来た。
「ふっふふ、フハハ!
俺は自由だっ! テオドール至上主義の村人達とも、他所のしつこいテオドールファンとも!」
そして何より、テオドールから俺は解放されるっ!
だが俺も馬鹿じゃない。
このまま簡単に逃げられると思ってはいない。
その為に、コツコツ手回しして来たんだ。
まず、誰にも見つからない様にこっそり村を出るーーなんて普通の事はしないぜ!
それはもう盛大に見送ってもらう予定だ。
「ルーカス、支度は出来たの?」
「ああ母さん。うん、あとコレだけ」
「そう。寂しくなるわね。
あんなに小さかった貴方がもう15になったなんて」
「母さんはいっつも、そればっかだ。
俺だって成長したんだよ」
「だってぇ。てっきりテオドール君と離れたりしないと思ってたんだもの~」
なんっちゅう、恐ろしい事をっ!
考えるだけでも悍ましい。
だいたい、アイツと一緒に居たら息子は結婚出来ませんよ!
したがって孫も抱けませんよ!
良いのか! 母さん!
「いやいやいや。
そもそもテオドールが俺に懐き過ぎなんだよ。7つも下なのに……アイツ同年代の友達居ないんじゃねぇかな」
「それはないわよ。あの子は村1番の人気者なんだから。
まあでも、たしかに貴方達いつも一緒よね」
「だろぉ?
俺達にとって良い機会なんだ」
「そうね、テオドール君の為には良い事かも知れないわ」
え、俺は?
母さんって、俺の母さんだよな。
くそぅっ! 母さんまで取りやがって、あの悪魔ぁ!!
「ちょっと時間早いけど、もう行こっかな。なんか見送りとかどうでも良くなって来た」
「あ、そう? 達者でね。1人前になるまで帰ってくるんじゃないわよー」
「えー」
俺って……
もう今直ぐ出ちゃおうかな。
誰も責めないよね、責められないよなあ!?
よっしゃ出るか。
「母さん、俺ちょっと早いけど出るわ」
「ええ? でも御者の人が来るまで時間あるわよ?」
「歩きながら捕まえる」
「アンタねぇ、そんなんでやってけるの?」
「大丈夫。王都の知り合いに世話になるから」
「王都に知り合いなんて居たの?」
まーな。
去年ふらりとウチの村に立ち寄ったディオンさん。
3つ上で、カッコいい人だ。
村に滞在したのは1週間だけだったけど、俺の事を本当の弟みたいに可愛がってくれた。
そん時に「15になったら村を出る宣言」したら「俺んとこ来い」って言ってくれたんだ。
マジ兄貴!
ーーコンコン
「あらお客さんかしら……まっ、ミルちゃんじゃないの。ルーカスの見送りに来てくれたの?」
「ちがうわ。テオドールに会いに来たの。
邪魔するわよ」
「あらあら、どうぞ~」
ゆるいな、母よ。
だがナイスタイミングだ。
「言われた通り来たわよ」
「おー、あんがと。
じゃ早速で悪いんだけど、出立早めるからテオドールんとこ行ってくれる?
で、俺は今挨拶回りしてるって伝えといて」
「分かったわ」
「絶対離すなよ。俺が村を出て最低でも2時間は足止めして欲しい。なんなら泊まれ。1日中見張ってくれ」
「望む所よ。任せなさい!
ほら、さっさと行って。ストーカールーカス」
ストーカーはテオドールだって何度言や分かるんだ。ワガママ娘。
「へーへー。アイツの事よろしく」
「言われなくてもっ!
ふんっ。では先にテオドールのとこに行くわ」
「おー、さいなら」
「……せいぜい野垂れ死なない様に用心するのね」
素直じゃないねー。ツンデレか?
さて、俺がコツコツ準備してきた中で最も重要なのが、このミルだ。
コイツの粘り強さはテオドールにも勝るとも劣らずだ。
つまり、彼女しか足止め出来るヤツはいない。
頼んだぞー。
「じゃ、母さん行くわ」
「はいはい、いってらっしゃい」
出た。
ついに俺は村を出た!
本当に出たんだっ!
「ぃよっしゃーーー!!」
1時間も歩けば、少し大きな村に着く。
そこまで出れば荷馬車があるはずだ。
乗せてってもらおう。
歩く事1時間。
本当に乗せてくれた。
「ほら疲れたでしょう?
これお食べ」
「すみません、ありがとうございます」
王都に畑の野菜を売りに行くという老夫婦が、快諾してくれたんだ。
しかもこうやって、あんぽ柿みたいなオヤツまで恵んでくれている。
うまぁー。甘さが染み渡る。
「めっちゃ、うまいっす。
これも手作りですか?」
「嬉しいわあ。そうよ。ウチの孫はね、こういうの苦手なの。田舎くさいから嫌みたい。だから、若いあなたが褒めてくれて嬉しい」
「えー、こんなに上手いのに勿体ない」
「ふふっ。しばらく王都に住むの?」
「はい。知り合いの所でお世話になるつもりです」
「そう。じゃあ今度王都行く時に会えるかしら? 他にも色んな種類があるのよ? ぜひ食べて欲しいわ」
「俺も食べたいです!
売り場とか曜日が決まってたら教えて下さい。買いに行くんで」
「嬉しいねえっ! 約束だよ、坊や!」
お婆さんと喋りながら干し柿を食っているせいか、前世を思い出して優しい気持ちになった。
田舎のばあちゃん家で、干し柿いっぱい食わされたなー。
ばあちゃんのは、あんぽ柿というより、完全に干し切ってたけど。かな~り堅かった。
途中、休憩を挟みながら走らせる事まる1日。
「うわぁ。これが王都の門か!」
遠くに見えるのは、王都をぐるりと囲っているであろう厳つい城壁。
門の前には、俺が乗せてもらっている様な荷馬車がズラリと並んでいる。
「ハハッ、どうだい。すごいだろう」
「はい! デカイっすね」
「だろう? オイラも初めて見た時はたまげたよ。なあ、ばあさん」
「ふふっ。そうさね。
だけどこっからが大変だよ。見えるだろ? あの列。あれが時間がかかるんだよ」
だよね。列の長さがエグいもん。
こっから見えるって事は、よっぽどよ。
並ぶ事2時間半。ようやく王都に入る事が出来た。
もちろん全員が馬鹿真面目に並ぶわけじゃなくて、優先的にノーチェックで通る馬車もあった。
「じゃ、ここでお別れだよ。
アタシらは月初めに1度、あの先の市場で場所借りてんだ。
買わなくても良いから顔見せに来ておくれ! 生活が落ち着いたら、たんまり買っても良いからね」
「頑張りますっ」
親父が持たせてくれた路銀の7割を渡して、俺は老夫婦と別れた。
予定では2日かかる道のりを、お爺さんがまさかの1日で到着しちゃうもんだから、宿泊費が浮きまくったんだ。
だからそれも含めて渡すと、要らないって断られたんだけど、まあ押し付けたよね。
ありゃ見かけだけ老人の中身マッチョに違いない。有り得ない速さだもの。
「予定より早いけどディオンさん居るかな?」
教えてもらった地図を頼りに、道を聞きながら辿り着いたのは、屋敷だった。
…………あれ。間違った道、教えられた?
あの親切なお姉さん間違ってるんじゃね。
もう1回人に聞こう。
「あ、すみません。ココに行きたいんですけど」
「ん? なんだい兄ちゃん。目の前にあるじゃねーか。
その地図の家はここだよ。モンフォール伯爵邸」
はく、伯爵? 伯爵邸?
え、何。伯爵家で働いてるの?
俺どうすれば良いの、これ。
「ちなみになんですけど……ディオンと言う名に聞き覚えは」
「そりゃ、モンフォール家の次男の名前だな」
「マジか」
ディオンさんって貴族だったの?!
いや、まて。あのディオンさんは、本物のディオンさんなのか?
ここで伯爵家の門を叩いて、いざご対面したら別人、警備隊に引き渡される。的な事態にならないと言い切れるか?
どうすりゃ良いんだ! くそっ。
「おい、アンタ大丈夫か?」
「どうしようどうしようどうしよう」
「……ちゃんと教えてやったんだから、俺はもう行くぜ。
ったく、変な兄ちゃんだなー」
俺はいつの間にか、頭を抱えてしゃがみ込んでいたらしい。
と言うのも、現在俺は伯爵家の中で取り調べを受けている。
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