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旅立ち編

ラノベを夢見た少年

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 まず、俺の身の上話をしよう。

 京都市左京区に生まれ、小学校からは親の転勤に伴い東京へ。
 そのまま何事もなく。むしろMr.平凡と呼ばれても良いくらい、何もなく。
普通の友人付き合いに普通の家族、それなりに女性とも付き合った。
 就職先は、可もなく不可もなく平均的で、年収も平均値。
ここまで平凡・平均だと、それが特技にすら感じる。

 さて。何故こんな話をしたかというと、俺は13年前、通り魔に刺されーーーー死んだ。

 そして、俺の非凡な日々が幕を開けたのだ!
……というのは嘘で、普通に生まれ変わった。

 目が見える様になると、ここが異世界である可能性に気付いた。
つまり! 
何らかの神様都合ハプニングで転生。
俺TUEEEのラノベ展開が始まるに違いなかった。
 ワクワクと胸を躍らせた、赤ん坊の俺に「夢を見るな」と、言ってやりたい。

 前世の記憶があるせいか、赤ん坊の頃から思考がしっかりしているパターンは、だいたい妖精的な何かが見える。
もしくは、無詠唱で魔法が使える、だ。

 結論を言おう。
見えない、使えない。
 5才までは誤差の範囲だと粘ったが、無理だった。
では、大器晩成型だな。

 その希望は7才で砕かれる。
隣の家に、男の子が産まれた。
そう、彼こそが神に選ばれた男だったのだ!

 彼の両親は、いつも何もない天井を見上げて「きゃっきゃ」と、楽しそうにはしゃぐ姿を疑問に思い、ウチの親に相談した。
 が、彼等は父さんの「気にするな」の一言に何故か安心し、1年が過ぎた。
 1才にして、無詠唱の水魔法を行使した。
ちなみにびしょ濡れになる被害を被ったのは、この俺だ。
 2才になると、喋り方は他の2才児と変わらないが、明らかに文字を理解している素振りを見せた。
ちなみに気付いた理由は、俺が諦めきれずに買った『魔法入門書』を勝手に読んで、本の内容を全てマスターしてしまったからだ。それも、たった3日で。
 3才になると、社会人だった記憶を持つ俺と、スルッスル会話が出来た。スラスラじゃない、スルッッッスルだ。
 彼さえ居なければ、能力はなくても頭の良さで評判になれたはずなのにっ。くっ。
 4才。隠す事なく日本の話をし始めた。
お前、同じ転生者だったのか。え、じゃあ勇者的なアレ?
君が勇者で、俺は勇者を見送る村人Aってとこか?
 5才。天使の様な容姿に磨きがかかってきた。
まだ5才だけどな!
 村どころか、3つ先の村まで知れ渡っていたらしい。

 6才。コイツは俺の目の前で寛いでいる。



「ねぇ、終わった?」
「何が」
「だって、何か考えてたでしょ?
僕をジト目で見ながら、上の空だったもん」


 男がとか言うな。
だが違和感ないぞ、お前。
さすが美少年。


「いや~、黄昏てたんだよ」

「え。じじくさ。
ルーカス兄、まだ13歳だよね」

「お前にだけは言われたくない。
6才だろ? ピッカピカの1年生だぞ?」


 ここが日本であればな!


「えー。だって、記憶あるしぃ」


 テーブルに顎を乗せ、不貞腐れた様に上目遣いで見るテオドールこと、碇谷 翔。享年17歳。


「俺には意味ないぞ。
まずやるなら、もう一度生まれ変わって来い。
性別変えてからやれ」


 万が一、美少女に生まれ変わったら何でもしてやろう。
それはもう、至れり尽くせりで。


「いや、生まれ変わって、まだ6年だよ?!
ひどいなー


 うるさいやい!
 7年も早く生まれた俺が、何一つお前に勝てないなんて……ムリ。やだ。縁切りたい。
 つか何で、俺にばっかりくっつくんだ。
 同い年ぐらいの子と、交流を深めなさい。
 俺がお前の同年代の子供達にどんな風に思われているか、知ってるか?
人気者テオドールを独占する冴えない奴」だぞ。
 仲良くしたいのに、いつも一緒にいるせいで邪魔なのは分かる。妬む気持ちもモヤモヤするのも、分かる。
自然な事だし、態度に出されても構わないと思っている。
まぁ、みんな子供だし。
 だが、冴えない奴が悪というのは如何なものか。
 言うて君達のほとんどが冴えない俺と同類だ。棚上げは良くないぞ、ちびっ子共よ。
せめて、近所のお兄さんに改めなさい。  


「あー、誰だっけ、お隣の可愛い子」
「隣村? ミルのこと? それともバーバラ?」
「知らん、いつもツインテの偉そうなガキ」
「ミルだね。てか、可愛いって言ったくせに、偉そうなガキって……」
「事実だ」


 お隣、つまり隣村からテオドール目当てに足繁く、うちに通う幼女がいる。
見た目はかなり可愛いが、7才にして既に嫉妬の渦を体内に蓄積した様な子供だ。
 まあウザい。だいたい来る場所が間違っている。
 ココは俺の家であって、テオドールの家ではない。
そいつの家は出て右だー!


「ミルがどうしたの」
「あの子どうにかなんない?
うるさいったらありゃしない」
「ああ」
「ああ、じゃねえっ。
お前が相手しないから、俺にばっかり突っかかってくるんだよ」
「どんまい」


 マジこいつ腹立つ。


「嘘でも良いから、付き合ってやれよ。
デート1回だけでも良いからさ」
「は? 何で」


 まただ。コイツはすぐ頭に血が昇る。
不機嫌オーラが6才じゃねーんだよ。


「来る度来る度、文句言われるわけ。
テオドールを独り占めするなんて大人気おとなげないって」
「何がダメなの。イイじゃん、好きで一緒にいるんだから」


 いや、好きで一緒に居るんじゃない。
お前が俺のストーカーなだけだ。
俺は自由が欲しい!


「だからって、もうちょっと周りにも目を向けたらどうだ?
それに、あの子恐いんだよ」
「はっ。まさとさんは、7才の子供にビビってんの?」


 コイツ、鼻で笑いやがった。


「ちげーよ。あの子の家は、寂れた村には珍しい有力者なの! 知ってんだろ?
あの子がこの村によく来るから、塩とか家畜を安く融通してもらえてるんだぞ」
「だから?」
「だ~か~ら! 機嫌を損ねたら俺等だけじゃなくて、村全体に被害が出るんだよっ」
「ふ~ん。大変だね」


 コノヤロウ。
 いや、落ち着くんだ。あと2年の辛抱だ。
15歳になれば、独立が許される。
そうなりゃ、こんな村からは早く出て王都で暮らすんだ!
 村が幼いコイツを手放すとも思えないし、あと2年。あと2年待てば、俺は解放される!

 待ってろ、未来のお嫁さん!
もう恋人なんて言ってらんねぇ。テオドールに邪魔をされる前に結婚するんだ!


「ねぇ、まさとさん。今日泊まっていって良い?」
「あ? 今日の間違いだろうが。ちょっとは家にも帰れよ。親が心配するぞ」
「大丈夫。まさとさんと一緒って言えば、安心するから」
「何なの、その謎の信頼。

ーー泊めてやるから、メシの準備手伝え」
「やった。
ふふっ、まさとさん、だぁーいすき」
「おう。生まれ変わったらまた言ってくれ」
「ほんとそればっか……」
「うるせえ」




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